伊達淳一カメラマンがさまざまなレンズを使い倒しレビューする『CAPA』本誌人気連載の「レンズパラダイス」。2021年1月号の「レンズパラダイス」Other Shotsは、ニコンZマウント用の大三元広角ズームレンズ「NIKKOR Z 14-24mm f/2.8 S」と望遠ズームレンズ「NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S」の2本をピックアップ。汎用性の高い新型の大口径ズームレンズは、Fマウント用のズームレンズの描写力を超えたのか、アナザーカットを紹介しよう。
ニコン NIKKOR Z 14-24mm f/2.8 S
スペック
[大きさ] 最大径88.5×全長124.5mm [重さ] 約650g [レンズ構成] 11群16枚 [最短撮影距離] 0.28m [最大撮影倍率] 0.13倍 (24mm時) [絞り羽根枚数] 9枚 [フィルター径] 112mm (バヨネットフードHB-97使用時のみ装着可能)参考価格 約316,800円 (税込)
後ボケは穏やかで、前ボケはドーナツ状
通常なら被写界深度を確保するため絞り込んで撮影するシーンだが、ピント面前後の微ボケをチェックするため、敢えて絞り開放で撮影。後ボケは穏やかだが、前ボケは草の反射がドーナツボケになっている。ただ、周辺が流れたり乱れたような不快な解像になっていないのは好感が持てる。
エッジ際立つ高い解像力
群馬県富岡市の丹生湖のひまわり畑。フォトジェニックな雲が出ていたので、14mmならではの広い画角を生かし、パンフォーカス的に撮影してみた。右下の一番手前のひまわりはわずかに被写界深度外だが、それ以外は、周辺までピクセル等倍でもエッジ立つほどシャープな描写だ。
周辺部の微ボケも癖がない
東京都日野市の高幡不動尊のお地蔵様。F11以上に絞り込めば光条が伸びてくる。ただ、レンズに責任はないが、光が強すぎるとセンサーのカラーフィルターの反射が出て、光源の周りに赤や緑の水玉模様が出やすいので注意。周辺の微ボケも癖がなく、緩やかに解像が落ちていく感じだ。デジタル補正はかかっていると思われるが、歪曲収差も感じない。
周辺部まで高いワイド端の解像性能
信州・白駒の池。周辺まで解像性能が極めて高いので、周辺画質を向上させる目的で必要以上に絞る必要はなし。周辺の解像の乱れが少ない分、被写界深度も深く感じるほど。また、14mmの画角に慣れてしまうと、もはや16mmスタートの超広角ズームではモノ足りなくなってしまう。
逆光性能も高く、周辺部までクリアな描写
少し木の葉っぱで太陽光を弱めているとはいえ、かなり強めの逆光シーンだ。それでもゴーストやフレアはほとんど生じず、シャドー部の黒浮きもなし。非常にコントラストが高くクリアな描写で、周辺画質の高さにも惚れ惚れする。
紅葉回廊のライトアップを前ボケを抑えて撮影
河口湖の紅葉回廊のライトアップ。まだ残照が残る時間帯に富士山とのコラボを狙ってみた。手前の紅葉はかなり近く、富士山も被写界深度内に収めるにはもっと絞り込む必要があるが、風で紅葉が揺れるので感度とシャッタースピードを考慮し、F5.6で撮影。前ボケの微ボケはうるさくなりがちなので、手前重視のピント位置で撮影した。
コマフレアが抑えられ星景写真にも使える
ワイド端絞り開放の点像性能を星空でチェック。日周運動で星がわずかに動いて点像が少し伸びているが、四隅までコマフレアはよく抑えられていて、星景撮影でも安心して絞り開放で撮影できる。また、画面中央の建物の外照灯がかなりの露出オーバー気味になっているが、ゴーストは皆無だ。
点像再現に優れ、夜景撮影にも絶大な威力を発揮
横浜大桟橋の夜景。右下に写っている手前のフェンスは被写界深度外で、少し二線ボケ傾向の前ボケになっているが、それ以外は絞り開放でも非常にシャープに解像していて、画面左端の氷川丸の電飾もしっかり点像を保っている。夜景や星景撮影に絶大な威力を発揮するレンズだ。
滲みがなく、ボケの色づきもまったく感じない
山中湖湖畔で日向ぼっこをしていた白鳥が、餌をくれるかもと近寄ってきたところを、チルトモニターを生かしてローポジションで撮影。あと数歩でレンズをつつかれるほど近距離での絞り開放撮影だが、ピントを合わせた白鳥の瞳は滲みもなくシャープで、軸上色収差によるボケの色づきも感じない。実にクリアな描写だ。
ゴーストの発生も抑えられ、ダイナミックな写真に
