フィルムカメラも、インスタントカメラも、色の好みはもちろん、仕上がりを見るまでのワクワク感が好きです。でも、どうしても気がかりなのは、フィルムや現像にかかるお金。
いまは「フィルムカメラっぽい」スマホのカメラアプリや、レンズ付きフィルムを再利用した交換レンズもありますが、撮った後はデータで保存するばかり。やっぱりモノとしてのプリントがないと、「似ているけれど違う楽しみ」なんだなぁ、と諦めていました。
インスタントカメラみたいに気軽で、だけどコストはもっと安く、写真プリントの良さも楽しめる方法はないものか……。そう思っていたとき、これなら良いところどりの遊び方ができそう!と感じさせてくれるアイテムが登場したんです。
エプソンから2020年12月10日に発売されたプリンター「EW-M873T」です。
1枚6.9円!たくさん撮って、たくさんプリントしよう
EW-M873Tの特長でも際立つのが、ケタ違いの印刷コスト。L判写真なら1枚あたり約6.9円(※)でプリントできるのです。
(※価格は税別。印刷速度および印刷コスト算出条件はこちら)
同じくエプソンのインクカートリッジモデル「EP-883A」シリーズが、1枚あたり約20.6円とされていますから、約1/3の印刷コストなわけです。
その安さの秘密や多機能っぷりは後ほど紹介しますが、まずはこれだけ安価なら、「撮って出し」ならぬ「撮って刷り」もできてしまいそう。
フィルムライクなデジタルデータを、InstagramやSNSだけに留めずに、プリントまでしてみる。スマホやPCの画面だけに収まっていた写真も、そうしてみると新しい発見があるかもしれません。
そんな思いつきを“デジタルフィルムプリント”と名付けて、遊んでみることにしました。
写真家・なかむらしんたろうが撮る、日常スナップのポイント
日々変わりゆく空気の中で、親しみを込めた写真を撮るなら、ストリートスナップは格好の手法です。
誰でもカメラを手にすればできるようでいて、人によって違いが出るのも面白いところ。撮る人それぞれが押さえているポイントや、気に入る一枚を撮るためのコツもあるはず。
そんなふうに思って、今回は写真家のなかむらしんたろうさんにお声がけして、フォトウォークをしてもらいました。
彼がTwitterやInstagramに載せている写真を見るたびに、写っている人の仕草や表情が、どこか肩の力が抜けていて良いなぁ、と感じていたのです。その自然な一枚は、どのように撮られているのでしょうか。
なかむらさんの好きな街のひとつでもある下北沢で、普段から仲良しというモデルの武内おとさんを撮る姿に、ついていきます。
武内さんとは常に話しながら、要所ごとに足を止めることはあれど、常にお互いに動き続けているのが印象的。勝手知ったる街というのも利いているようで、光の入り具合や置かれているモノなどから、良い撮影スポットをすぐに見つけ出していきます。
あらためてロケハンの大切さというか、「その街に馴染んでいること」も撮影技術のひとつなのかもしれない、と思わせられます。
「普段は35mmか50mmのレンズが多くて、フィルムカメラも使います。Instagramには載せているのは、ぜんぶフィルムです。でも、InstagramのストーリーやTwitterなんかは、ストロボも付いているし、小回りが効きやすいからスマホでも。最近ならアプリはDazzやNOMOですね。ハーフカメラみたいに撮れる機能もあって、2枚並べて見せられるのも面白いんです」
いずれのアプリも、フィルムライクに撮れることで人気を呼んでいます。色乗りなどは似せられても、実際にスマホとフィルムカメラでは「撮れる画の差は大きい」となかむらさん。
ただ、本体がコンパクトでレンズも小さいスマホならではの利点もあるとのこと。日頃から見慣れているモノだけに、写真を撮られることへの緊張感が和らぐため、撮影者がシャッターを切る瞬間も変わってくるのだそう。
「カメラでは撮れなかった瞬間が映るとちょっと悔しい(笑)。被写体との距離感の勉強になります」
なかむらさんも、普段はカメラでは取らない構図や距離感を実験的に試せるので、スマホも積極的に活用しているといいます。
言うならば、フィルムは引き算、スマホは足し算で辿り着こうとする撮影といえるでしょうか。そのように聞くと、たしかにスマホに手にしたなかむらさんは、自分の体も寄せたり引いたり、手の位置も上から下からと、とても「手数が多い!」と感じました。
