読者の皆さんは「LAOWA」というレンズメーカーをご存じだろうか? 最近立ちあがったレンズメーカーで、デジタル一眼レフ、ミラーレス用の様々なレンズを市場に投入しているメーカーだ。昨年ドイツのケルンで行われた「フォトキナ」にも出展しており、筆者はこのフォトキナでLAOWAを見かけ「世界には面白いレンズメーカーがあるなぁ・・・」と思っていた。
そして月日は流れ、今回、LAOWA 9mm F2.8 ZERO-Dを試す機会があり、フォトキナで気になっていたこともあり一も二も無く飛びついたのだった。
APS-Cフォーマット対応の広角単焦点レンズ「LAOWA 9mm F2.8 ZERO-D」。実売価格は6万3909円。フジフイルム X/キヤノン EF-M/ソニー FEマウント用がそれぞれ発売されている。
LAOWAレンズとは
さて、ここでLAOWAというレンズメーカーについて簡単に解説しておこう。
2013年に中国で立ち上がったメーカー。2015年1月に最初のレンズ「60mm F2.8 Ultra-Macro」を発売。その後、レンズ本数を増やし世界30か国で販売。日本には2016年3月に双眼鏡、望遠鏡などの光学製品のメーカー「サイトロンジャパン」が日本総代理店になり、上陸を果たした。
2019年2月現在、日本で販売されているレンズは、マジックシフトコンバーター(自社レンズのLAOWA12mm F2.8 ZERO-D[ キヤノンマウント]を17mm F4のソニーEマウント対応のシフトレンズ[シフト移動量は+/-10mm]として使用することが可能となるアイディア商品)を含め、単焦点、広角ズームレンズ、マクロレンズなど様々なマウントに対応したレンズ10本がラインナップされている。ラインナップされているレンズは、1本1本に個性があり、撮り手の必要に寄りそった面白い仕上がりになっている。
筆者は、ドイツのフォトキナで幸運にもLAOWA代表の李大勇さんとお話しする機会に恵まれた。
李氏は、日系レンズメーカーの開発部門に勤めていた経歴があり、流暢な日本語でレンズ1本1本を丁寧に解説してくださった。なにより、「撮り手の想いに寄りそったレンズ」を開発テーマにし、作り上げたレンズは1本1本に李氏の思い入れを感じるものであった。
このとき李氏が「楽しく撮れるレンズを作りたかった!」とこぼれるような笑顔で話していたのも印象的であった。写真が好き、撮ることが好きという李氏の人柄が垣間見られたようで、またLAOWAというレンズは、撮り手の「必要」から生まれたアイディアレンズなのだろうと思うに至った。
なお、詳しいレンズラインナップに関しては、LAOWAのHP(https://www.laowa.jp/)でご確認いただきたい。
LAOWA 9mm F2.8 ZERO-Dが持つ個性――「ZERO-D」って何?
ここで、レンズの名前にもなっている「ZERO-D」について解説しよう。
このZERO-Dとは、「歪曲収差」を極力少なくすることを目指したことを表していて、ほかのLAOWAレンズにも冠されている。
ここで改めて歪曲収差について説明しておこう。
歪曲収差とは、ちょっと難しい言い方をすると「水平垂直を正確に取り、撮影面と撮像素子面の水平を保った状態で結像された像が歪曲されて結像してしまう現象」のこと。これだけではわかりにくいので、もっと簡単に実践に置き換えて説明していこう。
例えば、撮影していてよくあるシチュエーションなのだが、レンガの壁や格子状の窓などを撮影した場合、真っすぐに並んでいるはずのレンガや四角のはずの格子状の窓がレンズを通して見ると凸っと膨らんだように見えたり、凹っとすぼまったように見えたりする場合がある。これを「歪曲収差」という。
歪曲収差には主に2種類あり、凸っと真中が膨らんで見えるものを「樽型収差」といい、逆に凹っと真中がへこんで見えるものを「糸巻き型収差」という。ひと言で言ってしまうと、撮影した写真が見た目と違い膨らんでいたり、すぼまってしまっていたりするのを歪曲収差というのだが、この収差を極力少なくして設計したレンズがこのZERO-Dシリーズだ。
LAOWA 9mm F2.8 ZERO-Dを手に冬の北海道へ
LAOWAのレンズ作りのテーマに置かれた「楽しく撮れるレンズ!」・・・とはいうものの具体的にはどういうことなのだろう?
