オリンパスの新製品「M.ZUIKO DIGITAL 2× Teleconverter MC-20」(以下、MC-20)は、同社のマイクロフォーサーズレンズ「M.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PRO」、「M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO」、2020年発売予定の「M.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25× IS PRO」の3本に対応する2倍のテレコンバーターだ。特にM.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PROにMC-20を装着すると、35mm判換算で1200mm相当の超望遠レンズになることから、野鳥や野生動物を撮影するカメラマン注目のテレコンとなっている。
テレコンは装着することで、マスターレンズの焦点距離を伸ばすというメリットがある半面、画質や開放F値の低下が生じるというデメリットもある。しかし、1.4倍テレコンの「M.ZUIKO DIGITAL 1.4× Teleconverter MC-14」は、画質の低下があまり感じられなかったことから、このMC-20の能力には期待している。今回、野鳥撮影を中心にMC-20の描写性能と使いこなすうえでのポイントをレポートしよう。
▲オリンパスのOM-D E-M1X+M.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PROに、M.ZUIKO DIGITAL 2× Teleconverter MC-20を加え、35mm判換算1200mm相当の超望遠撮影ができる組み合わせ。
▲M.ZUIKO DIGITAL 2× Teleconverter MC-20は、2019年6月28日発売で、希望小売価格は51,250円(税別)。レンズは4群9枚構成で、高屈折率のHRレンズを1枚使うことで倍率色収差を効果的に補正する。大きさは最大径59.8mm×全長25.9mm、重さは150g。M.ZUIKO PROレンズと同等の高い防塵・防滴性能を持つ。
▲M.ZUIKO DIGITAL 2× Teleconverter MC-20は全長が25.9mmと非常に短く、150gと軽いため、装着してもシステムの全長や重心の変化が非常に少ない。
カリカリの高い解像感は失われるが、良好な描写性能
M.ZUIKO DIGITAL 2× Teleconverter MC-20はM.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PROと組み合わせると35mm判換算1200mm相当の超望遠レンズとなり、被写体までの距離が同じであれば、画面に写る大きさは2倍となる。このときマスターレンズに拡大用の光学系を加えて撮影するため、開放F値が2段分暗くなり、M.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PROでは開放値がF8になる。そのため、マスターレンズ単体のときに比べて、シャッター速度を遅くしたり、ISO感度を上げたりする必要が生じるケースも出てくる。
画質の面では、MC-20の4群9枚の光学系が追加されるために、M.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PRO単体のときより若干、解像感は下がる。それでも他社のフルサイズ機用の600mm F4レンズに2倍テレコンを付けて撮影した画像と同等か、それ以上の解像感は確保できているように思う。
7月上旬、森で出会った鳥。キビタキの幼鳥だろうか。1羽で枝にとまり、周囲をキョロキョロと見回している。不用意に動くと逃げそうだったので、近くの木の幹に肘を押し当て、手持ちで素早く撮影した。1200ミリ相当の超望遠撮影だが、強力な5軸シンクロ手ぶれ補正の効果で1/400秒でもブレを抑えて撮ることができた。撮影後、パソコンのモニターで画像を確認すると、M.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PRO単体のときよりも、少しソフトな描写であるように感じた。
オリンパス OM-D E-M1X M.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PRO 絞り優先オート F8 1/400秒 ISO1600 WB:オート M.ZUIKO DIGITAL 2× Teleconverter MC-20使用
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<1200×900ピクセルで切り出し>
▲マスターレンズのM.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PROはカミソリのような切れ味が特徴だが、MC-20を加えると、若干、解像感が弱まってソフトな描写になる。
近づくことのできない野鳥をより大きく撮れる
遡上するアユを捕まえようと吉野川の堰で仁王立ちになるアオサギ。川岸から撮るため、物理的にこれ以上距離を詰めることはできない。M.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PRO単体の600mm相当や1.4倍テレコンMC-14付きの840mm相当では寄り切れなかったシーンでも、2倍テレコンMC-20を使った1200mm相当であれば、このような緊張感のあるフレーミングを選ぶことができる。また、シャッター速度は1/20秒まで落とし、鳥の姿はピタリと止めながら、周囲の激しい流れを大きくぶらすことで、印象的な写真に仕上げた。
オリンパス OM-D E-M1X M.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PRO 絞り優先オート F16 1/20秒 ISO64 WB:晴天 M.ZUIKO DIGITAL 2× Teleconverter MC-20、三脚使用
2倍テレコンMC-20は近接撮影能力も高める
M.ZUIKO DIGITAL 2× Teleconverter MC-20はマスターレンズの焦点距離を2倍にするが、最短撮影距離は変わらないので、近接撮影時には同じ撮影距離でも被写体が2倍の大きさに写る。写真はハスの葉にとまるショウジョウトンボ。体長5cm前後の小さなトンボで、約1.5mの距離で撮影した。ここまでアップになると被写界深度が極端に浅くなり、カメラがわずかに動くだけでピンボケになる。複眼にピントを合わせるため、MFで撮影した。
