ライカの35mmカメラ「ライカI」が誕生100周年を迎えたことを記念したワールドワイドのイベントが、2005年1月のドバイを皮切りにミラノ、ニューヨーク、上海、ライカ本社のあるドイツ・ウェッツラーで開催されてきた。そして最終地となる東京で、「ライカの100年 : 世界を目撃し続けた1世紀」展が、東京・青山のスパイラルガーデンを会場に10月26日まで開催中だ。17日に開催されたプレスカンファレンスと会場の様子を紹介しよう。
プレスカンファレンスでは特別限定モデルも発表
まず、ライカカメラジャパン代表取締役の福家一哲さんが、ライカが革新と想像を重ねて歩んできた100年について語り、続いてライカカメラ社の監査役会会長であるアンドレアス・カウフマンさんが登壇した。

日本で「ライカI」が発売されたのは1925年のこと。1905年頃、東京に設立されたシュミット商店によって輸入されたのが最初だ。

その後、ミノルタとの協業をはじめ、富士フイルム、パナソニックなどとも協業し、シャープはライカが全面監修したスマートフォン「Leitz Phone (ライツフォン)」(日本国内限定) を製造するなど、ライカと日本の光学メーカーとは、さまざまな場面で深い関係を築いてきた。
ライカの発展には日本の光学メーカーとともに歩んできたことが大きく影響していることから、100周年イベントの最後の地として東京が選ばれたのだと説明してくれた。また、今回の来日では、シュミット商店の創業者であるパウル・シュミットの顕彰碑がある箱根を訪れる予定があることも明らかにされた。

将来の計画についてはコメントしないのがライカなのだが…と前置きしたうえで、今後の製品について一言コメントがあった。それは、カメラに対する興味の入口となっているのは今ではスマートフォンであることから、誰もが手にしているデバイス、つまりスマートフォンを軸に未来を見ているということだった。ライカはスマートフォンアプリ「Leica LUX」をiOS向けに提供している。また、Android端末ではいくつかのメーカーとカメラ機能で共同開発をしており、製品化もされている。

次に登壇したのは、世界中のライカギャラリーを統括するライカギャラリー・インターナショナル代表兼アートディレクターであるカリン・レーン=カウフマンさん。ライカはカメラの生産だけでなく、写真文化の発展についても重視しており、写真家が活動できる場所や空間を世界中に提供することにも力を入れているのだと説明した。その部分を担っているのがカリンさんだ。カリンさんは「ライカ・オスカー・バルナックアワード (LOBA)」を通じて新しい才能を発掘する活動も行なっている。また、アンドレアス・カウフマンさんの奥さんでもある。
カリンさんは「LEICA」の文字になぞらえて、ライカの思想をわかりやすく解説してくれた。
- L ライカが関わってきたものが写真の歴史をかたち作ってきたという「レガシー」。写真そのものがライカにおいても日本においても「ライフスタイル」の一部になっている。
- E 卓越したクオリティによる「エクセレンス」。日本の匠への思いと写真を通じて長く心に残る「エモーション」。
- I 伝統的なものと未来との融合による「イノベーション」。一瞬を捉える写真が宝物となる「一期一会」。これは、あえて日本語から選ばれた。
- C 日本の職人技術にも通じる「クラフトマンシップ」。ライカギャラリーなどを通じて世界中のアーティストが繋がる「コミュニティ」。
- A 本物や真正性を示す「オーセンティシティ」はライカのスピリッツでもある。日本文化にも通じるタイムレスさや美学による「エスセティクス」。
ライカギャラリー表参道で開催中の写真展「In Conversation: A Photographic Dialogue Between Elliott Erwitt and John Sypal」に、写真界の巨匠であるエリオット・アーウィットさんの作品とともに出展している米国人写真家 ジョン・サイパルさんが紹介され、カリンさんとトークセッションが行なわれた。この写真展は「ライカI」誕生100周年を記念して、12のライカギャラリーで順次開催されているもの。ライカギャラリー表参道での展示はその第10章にあたる。
写真展のテーマとしているのは「過去と現在の写真の対話」。現代の才能ある写真家と「ライカ・ホール・オブ・フェイム・アワード」受賞者による作品を一緒に展示する写真展だ。東京を拠点として活動するサイパルさんとアーウィットさんによる、時代を超えた写真の対話が繰り広げられている。

