2017年7月、福岡県宗像市の沖ノ島と関連遺産群が世界遺産に登録された。立ち入りが厳しく規制されている沖ノ島を、登録決定直前に取材した写真記者がいる。その撮影の舞台裏と機材へのこだわり、そして「神宿る島」を写し出すために使ったレンズとは!?
2017.5.27 沖ノ島・宗像大社沖津宮 現地大祭
島全体が宗像大社沖津宮の御神体となっている沖ノ島。毎年5月27日に開かれる現地大祭は一般人が参拝できる唯一の機会だったが、2018年からは、資産保護のため一般人の上陸が全面禁止となる。この写真は、一般参拝が許された最後の現地大祭での貴重な記録となった。森の中に鎮座する社殿と多数の参拝者を、EF16-35mm F4L IS USM で入れ込む。広角端でも歪みのない描写が得られた。
キヤノン EOS-1D X Mark II EF16-35mm F4L IS USM シャッター優先オート 1/100秒 F5.6 −1/3補正 ISO1600 WB:オート
長年の思いが実現! 写真記者自らが企画した沖ノ島取材
「祖母から キヤノン EOS 55 をプレゼントしてもらっていなかったら、違う人生を歩んでいたでしょう」
こう大学生時代の写真との出会いをふり返る産経新聞 東京本社 写真報道局の松本健吾さん。写真記者歴およそ8年、中堅クラスの報道カメラマンだ。
産経新聞の写真報道局は大きく、スポーツ担当とニュース担当に分かれており、松本さんはずっとニュース担当として災害や経済ネタ、季節物など多岐にわたるトピックを取材してきた。そのなかでも今年前半で特に印象深く残っているのが、日曜朝刊グラフ面『写view』だ。
「写真記者自らがリサーチして企画を提出し、撮影から原稿執筆までを手掛けるので、充実感というか、やりがいがより強く感じられます」
その企画の一つとして採り上げたのが「沖ノ島」である。カメラを贈ってくれた祖母が福岡県宗像市に住んでいることもあり、昔から立ち入りが厳しく禁じられているなど神秘的な沖ノ島の伝承を耳にしており「いつかは取材したい」と常々、考えていた。
「あれこれ書籍や資料映像などを調べながら取材の打診を進めていくうちに、年に一度だけ一般の人の上陸が許される5月27日の現地大祭のメディア枠が空いていると聞き、急きょ申し込みました。幸い大阪本社や西部本部からの参加表明がなかったため、東京本社の自分が取材に行かせてもらえました」
いざ宗像大社から取材許可が下り、沖ノ島取材で使用するレンズを選ぶ際に松本さんが重視したのは「機動性の高さ!」だという。
あえてF4レンズに揃え、機動性と描写性の高バランスを実現
沖ノ島取材にあたり、開放F4のLズーム2本「EF16-35mm F4L IS USM」「EF24-105mm F4L IS II USM」を軸にラインナップ。どちらも、取り回しの快適さ、ズーム全域にわたる高品位描写に「安心して被写体に集中できました」と松本さんは白い歯を見せる。
EF16-35mm F4L IS USM(左/EOS-1D X に装着)と EF24-105mm F4L IS II USM(右/EOS-1D X Mark II に装着)は、高品位な描写で特にお気に入りの2本。「甲乙つけがたいですが、広角特有の強めのパースが気になる場面もあるので、あえて好みをいえば、EF24-105mm F4L IS II USM が半歩リードです(笑)」と松本さん。
沖ノ島撮影の携行機材
多様な状況に対応すべくLズーム3本で焦点距離16~400mmを確保。通常は EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM ではなく EF70-200mm F2.8L IS II USM を愛用。動きやすさ優先で、島への三脚の持ち込みは直前に中止した。
〈カメラ〉EOS-1D X Mark II、EOS-1D X 〈レンズ〉EF16-35mm F4L IS USM、EF24-105mm F4L IS II USM、EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM 〈その他〉スピードライト 600EX-RT、カード:CFast 64GB/16GB(EOS-1D X Mark II)+ CF 32GB/16GB(EOS-1D X)、ノートPC、衛星通信機器、カメラザック(thinkTANKphotoエアポート・コミューター)、脚立、三脚
カメラバッグの中を拝見!