「カメラでもできなくはないですけど……こんなふうに手を伸ばして頭の上から撮ろうとするなんて、大変じゃないですか(笑)。スマホなら様々な角度を事前に試せるので、後からフィルムで撮るときの参考にもしやすいんです」
ポールや手すり、遊具、色のついた壁といったものも積極的に活用。モデルに手にしてもらったり、寄りかかってもらったりすると、自然と動きが出るように導けます。
ひとつのシチュエーションから複数の画を生み出せるだけでなく、被写体の体もいきいきと写るようです。
また、カメラに限らず、普段からスマホでも相手を楽しく撮るように接していると、「撮られること」に対する心の障壁がなくなっていくのだといいます。
「モデルだけじゃなくて、会話しながら、誰でも撮っちゃうところがあって(と言って、こちらをiPhoneで撮る)。僕にとっての写真は作品というより記録。飲み会の記念写真を撮るのも好きだし、そういうふうに撮っているのが楽しいです」
「それこそ相手には“自撮り”やビデオ会議で画面に写るのと同じように、カメラを見ることそのものに慣れてもらうといいんですよね」と、なかむらさん。
たしかにレンズを向けられると、多くの人は違和感や恐れをまず抱くもの。その気持ちを和らげるように、スマホなども上手に使いながら「撮られていることが自然な空気」を優しく育んでいくことも、撮影者の心がけの一つなのだと改めて感じます。
この日は、僕のお願いで「写ルンです」のレンズを再利用した交換用レンズ「GIZMON Wtulens L」をつけたカメラでも撮ってもらいました。
“デジタルフィルムプリント”にぴったりの組み合わせだろうと踏んだのです。ふわりとした描写はカラーもよいのですが、モノクロのフィルムシミュレーションとの相性が抜群でした。
「しんたろうさんに撮ってもらうと、にこにこしちゃう。わたし以上に、わたしのかわいい顔を知ってるから(笑)」と武内さん。写真を見て「盛れてるなぁ」と口にすると、すかさずなかむらさんが「おとみに盛れるっていう概念ない!常に盛れてるから!(笑)」と返答。
その言葉に、また笑顔が続いて……と、おだやかな空気のなかで撮影は続きました(この日の写真たちは、このあとにたっぷりとギャラリーページにて)。
スナップは、インスタだけじゃもったいない。プリントで見える魅力
2時間弱のフォトウォークを経て、早速撮った写真を“デジタルフィルムプリント”してみましょう。ここからは、EW-M873Tの出番です。
EW-M873Tの前面には4.3型タッチパネル液晶が据えられ、70度まで角度も調整できます。ここから、さまざまな印刷メニューを選べます。
データを送る方法も、USBケーブルや有線/無線LANでの接続をはじめ、Wi-Fi Direct®にも対応。無線LANルーターを用いなくても、Wi-Fi®機能の付いたスマートフォンやパソコンからプリンターへ、ワイヤレスで接続してプリントできます。
また、新たにリリースされたアプリ「Epson Smart Panel」を使えば、データをスマホから送って印刷できるだけでなく、電源のオンオフ、インク残量の確認など本体の操作も可能。
スマホとのペアリングも、iPhoneはタッチパネルに表示されたQRコード経由、Android™ならアプリでプリンターを選択するだけで、すぐに完了しました。
本体前面のカバーを開くと、SDメモリーカードスロットが表れます(USBメモリーを挿す口も別途有ります)。デジタルカメラで撮影した写真や保存した書類データも、タッチパネルから操作して印刷指示を出せます。
通信して送るもよし、メディアを挿して選ぶもよし。つまり、EW-M873Tは電源さえあればどこでも印刷できるわけです。
……ということで、フォトウォークで集めた写真たちを、早速プリントして「今日の12枚」として並べてみることにしました。
武内さんも「モデルのお仕事でも、撮ってすぐにプリントして見ることってないので、新鮮ですね」と、候補の写真を手にして見比べてくれました。
このように「平たく並べて、俯瞰して見てみる」というのは、まだまだモニターやタブレットといったデジタル環境でも難しいもの。
特に、組写真の考え方を身体的に理解しやすいように思いましたし、InstagramなどのSNSで「連続した流れ」を見せるときの参考にもなりそうです。