続いてライカカメラ社CEOのマティアス・ハーシュさんが登壇し、日本市場におけるライカの状況を詳しく解説した。およそ90億円のセールスがある日本は、売上でドイツとNo.3の座を常に争うライバルなのだという。多くのカメラメーカーが存在する日本でビジネス的に成功を収めていることを喜ぶとともに、日本チームの献身的な働きを讃えた。

そして最後に登壇したのが、ライカカメラ社の副社長でカメラや写真のデザインを担当するステファン・ダニエルさん。ライカのカメラ作りにおける哲学をあらためて解説した。持ち運びできる小型カメラ「ライカI」の登場で、写真家が自由に動きまわって撮影し、その場で起きていることを捉えて伝えることができるようになった。それが100年前にライカカメラが多くの人に受け入れられた大きな理由だという。これは単なる技術的革新ではなく、文化的なシフトを引き起こしたのだとダニエルさんは語る。
その後もライカは、時代が進む中でも常に「伝統の尊重と変化の受容のバランス」を慎重に行なってきた。ライカの考える革新は、常に明確な目的に導かれており、新しさのための機能追加ではないのだと語る。真の革新は撮影体験を向上することであって、写真家と被写体の結びつきをより直接的にすることだ。ライカにとってはそれが技術的な発展の原動力であって、そのためにシンプルさを追求するという姿勢に変わりはない。それがライカのスタイルなのだと語った。そして「ライカM11 100 Years of Leica “TOKYO JAPAN”」」が発表された。

「ライカM11 100 Years of Leica “TOKYO JAPAN”」は100周年イベントが開催されたドバイ、ミラノ、ニューヨーク、ウェッツラー、上海、東京の各都市で、それぞれ100台限定で生産された「ライカM11 100 Years of Leica」の東京バージョンで、トップカバーには開催地であるTOKYO JAPANの文字が、ホットシュー部分にはシリアルナンバーが刻印されている。

昼も夜も楽しめる! 見どころ満載の「ライカの100年 : 世界を目撃し続けた1世紀」展
会場のスパイラルガーデンは、ゆるやかな傾斜のある螺旋状のスロープが特徴の展示会場だ。ホール中央には「ライカI」が展示されている。それを中心とするようにライカの年表が螺旋状に設置され、ライカ100年の軌跡をひとつの “渦” で表現している。壁面にはライカで撮影した著名な作品が展示されていた。


1925年から2025年までの歴史を綴った年表は、透ける素材の両面にプリントが施されているので圧迫感を感じることがなく、会場の広さを感じながら見ることができる。
スロープの下に設けられたショーケースには、特別モデルや現行製品のラインアップが展示されている。このショーケースも会場のレイアウトに合わせて、ゆるやかにカーブしている。
もうひとつのショーケースには、ドイツのシュタイフ社とコラボしたテディベア「Cuddle」、スマートフォンをカメラのように扱える「Leica LUXグリップ」、ライカが全面監修したスマートフォン「Leitz Phone 3」、ライカWatchなどが展示されていた。

ライカカメラジャパンと吉田カバンによるコラボアイテム「Leica × PORTER BACKPACK with CAMERA CASE」も展示されていた。「ライカI」誕生100周年と吉田カバン創業90周年を記念したもので、13インチのPCが収納可能なバックパックとカメラインナーバッグ、アクセサリーポーチの3点セット。特別にデザインされたシリアルナンバー入りの「ライカI」100周年記念タグが取り付けられた100点限定のスペシャルアイテムだ。すでに完売となってしまっているが、会場では実際に触ってみることもできた。
ホールに続くエントランス部分には、ライカに関する貴重な資料とともにライカの歴史の中でも特に注目されるカメラが展示されている。中には日本初公開のものもある。








壁面には、植田正治×福山雅治写真展「Visual Conversation」の作品を展示。こちらも見ごたえのある作品群だ。
夕方から始まったオープニングレセプションは大勢の招待客が訪れ、盛大に行なわれた。


外光が入る会場のため、夜になると会場の雰囲気が一変する。暗くなった会場の壁面には、カリン・レーン=カウフマンさんがキュレーションした100点の写真作品がプロジェクション映像として投影される。日中だけでなく時間を変えて会場を訪れてみると、また違った雰囲気で展示を楽しめるはずだ。
