機材レポート

【実写レポート】ソニー期待の超望遠レンズ「FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS」をフィールド競技で試す

今回、ソニー主催の撮影体験会でフィールド競技を実写する機会を得た。個人的には、ヒコーキや動物園、野鳥などを撮影することが多く、600mmクラスの超望遠ズームも割と使い慣れているのだが、今回の撮影体験会は、走り幅跳び、走り高跳び、ハードル走と、いずれも初めて撮影する競技ばかり。α9と「FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS」(7月26日発売予定)を手渡され、グラウンドに案内されたが、どの角度が美しく、どの瞬間を狙えばいいのかまったく予備知識もない状態での撮影スタートとなった。

▲α9+FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSSという組み合わせで撮影

 

ズームをしてもフロントヘビーになりにくい

FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSSは、600mmまでカバーする超望遠ズームとしては珍しく、ズームで鏡筒が伸縮しない「インナーズーム方式」を採用していて、レンズ全長は約318mm。150-600mmズームや200-500mmズームといった他社の超望遠ズームは全長は260~270mm弱なので、それよりもちょっと長めだが、このレンズはインナーズームなので、テレ端の600mmまでズームしても全長が変わらない。前群の光学系が前後に移動しないので、ズームに伴う重量バランスの変化が少なく、テレ側にズームしてもフロントヘビーになりにくいのが特徴だ。

 

これがどう撮影に影響するか? レンズの重心がカメラボディに近いほど、レンズの重さが同じでもレンズを支える腕の負担はグッと軽くなる。また、慣性モーメントも小さくなるので、動体を追い写しする際にも軽い力でレンズを振れるようになる。重いバットも短く持ったほうが軽く感じ、すばやくスイングできるのと同じ原理だ。

 

超望遠の狭い画角で動体を撮影する際に一番重要なのが、選択したフォーカスポイントに被写体を安定して捉え続けること。レンズがフロントヘビーだとちょっと気を抜いた瞬間にレンズの重さでフレーミングが下がってきてしまうし、被写体の動きに合わせて追い写ししようとしても、かなりの腕の瞬発力がないとレンズを振り遅れてしまう。フレームアウトしないようにレンズを急激に振ると、今度は振り過ぎてしまい、フレーミングが安定しない間にシャッターチャンスを逃してしまうことになる。

 

【実写】撮影初挑戦となる競技でもまずまずの歩留まりが得られた

今回の撮影体験会で想像以上に難しかったのが、走り高跳びだ。走り幅跳びやハードル走は、選手の動きが直線的なのに対し、走り高跳びは選手によってスタートする地点も違えば、助走のコース、バーに向かってくる角度、飛び方もさまざまだ。特に、横方向に動く被写体を超望遠で安定したフレーミングで追い続けるのは難しいのだが、それに加えて選手が近づいてくるとバーを支える支柱で選手の姿が遮られる瞬間はあるし、ジャンプする直前には後ろを向いて顔が見えない状態になり、α9のリアルタイムトラッキングや顔検出が一瞬途切れてしまったりもする。

陸上競技撮影の経験値が高ければ、選手の動きもある程度予測できるかもしれないが、ボクにとってはまともに見るのも撮るのも初めての競技なので、とにかく600mmの画角から選手がはみ出さないよう追い写しするだけで精一杯。それでも、α9の20コマ/秒のブラックアウトフリー連写とFE 200-600mm F5.6-6.3 G OSSの組み合わせは素晴らしく、結構攻めた画角で狙っても選手を大きくフレームアウトさせてしまう失敗は少なく、開放F6.3の適度な被写界深度の深さも相まって、初挑戦となる競技としてはまずまずの歩留まりが得られたと思う。

 

一方、ハードル走は撮影の難易度はそれほど高くないが、通常では考えられないほど近い位置からの撮影なので、開放F6.3でも被写界深度はかなり浅め。フレキシブルスポットで選手の顔を捉え、そこからリアルタイムトラッキングに任せ、20コマ/秒でブラックアウトフリー連写し続けたが、どのカットも選手の顔から胸のあたりにピントが合っていた。絞り開放の解像性能も高く、太陽直射で光るハイライト部分にも目立ったパープルフリンジは出ていない。ボケ味も特に気になる部分は見当たらない。

ちなみに、私物のα7RIIIとFE 200-600mm F5.6-6.3 G OSSの組み合わせでもハードル走を連写してみたところ、手前から2番目のハードルまではなんとか追従できていたが、一番手前のハードルをジャンプする直前でAFが乱れてしまった。像面位相差AFエリアから選手の顔が外れた影響なのか、それとも被写体が至近に近づいてフォーカスレンズの移動量が大きくなるとα7RIIIのAFでは制御しきれなくなるのかは不明だが、こうした極限に近い動体撮影ではα9の優位性が光る。α7RIIIユーザーのボクには目の毒だ。

