機材レポート

ミラーレスカメラに乗り換えたらレンズも買い換えるべき? ニコン「50mm F1.8」のミラーレス用と一眼レフ用を比較してみた【画質編】

ミラーレスカメラ向けレンズ比較企画 第1回 NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/AF-S NIKKOR 50mm f/1.8G

各社のフルサイズミラーレス市場参入からしばらく経ち、ミラーレス一眼用交換レンズも続々と登場している。しかし、一眼レフ時代と同じ焦点距離で同じ明るさというレンズも珍しくない。そして、純正マウントアダプターを使えば、AFも含めて、たいていの場合ミラーレスボディで一眼レフ用レンズをそのまま使える。それゆえに、ミラーレスカメラに買い替える際、新しく専用レンズを買うのか、従来の一眼レフ用レンズ資産を生かすのか、迷う方も多いだろう。本企画では、いったい何がどのくらい違うのか?を実写チャートを含めて検証していきたい。

 

今回はニコンのフルサイズミラーレスカメラ「 Z 7」を用い、Zシリーズ専用設計された「NIKKOR Z 50mm f/1.8 S」と一眼レフ機用の「AF-S NIKKOR 50mm f/1.8G」(Z 7装着時はマウントアダプター使用)を比較してみた。前編では主に画質についてチェックする。

 

解像力実写チャート比較

解像力チャートは小山壯二氏制作のオリジナルものを使用。A2サイズのオリジナルチャートを画面いっぱいに撮影し、各絞りでの描写の違いを観察している。チャートの0.9を完全に解像するには約4,500万画素、チャートの0.8を完全に解像するには約5,000万画素の解像力が必要となる。各種チャートは基本的にカメラのデフォルト設定で撮影している。以下では、中央部と周辺部の赤枠で囲った部分をそれぞれ抜き出して比較している。

<中央部比較>

▲左がNIKKOR Z 50mm f/1.8 S、右がAF-S NIKKOR 50mm f/1.8G

 

<周辺部比較>

▲左がNIKKOR Z 50mm f/1.8 S、右がAF-S NIKKOR 50mm f/1.8G

 

絞り開放からカリカリにシャープなNIKKOR Z 50mm f/1.8 S

今回はNIKKOR Z 50mm f/1.8 S、AF-S NIKKOR 50mm f/1.8Gともに有効画素数約4,575万画素のZ 7と組み合わせて撮影しているので、基準となるチャートは0.8となる。

 

チャートの0.8を基準に、それぞれのレンズの特徴をざっくりまとめると、絞り開放から中央部・周辺部ともに画面全体の解像力が高いNIKKOR Z 50mm f/1.8 Sに対して、絞り開放では周辺部はもちろん、中央部についてもややあまく、絞るほどの全体解像力の上がるAF-S NIKKOR 50mm f/1.8Gといえる。

 

具体的に中央部分の絞り開放F1.8から見ていくと、開放とはいえNIKKOR Z 50mm f/1.8 Sのチャートの0.8のコントラストが高くきっちりとした描写に比べてAF-S NIKKOR 50mm f/1.8Gはフワッとあまく、チャートの0.9と見比べると0.8は一部の解像が不完全に感じられる。NIKKOR Z 50mm f/1.8 Sの中央部分の描写は、開放F1.8に比べるとF2.0に絞ると少しコントラストが上がるほかは、F16で絞り過ぎによる解像力低下がはじまるまでほぼ完璧な解像力を発揮する。一方、AF-S NIKKOR 50mm f/1.8Gの中央部は絞るほどの解像力が上がる傾向で、絞り開放付近はあまく、F4.0前後でチャートの0.8をほぼ解像、その後もコントラストなどが絞るほどにアップし、だいたいF8.0前後で解像力のピークを迎える。

 

周辺部分の解像力については、さすがにNIKKOR Z 50mm f/1.8 Sでも開放のF1.8では完璧とはいえない印象ではあるが、F4.0まで絞ると周辺部の0.8のチャートをほぼ完全に解像。その後はF5.6くらいまでコントラストが上がり、F5.6からF11あたりが全体の解像力のピークになる。F16近くまで絞ると回折による解像力低下が起きるので注意したい。これに対してAF-S NIKKOR 50mm f/1.8Gは、NIKKOR Z 50mm f/1.8 Sと比較すると周辺部の解像力は弱く、絞るほどに解像感はアップするがチャートの0.8がほぼ解像するのは画面全体の解像力がピークとなるF8.0となる。F16まで絞ると回折による解像力低下が見られる。

 

総じて、NIKKOR Z 50mm f/1.8 Sは特に中央部に関して、絞り開放からZ 7の有効約4,575万画素においても解像力が有り余っている印象なのに対して、さすがにAF-S NIKKOR 50mm f/1.8Gは絞っても特に周辺部においてレンズの解像力がボディの有効画素数についていけていない印象を受けた。現状の4,000万画素を越えるような高画素機はもちろん、今後5,000万画素を越えるような高画素機が登場した際には、ボディの性能を十分に引き出せるレンズを選ぶことが重要になるだろう。

 

