写真愛好家からハイアマチュア、そしてプロのカメラマンや作家まで、幅広い層から作品づくりの相棒として支持され、写真プリントの1つの基準ともなっているエプソンのプロセレクションシリーズ。CAPA編集部でもそのうちの1台、「SC-PX5VII」が写真を印刷する際の色見本制作や色の確認用などで活躍中だ。今回そんな人気シリーズに、SC-PX5VIIの後継機を含む最新2モデル「SC-PX1V」「SC-PX1VL」が加わるとアナウンスされた。発売予定は5月28日だが、気になりすぎて待ちきれない! ということで、編集部でいち早く試作機を借りて使ってみた。
デザイン・サイズもプリンター選びにおける重要な視点だと再認識
今回借りた試作機は、編集部で使用しているSC-PX5VIIの後継機種であるA3ノビ対応機「SC-PX1V」。梱包を開けてまず驚いたのが、そのデザインだ。シャープさが感じられるスリムかつシンプルなデザインで、しかも給・排紙トレイは格子状になっている。トレイを広げたときも圧迫感を感じさせず、良い意味で主張しすぎない印象だ。編集部員一同、デザインもプリンター選びの大切なファクターだと改めて気づかされた。
<編集部の声>
「SC-PX5VIIは重厚さはありましたが、初心者が気軽に使えるイメージはあまりありませんでした。一方のSC-PX1Vは、収納時も使用しているときも実にスタイリッシュ。これなら、リビングなどに置いても主張し過ぎず、“モノトーンのインテリア感”が出て部屋に自然となじみそうです」(小林)。
「個人的にはSC-PX5VIIの丸みを帯びつつも武骨なデザインも好みではあるのですが、SC-PX1Vはシンプルでカッコ良く、編集部だけでなく個人宅にも“置いておきたい!”と思えるデザインですね」(越)。
SC-PX1Vは、外観がシャープになっただけでなく、サイズも大幅に小さくなっている。編集部にある従来モデル SC-PX5VIIと比べて体積比で68%となり、実に3割以上小さくなっているのだ。
実はここ最近、編集部でもSC-PX5VIIの大きさは悩ましい問題だった。というのも、以前は編集部の共有デスクのスペースに余裕があったのでそこに置いていたのだが、少し前に編集部の省スペース化が図られて置き場所がなくなり、しかたなく普段は棚にしまっておくことに。その結果、棚から出してセッティングする手間もあってかSC-PX5VIIの出番が激減してしまったのだ。
その点、SC-PX1Vなら狭くなった現状の共有デスクにも置くことができた。プリンターの設置場所は使用頻度に直結するので、コンパクトで置き場所の選択肢が増えるのはとてもありがたい。これは編集部に限らず、個人宅でも同様だろう。
さすがに小型化された最近のカラリオシリーズと同じとはならないが、数年前の旧型のA4複合機を使っている場合は必要なスペースの差は比較的少なく、従来型のA3ノビプリンターを使っている場合にはかなりの省スペース化が期待できる。特に、大きさを懸念してA3ノビプリンターの導入に踏み切れていないという人には、ぜひ一度実物を見てもらいたい。
<編集部の声>
「A3ノビ対応でここまで小さいのは素晴らしい。棚などに置く場合は、横方向の大きさが問題になるケースが多かったのですが、本機は幅がかなり小さくなっているので置く場所に困らないと思います」(越)。
「これまで自宅では、旧型のカラリオプリンター(A4)を使ってきましたが、SC-PX1Vのサイズならいまの場所にそのまま置けそうです」(小林)
使い勝手も良好! プリント時のイライラや不安を解消する工夫が随所に
SC-PX1Vでは、従来機に比べ使い勝手も格段に向上している。
まず本体をチェックしてみると、モニターが4.3型と大きく見やすいだけでなく、タッチパネルによる操作が基本となり、迷いなく操作できる。プリント時には作品画像の表示も可能で、パソコン設定の確認や、インク残量などの印刷ステータスなどの表示も素早く切り替えられる。
従来モデルでもタッチパネルモニターは装備されていたが、例えばSC-PX5VIIでは2.7型とやや小さめでプリントする写真や設定の確認などが見づらかったほか、操作も物理ボタンとタッチパネルを併用する必要があった。そのため感覚的には、SC-PX1Vはかなりスムーズかつストレスなく操作できるようになったと感じる。
<編集部の声>
「作品をプリントするときは1枚だけというケースは少ないので、プリント中の画像をモニターで視認できるのはありがたい。画面も大きく見やすいと思います」(越)
「インクの交換やヘッド位置の調節なども大きなモニターで手順を確認しながら行えるので、プリンター上級者でなくてもメンテナンスしやすいのは心強いです」(小林)
次に作品を作る上で非常にありがたく感じたのが、0.50mmまでの厚手のファインアート紙などを(1枚ずつながら)背面トレイから給紙できるようになった点。SC-PX5VIIなどの従来モデルでは前面給紙のみの対応で、独特の操作手順も必要だった。
今回、実際にエプソン純正のファインアート紙「Velvet Fine Art Paper」を使ってプリントしてみたが、ドライバー設定さえしっかり行えば、一般的な写真用紙同様に手軽にプリントすることができた。しかも、本機では従来の顔料インク採用の写真プリンターでは発生していたフォトブラックとマットブラックの切り替え時間がなく、光沢紙の次にファインアート紙を使うといった場面でも待ち時間なくシームレスにプリントできる。これなら気軽にファインアート紙が試せるだろう。
