一般社団法人 日本写真文化協会が主催する「第71回全国展フォトコンテスト」の表彰式が2025年5月28日、東京・上野の東京都美術館で開かれた。会場には受賞者が集まり、受賞作を投影しながら表彰を受けた。
応募総数は945件・1,888点。13歳から95歳までの幅広い年齢層が参加した。例年、学生の応募が多く、今年も315件・708点が寄せられている。学生の部の金賞を受賞した「ルーティーン」(福井県立丹生高等学校2年・加藤和奏さん) は、日本写真文化協会賞にも選ばれている。

審査を担当した写真家の辰野清さんと、菅原隆治『CAPA』編集長が上位入賞者への講評を行ない、同協会の田中秀幸会長とともに受賞者へ賞状、副賞を贈った。

内閣総理大臣賞「送り火」石津武史さん (奈良県)
撮影地の元興寺は日本最初の本格寺院である飛鳥寺を前身とする名刹で、夏には地蔵会万燈供養が催される。石津さんは送り火から着想し、魂や烏が浄土に帰るイメージと、僧侶の姿を組み合わせた。「送り火は小さくプリントした方が見てもらえると思いました」。
長年、大阪の釜ヶ崎でボランティアをしながら、そこに住む人たちの姿を収めてきた。その写真で2018年 第24回土門拳文化賞に選ばれている。
学生の部金賞「ルーティーン」加藤和奏さん (福井県立丹生高等学校)
学生の部金賞を受賞した加藤さんの家では、日々の暮らしの中、毎朝、家族が決まって行なうルーティーンがある。そこに気づき、新聞を読む祖父、台所仕事をする祖母、登校する妹の姿を選び、満足いく1枚が得られるまで撮影した。「良い光を選び、自分ならではの視点で掬い取っている。妹さんの後ろ姿は絶妙な一瞬で、特に素晴らしい」と菅原編集長は評価した。
加藤さんが好んで撮るのは、家族と写真部の仲間たちとの楽しい時間だ。将来は医療関係に進み、写真は趣味で撮り続けたいと話す。
文部科学大臣賞「流転」相川頼之さん (千葉県)
相川さんは昨年、舞妓さんをモチーフにした「京の夕暮れ」で内閣総理大臣賞を受賞した。「物語性がないと選ばれないので、今回は最初にテーマとタイトルを決めました」と話す。応募締切日の近くまで、これまで撮った写真を見返し、セレクトした。「撮影時のことを思い出しながらするこの作業は至福の時間でした」。
雪の白川郷と、伊根の舟屋の一本桜を対比させた。和紙を使い、雪景色の白さと闇の深さをより印象深く表現した。
文部科学大臣賞「時間の彫刻」永田久美子さん (長崎県)
永田さんは医療事務で働きながら、10年ほど前に写真を始めた。フィルターワークに興味があり、カメラの操作法を学ぶため写真教室に通った。「ファンタジーが好きで、想像の中のものを表現したい。生と死、破壊と再生など、生命の尊さや美しさを形にしたい」。
受賞作はかなり以前に、写真教室のモデル撮影会で撮った。モデルの彼女もアーティストで、数年後、彼女に会ったとき、自然と体のパーツをリンクさせた彼女の作品を見た。「“人間の身体には自然界に存在するすべての要素がある” と聞き、心に刺さりました」。人物写真を縦位置に組むことで、ただの人ではなく、見え方が多様に広がるのではと思い、かつて撮った写真を組み直した。
第71回全国展フォトコンテスト 発表展 (大阪展)
会期 2025年9月19日 (金) 〜25日 (木)
会場 富士フイルムフォトサロン 大阪
受賞作、選評などは日本写真文化協会「全国展フォトコンテスト」公式サイトで見られる。
https://sha-bunkyo.or.jp/contest/
〈取材〉市井康延