新宿御苑のカエデの内側から仰角で撮影。14mmならではの強いパースペクティブで、外側から見たのでは想像も付かないほど、枝のシルエットが複雑に絡み合って非常にフォトジェニックな写真に仕上げることができた。画面のほぼ中央に太陽を入れているが、同心円状のゴーストも発生していない。
テレ端の開放描写も秀逸
14mmのワイドな画角が楽しすぎて、どうしてもワイド端での撮影ばかりになってしまうが、テレ側の開放描写も秀逸。近接撮影ではごくわずかな滲みを感じるが、その分、微ボケは穏やかで、超広角ズームとは思えないほど自然なボケ味だ。
ニコン NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S
スペック
[大きさ] 最大径89×全長220mm [重さ] 約1440g (三脚座を含む) [レンズ構成] 18群21枚 [最短撮影距離] 0.5m (70mm時) [最大撮影倍率] 0.2倍 [絞り羽根枚数] 9枚 [フィルター径] 77mm参考価格 約319,000円 (税込)
ワイド端では渦を巻いたボケは見られない
ワイド端絞り開放で色づき始めたカエデの紅葉を撮影。緑、黄色、赤とさまざまな色が混在していてキレイだ。口径食はわずかにあるが、ワイド側では絞り開放でもそれほど渦を巻いたようなボケにならない。
テレ端では口径食が大きく、後方が二線ボケ傾向
樹の幹に沿って伸びているツタにピントを合わせ、テレ端開放で撮影。ワイド側よりも口径食は大きめで、周辺のボケがレモンボケになる。また、ピント面前後の微ボケは、後ボケが少し二線ボケ傾向で、被写体の絵柄によってはちょっとうるさいボケになることも。前ボケは自然だ。
後方微ボケの毛並みがややうるさい
多摩動物公園のニホンカモシカ。ピントを合わせた目の周りの細い毛並みが1本1本分離して見えるほど解像している。とてもテレ端開放とは思えないほどシャープだ。ただ、後方の微ボケは硬めなので、角の後ろに見えている毛並みがちょっとうるさくなっているのが惜しい。
軸上色収差による色づきは抑えられている
城ヶ島公園で見かけた野良猫を「ニコン Z 7II」の動物瞳AFで撮影。絞り開放で撮影しているが、瞳に反射した光や前後のヒゲを見ても、軸上色収差によるボケの色づきは皆無。ただ、やはり後方の微ボケがうるさくなりやすく、中途半端なボケ領域にコントラストの高い被写体を入れるのはなるべく避けたいところだ。
カルガモの頭部をダイナミックAFで捉え続ける
紅葉が映り込んだ池を泳ぐカルガモをAF-Cで追い写し。ニコンZシリーズは鳥の瞳AFは未搭載なので、ダイナミックAFで頭の付近を追っているが、頭部の羽根がカリッとシャープに再現されている。水面のさざ波も前ボケ、後ボケともにうるさくならず、主題をうまく引き立ててくれている。
暗めの背景になるタイミングを狙おう
多摩動物公園のサーバルを檻越しに撮影。開放F2.8と明るいので、檻を完全にぼかせるのが強みだが、檻の影響で二線ボケになってしまうので、背景ができるだけ暗くなるポイントを探し、そこに被写体が来るのを待つのがポイントだ。
解像力は高く、高画素機ならクロップでも十分使える
多摩動物公園のダルマワシ。1.4倍のテレコンバーターがほしいところだが、ピクセル等倍でもビシッと解像しているので、開放F値が1段暗くなり、感度を上げて撮影することを考えれば、高画素の「Z 7」「Z 7II」ならトリミングという手も。
鳥の瞳認証はないが、動きはしっかりと追い続けるAF性能
多摩動物公園のオオワシ。背景が黒っぽいこともあり、ピントが背景に抜けることなく、飛んでいるオオワシにピントを合わせ続けることができた。鳥の瞳認識AFは搭載していないのでピントのピークは肩のあたりだが、プリントや全体表示で鑑賞するなら問題なしだ。
細部の解像性能は申し分ない
山中湖湖畔でマガモのオスをテレ端開放で撮影。観光地で人慣れしているものの、大きな動きで驚かさないよう少しずつ近づきながら距離を詰めていった。撮影距離が短いこともあって、マガモの目や顔の羽根の模様が高精細に再現されている。オスならではの緑の構造色も美しい。
口径食は大きく、F5.6~F6.3程度で解消
テレ端絞り開放の口径食をチェック。Fマウントの「AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8E FL ED VR」と同程度か1/3段弱ほど口径食が目立つ感じ。F5.6~F6.3まで絞れば四隅の口径食は解消するが、クッキリした光点ボケでなければF3.5~4まで絞れば、口径食による渦巻き感は軽減する。近接撮影時の周辺画質はかなり向上している。
※参考価格は記事執筆時点の量販店価格です。