前川貴行さんのフォトエッセイ『動物写真家の記憶』が発売された。
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数点の写真にエッセイを添えた24篇を収載。過去の思い出を綴ることもあるが、多くは撮影のエピソードと写真にまつわることだ。前川さんは野生動物を求めて自然の中を歩き回っているわけだが、このエッセイを読んでいてふと気づく。そうした彼も被写体と同じ、獲物を追い求めて生きる動物の一つなんだと。
熊と対峙したとき、「食物連鎖に組み込まれたことを悟る」と言う。同じ土俵の上で生きているのだ。幾度かは子どもの誕生にも遭遇したことがある。だが、自身の子どもが生まれたときにはフリーになりたてだったので、出産の付き添いは友人に委ね、海外取材に出掛けたそうだ。
厳冬期の撮影では、指先が凍傷になりかけたこともある。シャッターを押す指だけ手袋は薄手なので、撮影に集中し、気づくと皮膚が紫色に変色していた。冬以外はダニが厄介で、身体のどこかに食い付いてくる。右目が霞むと思っていたら、まつ毛の根元でダニが成長していたこともあった。
写真にはそうした背景は一切写らないが、知れば自ずと写真の見え方も変わってくる。初出は『日本カメラ』で、2018年1月号から2年間の連載を再構成した。
前川貴行『動物写真家の記憶』
体裁 A5判・192ページ
価格 3,410円(税込)
発売日 2023年3月31日
発行 新日本出版社
前川貴行 (Takayuki Maekawa)
1969年、東京都生まれ。エンジニアとしてコンピューター関連会社に勤務した後、26歳の頃から独学で写真を始める。1997年より動物写真家・田中光常氏の助手を務め、2000年よりフリーの動物写真家としての活動を開始。 日本、北米、アフリカ、アジア、そして近年は中米、オセアニアにもそのフィールドを広げ、野生動物の生きる姿をテーマに撮影に取り組んでいる。TBS「情熱大陸」、NHK-BS「プレミアムカフェ」などに出演するほか、動画撮影、写真展、写真集などさまざまなメディアで作品を発表している。近著に『生き物たちの地球 1』(朝日学生新聞社)、『しまふくろうの森』(あかね書房)、『ハクトウワシ』(新日本出版社)、『SOUL OF ANIMALS』(日本写真企画) などがある。2008年日本写真協会賞新人賞、2012年第1回日経ナショナル ジオグラフィック写真賞グランプリ受賞。公益社団法人 日本写真家協会理事。
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〈文〉市井康延