画質も機能も満足している
「過酷な報道現場では防塵・防滴構造がとても心強く、約4段分(シャッター速度換算)の手ブレ補正機構ISも魅力。揺れる船からの島影撮影でも、小刻みな振動などが抑えられ、だいぶ助けられました」と語ってくれた。
ロックボタン搭載も高評価
EF24-105mm F4L IS II USM で新たに採用されたズームリングのロックボタン。「歩き回っている途中でズームが知らぬ間に伸びたりしないので、携行しやすいです」。地味ながら嬉しい、“通好み”の進化だとか。
降雨対策をつねに意識する
沖ノ島の撮影は晴天だったが、にわか雨など万が一に備えてレインカバーを準備した。いくら防滴性の高い機材でも、念には念を入れるのが報道カメラマンのセオリーだ。普段からカメラバッグのポケットなどに収めている。
報道ならではの衛星通信機器
砂漠などの通信インフラが整っていない地域や、大規模災害現場で通信が寸断されている環境などから写真を送るために必要なのが、衛星通信機器だ。よく知られているのが「インマルサット」。これは「ビーギャン」と呼ばれる端末で、3G携帯電話とほぼ同等のデータ通信と音声通話が行なえる。
さまざまな制約の下、EFレンズに触発された
「資料によると、沖ノ島の沖津宮までの参道はけっこう険しく、急な坂道なども上らなければならないようでした。あと島までは小さな船で玄界灘を渡っていくので、多少潮をかぶってしまうケースも想定し、より高い防塵・防滴性も考慮しました。また、ニュース面だけでなく日曜版の『写view』へ大きく掲載することも考えると、画質にもこだわりたかった。それで選んだ主力レンズがF4通しのLズームです」
その判断は正解だった。滞在は3時間ほど。ロケハンもできず、とはいえ少しでも自分なりの視点で撮ろうと撮影ポジションやアングル、レンズの画角を工夫しながら狙い、結果、翌日の朝刊にストレートニュースとして載り、当初の計画であった日曜版にはバリエーションの違う5点の写真が組まれた。
「じっくり見直してみると、改めてEFレンズの潜在能力に驚かされます。EF16-35mm F4L IS USM は広角端の周辺像が流れず、逆光特性も良好。EF24-105mm F4L IS II USM はテレ側の解像感も高く、クリアな画像を得られましたからね。レンズはやはり、機動性・堅牢性・描写性が高いレベルでバランスしていることこそ大事だと思います。どんなに素晴らしい光学性能を備えていても、かさばってしまい現場到着が遅れてしまったり、レンズに不具合が起きてしまっては意味がないじゃないですか(笑)。その意味で、僕はEFレンズを信頼しています。きっと、これからも」
終始にこやかだった松本さんの表情が一段ときらめいた。
沖ノ島撮影の裏話をインタビュー
ここで紹介した現地大祭の写真と、『CAPA』9月号で紹介した沖ノ島の写真2点について、松本さんに撮影エピソードを伺った。
機材庫には長玉などがズラリ
広角ズームと標準ズーム、さらに70~200mmズームは個人貸与の機材だが、数の限られる EF400mm F2.8L IS II USM や EF500mm F4L IS II USM などは共用機材として原則、取材ごとに各自申請する手はずになっている。
沖ノ島で活躍した2本のズームレンズ
キヤノン EF24-105mm F4L IS II USM
広い画角をカバーする人気の高性能標準ズームレンズがリニューアル。最新の光学設計やコーティングの採用により描写性能を向上させ、操作性も追求している。防塵防滴構造に加え、フッ素コーティングやシャッター速度換算で4段分の手ブレ補正IS機構を新たに搭載。
http://cweb.canon.jp/ef/lineup/standard-zoom/ef24-105-f4lii/
キヤノン EF16-35mm F4L IS USM
画面の隅々までシャープに描写する超広角ズームレンズ。こちらも防塵防滴構造やフッ素コーティング、シャッター速度換算で4段分の手ブレ補正IS機構を搭載。ズーム操作における耐久性と鏡筒部の耐振動衝撃性も強化しており、過酷な撮影環境にも対応する。
http://cweb.canon.jp/ef/lineup/wide-zoom/ef16-35-f4l-is-usm/
プロフィール
産経新聞 東京本社 写真報道局 松本健吾さん
1978年、東京生まれ。大学時代は写真部に所属、中東や中国などを旅する。2005年、産経新聞入社。写真記者を望むもペン記者として採用され、東北総局に配属。その後、山形支局を経て2009年に東京本社写真報道局へ異動。念願の写真記者となる。趣味は読書。
〈協力〉東京写真記者協会 〈取材〉金子嘉伸 〈取材撮影〉山田高央