既存の「FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS」との比較

さて、ソニーには、既存の「FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS」という超望遠ズームの選択肢もある。1.4倍テレコンを併用すれば560mm F8相当となり、α7RIIIでも像面位相差AFで撮影できる。最短撮影距離もFE 200-600mm F5.6-6.3 G OSSは2.4mなのに対し、FE100-400mm F4.5-5.6 GM OSSは0.98mと寄れるし、なにより全長205mmなのでカメラバッグへの収納性も良好だ。フードもロック機構付きで、持ち歩きの際に不用意に外れてしまうことはない(FE 200-600mm F5.6-6.3G OSSはロック機構なし)。

 

これに対して、FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSSのアドバンテージは、FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS+1.4倍テレコンよりも開放F値が2/3段明るく、価格的にも約10万円安いこと。例えば、FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS+1.4倍テレコンだと感度を上げても1/250秒がやっとのシーンでも、FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSSなら同じ感度で1/400秒が切れるので、被写体ブレの確率を下げられる。

 

また、FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSSに1.4倍テレコンを併用すれば840mm、2倍テレコンを併用すれば1200mmの超望遠撮影も可能だ。α7RIIIの像面位相差AFは効かなくなる開放F値だが、コントラストAFは効くので風景など静止した被写体なら問題なく撮影できる、開放F11まで像面位相差が動作するα7III、開放F16まで像面位相差AFが動作するα9なら、多少AFのパフォーマンスは落ちるかもしれないが、AF-Cでの動体撮影もなんとか実用になると思われる。

 

ちなみに、高画素のα7RIIIで、FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSSと、FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS+1.4倍テレコンのテレ端開放で、陸上競技場の照明を手持ちで撮影してみた。

<FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS>

 

<中央部分拡大>

 

<周辺部拡大>

 

 

<FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS+1.4倍テレコン>

 

<中央部拡大>

 

<周辺部拡大>

多少空気の揺らぎの影響があり、手持ち撮影による簡易比較なので、その点は割り引いて見てほしいが、レンズ補正オフでも、目立った色ズレや滲みもなく、どちらも超望遠ズームとしては安定した開放画質だ。FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSSユーザーが買い換える必要性までは感じないが、野鳥などとにかく少しでも超望遠が欲しい(できれば少しでも安く)というユーザーには魅力的なレンズだろう。

200万円近いハイクラスレンズ「FE 600mm F4 GM OSS」でも撮影してみた

ちなみに、「FE 600mm F4 GM OSS」(受注生産/2019年7月下旬より順次出荷予定)でも撮影してみたが、600mm F4としては驚異的に軽いとはいえ、FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSSの約2,115g(三脚座除く)に対し、FE 600mm F4 GM OSSは3,040gと約900gほどの重量差がある。

▲α9+FE 600mm F4 GM OSSの組み合わせでも撮影

 

▲FE 600mm F4 GM OSS(上)とFE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS(下)のサイズ比較

 

その重量差のぶん、レンズを振るタイミングが遅れ、選手の動きに微妙についていけず、特に走り高跳びでは選手を画面中心から大きく外してしまうカットが多発。しかも、開放F値がF4と明るいので被写界深度は浅く、無謀にもFE 200-600mm F5.6-6.3 GM OSSよりも近づいて、よりタイトな構図で狙ったため、狙いどおりに撮れた!と思ったカットも、選手の顔ではなく、胸のあたりにピントが抜けてしまい、大惨敗。

 

α9の顔検出とリアルタイムトラッキングで、ジャンプする少し手前まではしっかり選手の頭にピントが合っているのだが、ジャンプする直前に後ろ向きになると顔認識やリアルタイムトラッキングが解除され、通常のフォーカスエリアモードに戻ってしまうため、ワイド(自動選択)だと画面中央にピントが合ってしまいやすい。自動追尾AFが解除されたときに備え、ジャンプ中の選手の顔が来る位置を予想して、あらかじめフレキシブルスポットの枠を設置しておくなど、このクラスのレンズで最高の瞬間を狙うには、まだまだ撮影者の技量が大きく問われるようだ。次の1枚はなんとか撮影に成功したカットだ。

画質については、この価格(希望小売価格:税別1,795,000円)のレンズが悪いはずもなく、開放からキレキレの描写。色滲みもなく、ハイライトの反射にもパープルフリンジも生じていない。見かけが大きいぶん、手にしてみると驚くほど軽く感じ、サンニッパよりも少しだけ重いくらいの感覚だ。大口径超望遠レンズとしては信じられない軽さで、これなら一脚や三脚がなくても手持ちでも十分撮影し続けられる。ボクの財力では、宝くじが高額当選でもしない限り買えない価格だが、野鳥や軍用機などなかなか近くに寄れない被写体を本気で撮影する人にとっては、長期分割払いしても手に入れたいレンズだろう。