オリンパス OM-D E-M1X M.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PRO 絞り優先オート F8 1/1000秒 ISO1600 WB:オート M.ZUIKO DIGITAL 2× Teleconverter MC-20使用
<MC-20を使う前にはレンズのファームウェアをアップデート!>
▲M.ZUIKO DIGITAL 2× Teleconverter MC-20を初めて使う際は、M.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PROやM.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PROのファームウェアのアップデートが必要になる。各レンズをカメラに装着して、USBケーブルでパソコンに接続。「オリンパスデジタルカメラアップデーター」(オリンパスWEBサイトより入手)でレンズのファームウェアの更新を行う。
被写体を素早く画面に収めるドットサイト照準器EE-1の活用
レンズの焦点距離が長くなると問題となるのが被写体の画面への導入。M.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PROの600mm相当の画角ではそう難しいことではないが、1.4倍テレコンのMC-14や2倍テレコンのMC-20を使うと、画角が極端に狭くなり、ファインダーを覗きながら、被写体を探すのに時間がかかるようになる。
こんなときにあると便利なのがドットサイト照準器「EE-1」。照準器のスクリーンに表示されるターゲットマーク(照準)の位置をレンズの光軸の向きに予め合わせておけば、照準器のターゲットマークを被写体に重ねるだけで被写体がカメラの画面中央に収まるのだ。ファインダーを覗きながら被写体を探すより、目視で被写体の位置を確認し、ドットサイト照準器で位置を合わせるほうが素早く撮れる。特に野鳥を超望遠レンズで撮影する際にはおすすめしたい。
▲三脚使用時であれば、ドットサイト照準器EE-1をカメラのホットシューにセットする。照準器は開閉式で収納すると背が低くなり、取り付けたまま移動しても邪魔にならない。防滴に配慮した設計になっていて、小雨程度であれば問題なく使用できる。
▲ドットサイト照準器 EE-1の希望小売価格は15,000円(税別)。電源にはコイン型のリチウム電池CR2032を使用。赤いターゲットマークは明るさ調整が可能で、その位置は横(左右)方向と縦(上下)方向に調整できる。
▲ドットサイト照準器 EE-1のスクリーンにターゲットマークはこのように表示される。ターゲットマークの位置がレンズの光軸の延長線上に合わせてあれば、この状態で被写体はカメラの画面中央に収まっていることになる。
葉が生い茂る森の中でも野鳥の姿を素早く捉える
森の中で野鳥の姿を見つけ、超望遠レンズで捉えるのは骨が折れる。ファインダーを覗くとよく似た枝や葉に惑わされ、やっと野鳥の姿を捉えたと思ったら、飛び立ってしまった、という経験は数限りない。しかし、ドットサイト照準器EE-1を使うと、被写体を画面中央に捉えるまでの時間を短縮でき、シャッターチャンスも増える。写真はスズメよりも小さな体のエナガ。しかも、すばしっこいので、なかなかシャッターチャンスを掴めない。1200ミリ相当でここまで大きく、画面中央で捉えられたのも、EE-1があればこそだ。
オリンパス OM-D E-M1X M.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PRO 絞り優先オート F8 1/125秒 ISO1600 WB:オート M.ZUIKO DIGITAL 2× Teleconverter MC-20、三脚使用
撮影領域を大きく広げる2倍テレコンMC-20と1.4倍テレコンMC-14をどう使い分けるか
M.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PROにM.ZUIKO DIGITAL 2× Teleconverter MC-20を組み合わせた1200mm相当の焦点距離は、これまで撮影を諦めていた遠距離の被写体を撮れるようになる、という面で大きな戦力になる。描写性能は、M.ZUIKO DIGITAL 1.4× Teleconverter MC-14使用時より若干甘くなるが、それは拡大表示したときに気づくレベルで、大きな問題だとは思わない。
むしろ、今回気になったのは開放F値がF8になり、オートフォーカスの精度、スピードに不安を感じる場面があったこと。光量がたっぷりとある明るい屋外であれば、スッとピントが合うのだが、光量が少なくなる森の中で撮影すると、ピントが合うまでに時間がかかることがあった。これは、開放F値がF5.6になるMC-14使用時には無かった現象で、単純にMC-20使用時には開放F値がF8まで落ち込むために、コントラストの低い被写体への反応が鈍くなるためであろうと想像できる。
こうしたことから、被写体への接近が困難な河川や干潟での野鳥撮影には、M.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PROにM.ZUIKO DIGITAL 2× Teleconverter MC-20を組み合わせ、森の中などの十分な光量が確保できないシーンでは、M.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PROにM.ZUIKO DIGITAL 1.4× Teleconverter MC-14を組み合わせるのがベストだと感じた。
また、今回は使用するチャンスがなかったが、M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PROであれば、M.ZUIKO DIGITAL 2× Teleconverter MC-20を組み合わせても開放F値がF5.6と明るいので、オートフォーカスに不安を感じるようなことはないだろう。焦点距離は160〜600mm相当となり、野鳥撮影にとって使いやすいレンズとなる。
撮影シーンの選択には留意する点もあるが、M.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PROとM.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PROのユーザーにとって、M.ZUIKO DIGITAL 2× Teleconverter MC-20は撮影の領域を大きく広げるマストアイテムであることは間違いない。
▲M.ZUIKO DIGITAL の2本のテレコンバーター。描写性能重視であれば、画質の落ちないM.ZUIKO DIGITAL 1.4× Teleconverter MC-14(右)がおすすめ。少しでも被写体を大きく撮りたい焦点距離重視の方であれば、M.ZUIKO DIGITAL 2× Teleconverter MC-20(左)を選びたい。