中村文夫の古レンズ温故知新「JUPITER-12 35mm F2.8」
対称型とはレンジファインダー機用広角レンズに多く見られるレンズタイプで、絞りを挟んでほぼ相似形にレンズ群を配置したことからこの名が付いた。この「ジュピター12」はレンズ後群が大きく後ろに飛び出していて、まさに光学設計の教科書に出てくるような対称型レンズと言えるだろう。
L39スクリューマウントなので、ライカなどのレンジファインダー機で距離計が利用できる。
ガラスの塊がむき出しに…
一眼レフ用広角レンズは、ミラーの可動域を確保するため大口径凹レンズを前玉に用いたレトロフォーカスがふつうだが、レンズ本体の大型化が避けられない。その点、ミラーのないカメラならレンズ後群がボディ内にすっぽり収まるので、レンズのコンパクト化が可能。さらに対称型はディストーションが少なく被写体が歪まずに写る特徴がある。その一方でレトロフォーカスに比べると周辺光量不足が目立ちやすいが、これを作画に生かすと広角レンズらしさが強調できる。
旧ソ連製のこのレンズは、ドイツのカールツァイスが1936年に発売した「Biogon(ビオゴン)35mm F2.8」がベース。コンタックスマウントのほかライカL39スクリューマウントでも発売されているので、アダプターを介してミラーレス機に組み合わせるのに便利。中古価格は1万円台からとコストパフォーマンスも高い。
数ある前後対称型レンズの中でも、ここまで立派なガラスの塊がむき出しになっている製品はとても珍しい。
「α7 III」への装着にはライカMマウントカプラーとKIPON製のヘリコイド付Mマウントアダプターを使用。レンズ単体の最短撮影距離は1mだが、この組み合わせなら約30cmまで寄れる。
絞り開放では像面湾曲の影響で、画面周辺部がボケて不思議な描写になる。レンズ後群とセンサー面までの距離が近いので紫色のフレアが出やすいが、裏面反射式センサーの「α7 III」だとその影響がほとんど出ない。
ソニー α7 III F2.8 1/30秒 ISO1250
〈文・写真〉中村文夫