ぼけディスクチャート比較

超小型のLEDを画面のなかで点光源として玉ぼけを発生させ、画面内の各部で撮影。この玉ぼけ(ぼけディスク)からはさまざまなレンズの特性が読みとれる。ぼけディスクへの不要な色付きからは各種色収差、ディスク内部の描写のザワつきなどからはぼけ描写の傾向、非球面レンズなどが原因のひとつといわれる“玉ねぎぼけ”の様子なども観察できる。以下では画面全体でのぼけの形の傾向と、中央部と周辺部のぼけディスクをアップして掲載している。

▲左がNIKKOR Z 50mm f/1.8 S、右がAF-S NIKKOR 50mm f/1.8G

 

形ならNIKKOR Z 50mm f/1.8 S、なめらかさならAF-S NIKKOR 50mm f/1.8G

絞り羽根枚数はNIKKOR Z 50mm f/1.8 Sが9枚の円形絞り、AF-S NIKKOR 50mm f/1.8Gは7枚の円形絞りになっている。

 

ぼけの質から見ていくと、ともにかなりなめらかなぼけ傾向だが、AF-S NIKKOR 50mm f/1.8Gに比べるとNIKKOR Z 50mm f/1.8 Sのほうがややザワつきを感じる。また、ぼけディスクのなかに同心円状のシワが観察される、いわゆる“玉ねぎぼけ”は非球面レンズなどの影響で発生するといわれているが、非球面レンズを2枚採用するNIKKOR Z 50mm f/1.8 Sのほうがわずかに強く発生しているのも見てとれる。ぼけの質、特に開放付近といった部分では、AF-S NIKKOR 50mm f/1.8Gに軍配があがるといえるだろう。

 

しかし、ぼけの形といった部分では、絞り開放からNIKKOR Z 50mm f/1.8 Sのほうがより真円に近い傾向で、AF-S NIKKOR 50mm f/1.8GはF2.8あたりで円形というよりも7角形になるのに対して、NIKKOR Z 50mm f/1.8 SはF8.0近くまで多角形というよりは円形に近い形を保つ。

 

質ではAF-S NIKKOR 50mm f/1.8G、形ではNIKKOR Z 50mm f/1.8 Sといえる結果だ。

 

周辺光量落ち比較

「周辺光量落ち」とは、画面の四隅が暗くなる現象のこと。晴天の青空などを撮影すると画面の四隅だけが暗くなるのに気づく方も多いのではないだろうか。これは、レンズ中心部分(光軸)よりも周辺部分が光を通す量が少ない(暗い)ために発生する。

 

原因は大きくふたつで、ひとつは「口径食」。口径食は光軸に対して一定以上の角度で入ってきた光が絞りの前後のレンズ径や内部構造物などの影響で変形し、ラクビーボール形や一部が欠けたようになる現象。この口径食が絞り開放付近での周辺光量の低下を引き起こす。もうひとつは「コサイン4乗則」による影響だ。撮影像素子に対してまっすぐな角度でレンズに入った光と角度をもって入った光では明るさが異なるという現象が起きる。これを計算する際にコサイン4乗にする計算式が使われるのでコサイン4乗則という。

 

コサイン4乗則の影響は絞りを絞っても変化しないが、口径食による影響は変化する。ここでは、絞りを絞ることで変化する周辺光量落ちの様子を観察している。

▲左がNIKKOR Z 50mm f/1.8 S、右がAF-S NIKKOR 50mm f/1.8G

 

どちらもF2.8でほぼ解決、ただしNIKKOR Z 50mm f/1.8 Sのほうが少し強い

最近のデジタルカメラ、特にミラーレス一眼では初期設定で周辺光量補正がオンになっているのが一般的。当然、今回の撮影に使用しているZ 7でも初期設定で「ヴィネットコントロール」(周辺光量補正)は「標準」でオンとなっている。

 

それでもNIKKOR Z 50mm f/1.8 S 、AF-S NIKKOR 50mm f/1.8Gのどちらも開放のF1.8では明確に周辺光量落ちが発生しているのが観察される。どちらも開放のF1.8での発生がもっとも大きく、絞るにつれて減少し、F2.8でどちらも気にならないレベルに収まるのもおもしろいところだ。2本を比較しながら見ていくと、開放とF2.0ではNIKKOR Z 50mm f/1.8 Sのほうが周辺光量落ちの度合いが強いのも興味深い。

 

どちらのレンズもF2.8まで絞ると気にならないレベルに減少するので、さほど神経質になる必要は感じない。むしろ開放F値の明るい大口径レンズでは、開放付近の周辺光量落ちは画面中心に配置した被写体をより目立たせる効果として活用されることもある。気になる場合は、「ヴィネットコントロール」を「強め」にしたり、RAW画像も撮影しておきRAW現像時に調整したりするとよいだろう。

 

実写作例チェック

<NIKKOR Z 50mm f/1.8 S>

NIKKOR Z 50mm f/1.8 S /Nikon Z 7/50mm/絞り優先AE(F8.0、1/15 秒)/ISO 100 /露出補正補正:+0.7EV/WB:オート/ピクチャーコントロール:オート

