半世紀にわたる膨大な作品群に圧倒される 野町和嘉写真展「人間の大地」8/31まで開催中

野町和嘉さんの写真展「人間の大地」が、2025年8月31日まで開催されています。

野町和嘉写真展「人間の大地」
野町和嘉「カイラス山を巡礼する娘。西チベット」1990年

 

蒼穹の下に開けた地平線と、古来より連綿と続く人々の営みに魅せられた野町和嘉さん。深い信仰が人々の暮らしを形作っている、しかし外部の者が容易には近づくことのできない土地を目指して旅を続けました。膨大な作品群には、過酷な風土の中で暮らす人々の息遣いと生き抜く意志が宿っています。

本展覧会では、「サハラ」「ナイル」「エチオピア」「グレート・リフト・ヴァレー」「チベット」「メッカとメディナ」「アンデス」の7つのテーマで代表作品を紹介、50年にわたる活動の足跡を辿ります。

野町和嘉写真展「人間の大地」
館内の様子。7つのテーマごとに展示されています。

■野町和嘉さんのコメント

25歳でサハラを訪れてから50余年が経ちました。いま振り返ってみると、当時はいろいろ無茶をしていた。蔵王出身の友人からヨーロッパのスキーツアーに誘われて、でも私は高知出身ですからスキーなんてやったことがなかったので行く前に特訓を受けて、シャモニやツェルマットに滑りに行ったんです。パリに戻って、さて次にどこへ行こうかと地図を広げてみると、地中海を隔てた先に北アフリカがある。ポンコツのシトロエンを買って、スペインからジブラルタル海峡を渡りました。そしてサハラと出会い、いっぺんに魅了されました。アフリカでは次の扉があり、開けてみると大河ナイルがあった。そして中東、メッカ、中国の長征と広がり、チベットと出会います。その土地に生きる人々の習俗や宗教を知り、通ううちにさまざまなものが見えてくる。アンデスやガンジスもそうです。

まだ情報のない時代に、好奇心のかたまりだった自分がたくさんの人と出会い、背中を押してもらって、興味の赴くまま撮影に取り組んできました。画一化された現代ではもう存在しない、あの時代だから撮れたものがある。さまざまな機会に恵まれて撮影を続け、作品を発表してきました。今回こちらの美術館で展示を見ていただけることを幸せに思います。

野町和嘉写真展「人間の大地」
「若いころはたくさん無茶をしていた」と語る野町和嘉さん。

■世田谷美術館・橋本善八館長のコメント

広大な砂丘をはじめその土地の作品には、生命が存在している。私たちの想像では計り知れない環境の中で、命をつなげ続けてきた人たちの暮らしや祈りや生き様や風俗、それがどの作品にも記録されています。野町先生と被写体との距離は作品によりさまざまではありますが、被写体の息遣いを十分伝えてくれる。それを強く感じました。ぜひ多くの方々に鑑賞していただきたいと思います。

なお8月2日には、これらの作品について写真家・野町和嘉でなければ語れないこと、どのようにして生まれたのかを伺える講演会が開催されますので、ぜひお越しください。

野町和嘉写真展「人間の大地」
世田谷美術館の橋本善八館長。

■撮影機材なども展示

野町和嘉写真展「人間の大地」
取材で使用されていたカメラ。一眼レフは「キヤノン F-1」など。
野町和嘉写真展「人間の大地」
タッシリ・ナジェールの壁画は、この「リンホフ テクニカ」で撮影されました。
野町和嘉写真展「人間の大地」
パスポートや入域許可証、取材パーミットなども展示。

野町和嘉写真展「人間の大地」

会期 2025年7月5日 (土) ~8月31日 (日)
会場 世田谷美術館 1階展示室
住所 東京都世田谷区砧公園1-2
時間 10:00〜18:00 (入場は17:30まで)
休館日 月曜 (7月21日・8月11日は開館、7月22日・8月12日は休館)
入場料 一般 1400円、65歳以上 1200円、高大生 800円、小中学生 500円、未就学児無料
主催 世田谷美術館(公益財団法人せたがや文化財団)
後援 世田谷区、世田谷区教育委員会、公益社団法人日本写真家協会、全日本写真連盟
協賛 キヤノンマーケティングジャパン株式会社
企画協力 株式会社クレヴィス
問い合わせ 世田谷美術館 (TEL 050-5541-8600)

講演会「人間の大地を踏みしめた50年を振りって」

日時 2025年8月2日 (土) 15:00~16:30
会場 世田谷美術館 講堂
講師 野町和嘉
定員 140名 (先着順)
参加費 無料
参加方法 当日14:00より講堂前にて整理券を配布

 

野町和嘉 (Kazuyoshi Nomachi)

1946年、高知県生まれ。杵島隆氏に師事した後、1971年にフリーの写真家となる。1972年のサハラ砂漠への旅をきっかけとして、ナイル川、エチオピアなど、アフリカを広く取材する。1980年代後半からは、過酷な風土を生き抜く人々の営みと信仰をテーマとして舞台を中近東、アジアに移し、長期の取材を続ける。2000年代以降は、アンデス、インド等を中心に取材。『サハラ』『ナイル』『チベット』『メッカ巡礼』『地球巡礼』など多くの写真集が国際共同出版される。東京、ローマ、ミラノ、台北ほかで「聖地巡礼」展を開催。土門拳賞、芸術選奨文部大臣新人賞、日本写真協会国際賞など受賞多数。2009年紫綬褒章受章。日本写真家協会名誉会員。
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