ファインアート紙を多用する従来機ユーザーやファインアート紙に興味のあるユーザーには、この点だけでも導入の価値があると思う。なお、用紙に関しては、SC-PX1Vではロール紙ユニットにも対応。本体背面にロール紙を置くだけで簡単にセットできるようになっている。
<編集部の声>
「ファインアート紙を使ったのは今回が初めてでしたが、従来機で作業するのがここまで面倒とは思いませんでした。SC-PX1Vは、通常の写真用紙と大差なく、圧倒的に楽です」(小林)
「用紙セットが面倒なので普段は汎用性の高い用紙を使うことが多いのですが、ここまでシームレスにプリントできるなら、いろいろなファインアート紙をもっと活用してみたいですね」(越)
加えて、従来はドライバーなどに手動で組み込む必要があったサードパーティー製プリント用紙のICCプロファイル(ペーパープロファイル)を、専用サーバーに接続することで簡単に組み込めるようにした「Epson Media Installer」にも今後対応予定とのこと。エプソン純正以外の個性的な紙へのプリントもスムーズかつ手軽に楽しめるようになりそうだ。
また、SC-PX1Vではプリント中にプリンターカバーを閉めたままで印刷状態を確認できるように透明な窓と機内照明を配置。従来機では、きちんとプリントされているか不安になってついプリント中の用紙に触ってしまい、せっかくの作品にバンディング(筋状のムラ)が発生してしまうといったケースもあったと思うが、これなら動作が視認できて安心できる。
そのほか、プリント後に最大12作品までのプリント時のドライバー設定を書き出せる「作品振り返りシート」に対応。作品を見返す際や、もう一度プリントにトライする場合などの参考にすることができる。
メンテナンス関連での注目は、廃インクタンクに交換式メンテナンスボックスを採用したこと。従来モデルでは、廃インクが溜まって「廃インクエラー」が発生するとメーカー修理に出す必要があった。だが、SC-PX1Vではユーザーが自分でメンテナンスボックスを交換することができるようになり、簡単に廃インクエラーを解消できるようになった。
新インク搭載! 気になるプリント画質は?
今回借りたSC-PX1Vは試作機である。しかし、本機では新開発の「UltraChrome K3Xインク」が採用され、ブルー領域の階調性と黒濃度の向上が図られているそうで、プリント結果も非常に気になるところ。ということで、あくまで中身が最終版ではないということは踏まえつつ、編集部にあるSC-PX5VIIでのプリントと比較してみた。
今回はエプソンが提供している「Epson Print Layout」を使ってプリント。用紙はA3の「写真用紙クリスピア<高光沢>」を使用して、2機種での仕上がりの方向性の違いをチェックした。
まず、全体の傾向としては色がクリアでヌケが良く感じられる点が目を引いた。加えて、シャドウ部の階調が豊かで黒い部分の締まりが良く、結果としてメリハリの効いた仕上がりに感じられる。SC-PX1Vでは、最小1.5pl(ピコリットル)の微小インクで印刷表面を平滑化。さらに暗部領域でライトグレーインクによるオーバーコートを行うことで、引き締まった黒色の表現を可能にする「微小インク+オーバーコート」技術が新採用されているとのことだが、その効果が如実に表れる結果となった。
<編集部の声>
「シャドー部の色の濃さや階調表現は従来機以上だと思います。今回は試しませんでしたが、これならモノクロプリントも美しく仕上げられるのではないかと期待しています」(越)
「どちらも十分以上の仕上がりでしたが、見比べて見ると、特にSLの車体の黒の締まりや空の階調で違いを感じました」(小林)
さらに、さまざまな色をチェックしてみると、新たに採用された「ディープブルーインク」の効果もあってか、空などの青の階調が滑らかで色も濁りがない。夕焼けなどの赤やオレンジの色は濃く鮮やかで、比較的再現が難しいと思われるエメラルドグリーンも階調豊かに表現できているなど、多くのシーンで撮影者のイメージどおりのプリントが忠実に再現できる印象だ。
今回は、主に編集部・越がこれまでに仕上げた画像をそのままプリントしているが、画像の調整によっても仕上がりは変化する。本機に合わせて調整を追い込めば、さらにすばらしいプリントが作り出せる表現力の“余裕”を感じた。今回は試作機ということで本機自体も5月の発売に向けてさらに改良されるはずなので、期待はますます高まるばかりだ。
これは編集部導入待ったなし!? 5月の発売が待ち遠しい
従来から、エプソンのプロセレクションシリーズは質実剛健なモデルが多く、画質はもちろん機体の質にも定評があった。新モデルのSC-PX1Vは、そうした伝統を受け継ぎつつも、デザイン性や使い勝手がさらに進化。実際に使ってみた印象でも、外見のカッコ良さやさまざまな用紙を使ってのプリントがスムーズに行える点などは、目を見張るものがあった。
今回借りた機体は最終版ではないものの、試してみた限りではプリントの仕上がりも今まで以上に撮影者の意図に忠実で、見栄えのする仕上がりが得られるようになっていると感じた。これは編集部導入待ったなし!? まずは5月に予定されている実機の発売を楽しみに待ちたい。