筆者は、カメラやレンズのレビューアーでもあるが、風景写真家としても活動しているため、この時期冬の北海道で撮影することが多い。ならば・・・今回は、LAOWA 9mm F2.8 ZERO-Dをミラーレス一眼「FUJIFILM X-H1」と組み合わせ、冬の北海道でどこがどう「楽しく撮れるレンズ!」なのかを試してみることにした。
レンズの操作性をチェック!
LAOWA 9mm F2.8 ZERO-Dは非常に軽量コンパクトで、冬用の防寒ジャケットのポケットにすっぽり収まってしまう。当然、持ち運びに苦労することは全くなかった。
このレンズは、ピントと絞りをレンズのみで完結させる(カメラ側からは変更ができない)マニュアルレンズで、ピント合わせはMFとなる。ピントリングの重さは、筆者の好みの重さだったのだが、絞りリングの重さは、個人的には少し重いかな・・・と感じた。ただ、冬の北海道での使用となれば、寒さでグリスが硬くなることもあるため、そのせいである可能性も考えられる。
また、絞りリングは、f2.8→f4→f5.6→f8→f11→f16→f22と、1段ずつ動く仕組みになっていて、絞りの節目にノッチがあり絞りリングが回ったことが確認できるようになっている。・・・のだが、カッチ!というノッチの節度感が薄く、個人的にはもう少し節度感が欲しいと感じた。
解像とコントラストをチェック!
解像とは、どれだけ高精細に描写しているか?ということなのだが、広角レンズの場合f8やf11まで絞りこんでいかなければ隅々までシャープさが出てこないレンズもある。しかし、このLAOWA 9mm F2.8 ZERO-Dは、9mmという超広角レンズでありながら開放f2.8から良好で、f5.6も絞れば完全に立ち上がる。
コントラストは、明暗がはっきりしているかどうかを指すもので、高コントラストなレンズであるほどスカッと色ヌケが良く、画にメリハリが出ることになる。このレンズは、コントラストも高く、低コントラストのレンズでは苦手な水面の反射もしっかりと描写してくる。
気になるところ・・・
そのほか、コマ、球面、非点、像面等の各種収差、軸上色収差、倍率色収差も良好に抑えられており、新参メーカーとはいえ、レンズ性能は侮れないものになっている。
ただ、1点気になるところがある・・・それは周辺光量だ。
開放f2.8で撮影すると画の周辺部の光量が不足し、その部分が暗くなってしまう。これは絞りをf4やf5.6に変更することによって解消されてくるのだが、少々暗めかなという印象だ。
しかし!筆者の個人的な好みでいえば、LAOWA 9mm F2.8 ZERO-Dの周辺光量の減少、通称「周辺落ち」は心地よい光量の落ち方で、もっといえば個人的には大好物の部類に入る。
昨今、カメラのデジタル技術の性能向上により、カメラ内にある光学補正ソフトウェアで様々な補正が掛けられるようになった。レンズを通して入ってきた情報に対し周辺光量、歪曲収差など収差はカメラ側のソフトウェアで補正する場合も多くなり、そのため最近はこうした周辺が少し落ちているレンズをあまり見なくなった。しかし、それは純正レンズに限った話で、LAOWA 9mm F2.8 ZERO-Dは、カメラ側の補正は受けられない。
逆に考えると、LAOWA 9mm F2.8 ZERO-Dはカメラ側からの補正を一切受けられないなかで、各種収差が非常に少ない印象で、光学のみで勝負していることになる。そう考えれば非常に高性能なレンズであると言えるだろう。
「楽しく撮れるレンズ」とは――スナップ撮影で実感したこと
ここまでレンズの性能を検証してきたのだが、李氏が言っていた「楽しく撮れるレンズ」とはいったいどんなことなのだろう?と風景写真で性能の検証をしている間は、正直、実感がわいてこなかった。しかし、LAOWA 9mm F2.8 ZERO-DをX-H1にセットして街のスナップを始めたら手に取るように実感することができた。
ちょうど良い周辺の落ち方
上述の通り、筆者はLAOWA 9mm F2.8 ZERO-Dの周辺落ち方が嫌いではない。むしろ大好物である。この落ち方を生かして撮るにはストリートスナップをおいてほかにはない!と思い、北海道の街並みをスナップしてみることにした。
X-H1はLAOWA 9mm F2.8 ZERO-Dとの組み合わせでもボディ内手ブレ補正が有効で、良好に手ブレを補正していた。手ブレ補正が効いてくれると、アングルの自由度が増し、撮影の時間帯も幅広くなり行動の自由度も増す。
まるで「写ルンです」のようだ!