レンズ解像力のピークであるF8.0で撮影。細部までの解像力の高さ、その結果である画面全体の緊張感、どちらも現状における最上級クラスだと感じる。

 

<AF-S NIKKOR 50mm f/1.8G>

AF-S NIKKOR 50mm f/1.8G/マウントアダプター FTZ/ Nikon Z 7/50mm/絞り優先AE(F8.0、1/4 秒)/ISO 100 /露出補正補正:+0.7EV/ WB:オート/ピクチャーコントロール:オート

画面全体の解像力のピークと思われるF8.0にて撮影。工場朝景? の煙突の階段、細かなパイプ類までしっかりと解像しているのがわかる。

 

<NIKKOR Z 50mm f/1.8 S>

NIKKOR Z 50mm f/1.8 S /Nikon Z 7/50mm/絞り優先AE(F1.8、1.6 秒)/ISO 100 /露出補正補正:+0.7EV/WB:電球/ピクチャーコントロール:オート

絞り開放からピントの合った位置の圧倒的なシャープな描写が映える。ただし、画面奥の玉ぼけを観察するとややザワついているのが見てとれる。

 

<AF-S NIKKOR 50mm f/1.8G>

AF-S NIKKOR 50mm f/1.8G /マウントアダプター FTZ/ Nikon Z 7/50mm/絞り優先AE(F1.8、0.8 秒)/ISO 100 /露出補正補正:+0.7EV/ WB:電球/ピクチャーコントロール:オート

絞り開放のF1.8では、NIKKOR Z 50mm f/1.8 Sに比べるとどうしてもシャープさが足りない印象。ただし、画面奥の玉ぼけはなめらかだ。

 

<NIKKOR Z 50mm f/1.8 S>

NIKKOR Z 50mm f/1.8 S /Nikon Z 7/50mm/絞り優先AE(F1.8、1/13 秒)/ISO 100 /露出補正補正:+0.3EV/WB:オート/ピクチャーコントロール:オート

最短撮影距離付近で絞り開放での描写。ピント位置のシャープさがぼけていく背景との差をより明確にしてくれる。ぼけも美しい。

 

<AF-S NIKKOR 50mm f/1.8G>

AF-S NIKKOR 50mm f/1.8G/マウントアダプター FTZ/ Nikon Z 7/50mm/絞り優先AE(F1.8、1/13 秒)/ISO 100 /露出補正補正:+0.7EV/ WB:オート/ピクチャーコントロール:オート

NIKKOR Z 50mm f/1.8 Sと見比べなければ十分にシャープなピント位置の描写。また、ぼけは非常に素直で溶けるように美しい。

 

<NIKKOR Z 50mm f/1.8 S>

NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/Nikon Z 7/50mm/絞り優先AE(F1.8、1/1,600 秒)/ISO 100/露出補正補正:+1.0EV/WB:オート/ピクチャーコントロール:オート

スナップ的な距離を意識して、絞り開放で撮影した1枚。やはりNIKKOR Z 50mm f/1.8 Sのシャープネスの高さがよくわかる。

 

<AF-S NIKKOR 50mm f/1.8G>

AF-S NIKKOR 50mm f/1.8G/マウントアダプター FTZ/ Nikon Z 7/50mm/絞り優先AE(F1.8、1/3,200 秒)/ISO 100/露出補正補正:+1.0EV/WB:オート/ピクチャーコントロール:オート

ピント位置も十分にシャープで、コントラストも高い。繰り返しになるが、比較さえしなければ十分によいレンズだ。背景のぼけ方も自然でなめらかになっている。

 

チャートの結果を実証するような実写の結果

2020年現在においてもAF-S NIKKOR 50mm f/1.8Gは決して悪いレンズではない。しかし、NIKKOR Z 50mm f/1.8 Sの実写結果と比較していくと、世代の違いを実感せざる得ない印象だ。

 

有効画素数が約4,500万画素を超えるZ 7との組み合わせで撮影していることもあるのだろうが、やはりAF-S NIKKOR 50mm f/1.8Gの絞り開放付近での描写のあまさが同じような撮影条件で撮ったNIKKOR Z 50mm f/1.8 Sの画像に比べると目立ってしまう。それぞれのレンズに解像力のピークであるF8.0まで絞っても、全体から受ける画像の緻密さでやはりNIKKOR Z 50mm f/1.8 Sに軍配が上がる。個人的な印象であるが、NIKKOR Z 50mm f/1.8 SはZ 7の有効4,575万画素をイキイキと引き出しているのに対して、AF-S NIKKOR 50mm f/1.8Gにとっては重荷になっているように感じた。

 

35mm判フルサイズミラーレス一眼用に最初から設計されたNIKKOR Z 50mm f/1.8 Sに対して、7年ほど発売の古い一眼レフのFマウント用に開発されたAF-S NIKKOR 50mm f/1.8Gでは、解像力といった部分では及ばないといったことなのだろう。ただし、実写における玉ぼけの描写においても、ぼけの素直さはNIKKOR 50mm f/1.8Gのほうが上であることも観察された。

 

後編では使い勝手や外観、価格などについて比較検証していく。

 

監修:小山壯二 チャートレイアウトデザイン:海藤朋子