ところが、一度並べてみると、どうもしっくりこない。なかむらさんが「風景が足りないのかな」と、その足で追加撮影。その写真もすぐにプリントして候補に加えたところ、色味や流れも含めて、ずっと収まりがよくなりました。
この機動力や感覚も、安価なコストで気楽にプリントしやすいEW-M873Tがサポートしてくれているようでした。このまま、12枚を額装して飾りたいほどの出来栄えに。
「額装、いいですよ。最近、シンプルに額装された2Lサイズのプリントを部屋に飾ってみたら、それだけでもぐっと見え方が変わるなと気づいたんです」と、なかむらさん。
もちろん、EW-M873Tならば2Lもスクエアも、A4までのサイズならプリントできます。自分の写真を見返しながら、季節で入れ替えを行ったりすれば、写真との向き合い方にも良い影響がもらえそうです。
EW-M873TがL判写真なら1枚あたり約6.9円という圧倒的なコストを実現できているヒミツは、ボトルからインクを直接補充する「エコタンク搭載モデル」だから。
タンクは容量たっぷりで、1回のインク交換後にはA4カラー文書なら約6,200ページも印刷可能。また、染料インクのシアン、マゼンタ、イエロー、グレー、フォトブラックに加え、顔料インクのマットブラックを搭載。「Velvet Fine Art Paper」などアート紙の表現が格段に向上しているといいます。
エコタンク方式は、従来のカートリッジ方式と比べて梱包箱などの廃材も少なく、処分も簡単。環境負荷が少なく、利便性もアップと、良いこと尽くめの進化を見せています。
「家族のセンターマシン」になれる、EW-M873Tの魅力
EW-M873Tの利便性は、写真プリントだけではありません。細かなところの使い勝手もとても良いように感じました。
前述の6色インクのおかげで、写真だけでなく文字もくっきりきれい。コンパクトな本体ながら自動両面プリント機能も備えているので、仕事の資料などを印刷するにも使い勝手は良いです。
また、印刷指示を出すと、自動で本体前面の排紙トレイがオープン。離れた場所にプリンターが置いてあっても、わざわざ近くまで一度行く必要がないのは、地味ながら気が利いています。
給紙機構が豊富なのも嬉しいところ。最大1.3mmまでの手差しストレート給紙や、CDディスクのレーベルプリントにも対応しています。
特に前面カセットには2種類の用紙を補充しておけるので、写真用紙とA4用紙を同時にセットしておくようなことも可能です。いちいち出し入れする必要がないのは、「自分は写真プリント、家族はA4印刷がメイン」といった使い方の違いにも、ちいさなストレスを溜めずに済みそうで嬉しいところ。
他にも、上部のカバーを開くとスキャナーもあり。免許証や保険証といったIDカード類を、用紙の片面に並べてコピーできる機能も搭載しています。こういう大事な書類をコンビニでコピーして、うっかり忘れてくるという惨事ともオサラバできそうで助かります……。
置き場所を選ばず、圧倒的な印刷コストを実現したEW-M873Tは、写真だけでなくそれぞれの「プリントしたい!」に応えてくれる。まさに「一家に一台のプリンター」と呼ぶにふさわしい機能を取り揃えていると感じます。
EW-M873Tの登場で思いついた、“デジタルフィルムプリント”という遊び方。はからずもそれは、家族の「センターマシン」になってくれるような、プリンターのすごい進化に触れる良いきっかけにもなりました。
でも何より、撮ったばかりの写真を並べて、あれこれ言い合ったり考えたりできる時間が、やっぱり新鮮で良かったのです。きっと僕たちは、プリンターの進化によって、写真に対しても新しい自由を得たんじゃないでしょうか。
色味などはもちろん、レンズ付きフィルムなら「手軽に使いやすい」という気楽さがあり、インスタントカメラには「すぐにプリントできる」という面白さがある。そして、スマホやデジカメで楽しむ“デジタルフィルムプリント”は、印画紙への現像とも異なるアプローチで、撮影や写真プリントの持つ楽しさを伝えてくれるように感じたのです。
それは、ついデータだけの世界に収まりがちになった写真を、もっと心身で味わえる可能性を広げてくれた、ともいえるのではないかな、と思っています。
〈モデル〉武内おと
〈写真〉なかむらしんたろう(モデル)、柴崎まどか(商品他)
〈取材・文〉長谷川賢人
〈協力〉エプソン販売株式会社