大正時代に一世を風靡した“ベス単”をカラー写真で蘇らせた 植田正治写真展「べス単写真帖 白い風」

植田正治写真展「べス単写真帖 白い風」が、2022年6月30日から開催される。

植田正治写真展「べス単写真帖 白い風」
© Shoji Ueda

■展示作品ギャラリー

 

生涯、生まれ故郷の山陰地方に留まり、アマチュア精神に貫かれた遊び心と旺盛な実験精神で、写真の新しい地平を築いた植田正治 (1913-2000)。独特の感性で創り出された作品は、時代や国境を超えて高い評価を受けるとともに、今なお多くの人々に愛されている。

日本の芸術写真が隆盛を極めた大正時代、青年期の植田正治はアマチュア写真家たちの間で流行した「ベスト・ポケット・コダック」という単玉レンズ付きカメラを用いた。通称「ベス単」による、レンズフィルターのフードを外して撮影することで得られる独特のソフトフォーカス効果を黒白撮影に取り入れたのだ。

「白い風」は、それから半世紀後、植田正治がその「ベス単」の撮影手法を改めてカラー写真で蘇らせた、日本の風景シリーズだ。撮影には、当時最新のネガカラーフィルム「フジカラー F-II」が使われた。

本展では、1981年に日本カメラ社から刊行された写真集『白い風』の入稿原稿として使用された当時の貴重なプリントから、40点を精選し展示する。本作に対し、植田正治は次のような言葉を残している。

「この蒼然たる芸術写真を現代風カラーネガ法による天然色写真に再現したら、いかなるものができるのであろうかというのが発想源で、これがいたくわが好奇心を刺激したことなのであります」

植田正治写真展「べス単写真帖 白い風」

会期 2022年6月30日 (木) ~9月28日 (水)
会場 フジフイルム スクエア 写真歴史博物館
住所 東京都港区赤坂9-7-3 東京ミッドタウン・ウエスト
時間 10:00〜19:00 (最終日は16時まで、入館は終了10分前まで)
休館日 会期中無休
入場料 無料
問い合わせ フジフイルム スクエア (TEL 03-6271-3350)

 

 

植田正治 (Shoji Ueda)

植田正治
Photo : Tetsu Tamaoki

1913年、鳥取県西伯郡境町 (現・境港市) 生まれ。中学生の頃、写真に出会い夢中になる。1932年、東京のオリエンタル写真学校に入学。卒業後、19歳で郷里に営業写真館を開業。この頃より、写真雑誌や展覧会の入選などで頭角を表し、特に砂浜や鳥取砂丘での独創的な群像演出作品が注目される。1950年代はじめに主流となったリアリズム運動などで演出写真は中断するが、1971年の写真集『童暦』の刊行によって再評価の機運が国内外で高まる。特にヨーロッパでの評価が高く、1978年、1983年にアルル国際写真フェスティバルに招待される。1978年文化庁創設10周年記念功労者表彰、1988年第4回東川賞国内作家賞、1989年日本写真協会功労賞、1996年フランス共和国芸術文化勲章シュヴァリエ、1998年第1回鳥取県民功績賞などを受賞。1995年、鳥取県西伯郡岸本町 (現・伯耆町) に植田正治写真美術館開館。2000年、逝去 (享年87)。
→ 植田正治写真美術館

 

〈文〉鬼沢幸江