『CAPA』本誌連動企画として毎月公開している、月例フォトコンテスト「学生の部」ピックアップ作品レビュー。今回は『CAPA』2022年12月号より、誌面に掲載された入賞作品に加え、全応募作品の中から審査員の鶴巻育子先生が目を留めた“気になる作品”をピックアップしてアドバイスします。さらなるレベルアップのためのヒントが満載です!
〈講評〉鶴巻育子
1席「大笑いした日」
鰐渕真央 (新潟県長岡市 / 16歳 / 中越高等学校 / 写真部)
何がそんなにおかしいのかわかりませんが、わからないから気になりますし、楽しい気持ちが伝染するのかもしれません。手前にいる手を広げた男子生徒がこれから起こる未来を想像させ、ワクワクします。このような写真を見ると、スマホの実力を思い知らされます。
2席「忘れられない夏の旅」
吉田有輝 (岐阜県関市 / 18歳 / 関市立関商工高等学校 / 写真部)
デフォルメされた車体から未来的な印象を受けます。その反面、ノスタルジーを感じさせる色味とにじみ、絵のような空で非現実的な印象を与え、不思議な作品です。幼少期の家族旅行の思い出を見知らぬ家族に投影したことで、過去と未来の時間が写真の中に流れています。
3席「雨の日の憂鬱」(4枚組)
今泉日和 (愛知県豊川市 / 豊川高等学校2年 / 写真部)
湿度の高い写真群から、まさに雨の日の憂鬱が感じられました。特に人物の写真は目が隠れて不気味で引かれる写真です。どの写真も人が写っているのに人気を感じず、対象との距離感もあり、事物を一律に見ている作者の視点に興味を持ちました。
入選「過ぎ去ってしぼんだ夏」
大西芽那 (香川県坂出市 / 15歳 / 香川県立坂出商業高等学校 / 写真部)
ボサボサの赤い髪の毛、挑発的な姿勢と、ロックな雰囲気が漂う赤い花。萎んでいますが元気に見えます。一粒の雫がアクセサリーのようです。順光によって鮮やかな色味が再現されたのも良かった。
入選「時計停止」
後藤生蕗 (愛知県小牧市 / 16歳 / 愛知県立小牧高等学校 / 写真部)
浮いている時計。まやかしとわかっていても、透明人間や超能力のような不思議な現象に人は引かれるものです。ざらつきととろみのある背景に、硬い質感の時計の存在が際立ちました。
入選「眠らない街」
芥川佳弘 (東京都杉並区 / 16歳 / 杉並学院高等学校 / 写真部)
見慣れた新宿の夜景ではありますが、洋画に出てくる外国人が抱く東京のイメージがこれですね。改めて節操のない変な街だと気づきました。長秒露光による紅白の光跡が美しくて不気味です。
入選「誘い (いざない)」
森本羽音 (和歌山県田辺市 / 17歳 / 和歌山県立神島高等学校 / 写真部)
植物のシルエットが際立つ、視覚的に魅力のある作品です。哀愁ある後ろ姿に怪しげな雲の様子も相まって物語が生まれています。植物のフォルムが手のように見えて、タイトルとリンクします。
入選「海の音楽家」
名古屋明歩 (新潟県長岡市 / 16歳 / 中越高等学校)
ph08
ポーシングや背景のバランスなど綿密に計算した構成と露出で、メルヘンチックに美しく物語を描いています。シンプルなだけに、見る側の想像力も膨らみ、心地良さを覚える作品です。
入選「違和感」
野木光梨 (愛知県岡崎市 / 15歳 / 光ヶ丘女子高等学校 / 写真部)
額縁構図で自然と馬に目が誘導され、作者の眼差しが感じられました。顔が見えないぶん、作者が違和感を抱いた馬の体型に注目する効果も出ています。タイトルを変えてみることで、より作品の魅力が伝わると思います。
入選「十五歳」(4枚組)
泰地彩央 (和歌山県田辺市 / 和歌山県立神島高等学校 / 写真部)
日常の微妙な違和感をストレートに捉えたポテトとベッドの写真が強く印象に残りました。洗濯機に頭を突っ込んだ写真もストロボが効いていて面白い。右の抽象的な1枚でリズムが崩れたのが惜しかった。
ここからは、惜しくも選外となった作品の中から、鶴巻育子先生が気になった作品をピックアップしてアドバイスします。
サンバーンマッスル
石井秋稔 (神奈川県横浜市瀬谷区 / 17歳 / 神奈川県立瀬谷高等学校 / 写真部)
せっかくの筋肉質の肉体美よりも、気持ち悪さが際立つのが面白いと思いました。粘り気を感じる水、体の中心に伸びた影の線がよりグロテスクな印象を与えています。
首の部分と海水パンツは画面から外すくらいの大胆なトリミングで攻めると、さらにインパクトが増したでしょう。説明的にならないほうが面白いですね。
一人花火
矢澤悠汰 (新潟県長岡市 / 16歳 / 中越高等学校 / 写真部)
海を背景に少女が花火をするシーン。花火を見つめる虚ろな表情、指先まで緊張感のある仕草など細かい部分まで観察しているのが見受けられます。背後から光を当てることで立体感も出ていますし、背景の処理、空間の作り方など工夫が見られて、一枚を丁寧に仕上げる姿勢が素晴らしいです。
プリントした画像に違和感を覚えました。もう少し自然な雰囲気で出力すると、より美しさが感じられると思います。
まるで目のよう
酒井彩葉 (愛知県岡崎市 / 光ヶ丘女子高等学校 / 写真部)
眼鏡の中に映る花火を捉え、背後に実際の花火をぼかして重ねたアイデアが光る美しい作品です。画面内に丸いフォルムがいくつもあって、パターンを作っていることで面白さが出ています。
右側片方のレンズだけで、もっとシンプルに構成する手もあったと思います。そうすることで、より丸いフォルムが強調されることになります。