絞っても面白い撮影ができる。
被写体からおよそ2mも離れ絞りもf8くらいまで絞ると、ほとんどの場所にピントが合いパンフォーカスとなる。そうなると「あ!いい!」と思った瞬間、難しいことなんか考えずにガンガンシャッターを切りまくることができる。
「一写入魂」じっくりと構図を考え、切ったフレームに入ってくるものを待ち、作りこんで撮影することも大事だということは身に沁みて知っている。・・・が、反面、インスピレーションの赴くまま条件反射のごとくガンガンシャッターを切っていく面白さがあることも筆者は知っている。
あれ・・・この感じどこかで・・・ん?「写ルンです」だ!
あぁ・・・とにかく撮るだけで楽しかった時代、撮影を仕事にする遥か昔のこと、写真は好きだけど・・・カメラを買うこともできず「写ルンです」片手に街並みを切り取っていたな・・・と、そんなことを思い出した。「写ルンです」の焦点距離は32mmだからLAOWA 9mm F2.8 ZERO-Dと画角はかなり違うのだが、なんだかノスタルジックな楽しさが蘇ってきたのだ。しかもテスト機材のFUJIFILM X-H1には、「写ルンです」のフィルム巻き上げダイヤルのあった位置と同じような位置にリヤダイヤルがあって、撮影後つい回してしまっている自分がいた(笑)。
なるほど・・・筆者にとっての「楽しく撮れる」はこんなところにあったかと、しみじみした気分で実感したのであった。
マニュアルフォーカスでもピント合わせは楽ちん
さて、最後にピント合わせの話をしておこう。
マニュアルフォーカスというと敷居が高く感じてしまう方もいるかもしれないが、昨今のカメラはとてもフレンドリーでMFにアシストがある。
FUJIFILM X-H1の場合、メニュー画面→AFMFの項目からMFアシストを選び、次にアシスト内容を選ぶ。筆者はフォーカスピーキング(レッド弱)が使いやすいので、いつもこれを使っている。このアシストはピントが合っている場所に赤い縁取りが施され、マニュアルフォーカスでもピンボケになることがほとんどない。また、ミラーレスはデジタル一眼レフとは違いファインダーで拡大し確認することができるので老眼の入り始めた筆者の眼でも非常に楽である。
ちなみに最短撮影距離は12cmとかなりの接近戦が可能。思い切り被写体に寄って、背景も広く入れ込むという広角レンズならではの画も得意なレンズである。
今回テストしたレンズLAOWA 9mm F2.8 ZERO-Dは、2月28日からパシフィコ横浜で行われるカメラと写真の祭典CP+にも出展される。筆者も講師としてLAOWAのブースに登壇する予定で、セミナーでは撮影裏話やLAOWA 9mm F2.8 ZERO-DとX-H1の組み合わせで撮影する場合、どんなカメラセッティングで撮影するとより面白く撮影できるのか、など実践的なお話もさせていただくことになっている。ご興味があれば、ぜひお越しいただきたい。