機材レポート

絞り羽根なんと20枚! 60年経って今なお輝くクラシック85mm中望遠レンズ「キヤノン 85mm F1.9」

中村文夫の古レンズ温故知新「Canon 85mm F1.9」

「キヤノン 85mm F1.9」は1951年にSerenar(セレナー)名で発売された製品を、翌年になってキヤノンレンズに名称変更したもの。今でも名機と言われる「キヤノン IV Sb」と同時代の大口径中望遠レンズだ。

 

中村文夫の古レンズ温故知新「キヤノン 85mm F1.9」

鏡筒はオール真鍮製で重量は600g。初めて手にしたとき、スリムな見た目からは想像がつかない重さに驚かされた。

 

 

クセのない自然なボケが美しい

レンズ構成は4群6枚のガウスタイプ。1949年発売の大口径標準レンズ「50mm F1.9」の発展型で、当時の資料には「球面収差、色収差の良好性を追求。中心解像力の優秀なレンズ群が生まれ……」とある。これを鵜呑みにすると周辺部の画質に不安を憶えるが、実際に撮影してみると画質低下は意外と少なく全然問題ないレベル。ハイライト部の輪郭が暗部に食い込むクラシックレンズ特有の描写が認められるが、逆にこれは歓迎すべき特性である。そして特筆すべきはボケ味の美しさ。口径食の影響が少なく、クセのない自然なボケが得られる。

 
作り込みの丁寧さが光る 絞り羽根枚数はなんと20枚

この時代のキヤノンレンズは加工精度が高いことで知られ、製造から60年以上を経た現在でもヘリコイドの動きはとても滑らか。ピントリングや絞り環に刻まれたローレットの仕上げも丁寧だ。さらにメッキの質が非常に高く、なかでも鏡面仕上げの面積が広いこのレンズは、その美しさが最も映えるレンズと言えるだろう。

 

 
中村文夫の古レンズ温故知新「キヤノン 85mm F1.9」

絞り羽根の枚数はなんと20枚。絞っても常に円形を保つのでボケが汚くならない。

 

 
中村文夫の古レンズ温故知新「キヤノン 85mm F1.9」

マウントはライカスクリュー(L39)。Mマウントアダプターを用意すればM型ライカで使用可能。今回は、これにレイクォール製ソニーEマウント用アダプターを組み合わせて撮影した。

 

 
中村文夫の古レンズ温故知新「キヤノン 85mm F1.9」

木の葉から漏れる光の形が画面周辺部でも崩れず、均一なボケ得られた。周辺部の画質低下も拡大して見ると認められるレベルだ。

ソニー α7 III F1.9 1/160秒 ISO100

 

 
〈文・写真〉中村文夫