単焦点レンズらしい高い解像力と美しいボケ
レンズ自体の性能にまったく不満はない
実際に撮影した画像をチェックしても、特にISO 1600以下で撮影した画像は「RF800mm F11 IS STM」の画面周辺まで解像力が高く、色のにじみなども感じられず、十分に満足いくものだった。またAFの速度などについても、爆速という印象ではない十分以上といえる。
筆者は使ったことがないが100万円を軽く超えてくる「EF800mm F5.6L IS USM」と比較すれば、解像力やボケ味、AFの速度は劣るだろう。実際、筆者が以前に使った「EF200-400mm F4L IS USM エクステンダー 1.4×」にハイエンドのEOS-1D系といった組み合わせに比べるとAFは遅く感じる。「EF200-400mm F4L IS USM エクステンダー 1.4×」も100万円越え覚悟のレンズなので、そもそも比較しても仕方ない、価格差は10倍である。
また、筆者がよく使う10万円前後のサードパーティー製の超望遠レンズと比較すると、相手はほとんどの場合ズームレンズになるので、さすがに単焦点レンズらしい解像力の高さや色にじみの少なさなどにアドバンテージが感じられた。
開放F値の暗さからアップするISO感度が気になる
実際の撮影時にもっとも気になったのは、シャッター速度優先AEでISO感度オートにしていたISO感度である。一般的に手ブレしないためのシャッター速度は「1/焦点距離」といわれる。「RF800mm F11 IS STM」の場合、1/800秒だが、シャッター速度で4段分の手ブレ補正機構が搭載されているので理論的には1/50秒くらいまで手ブレの影響なく撮影できるはずだ。しかし、実際にはナキウサギのような小動物を撮影する際に1/50秒では、被写体側の動きで、ことごとくブレてしまうだろう。
筆者の場合、自分の技量とナキウサギのすばしっこさを考慮すると、1/800秒とか、1/1000秒といった高速シャッターを選択して撮影したい。しかし、秋の晴天とはいえ、日陰になる部分での撮影もあるので、シャッター速度は、シャッター速度優先AEで1/500秒に設定した。この条件で実際に撮影した写真のデータによると、使用したISO感度は800~12800で、ISO 3200~4000付近がもっとも使用頻度の高い感度になった。こうなると気になるのは、高ISO感度による画質の劣化 (ノイズ) だ。実は同じ場所で、かなり長い時間ひなたぼっこをしていたナキウサギがいたので、ISO感度をばらして撮影してみた。結果をみてみよう。
■ISO 1600
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■ISO 3200
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■ISO 8000
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各感度での撮影結果から、筆者はさすがに「EOS R5」でも、ISO感度1600以下、あまり大きく使わない条件であればISO 3200位までで撮影したい。さすがにISO 8000は使いたくないのだが、「RF800mm F11 IS STM」は絞りがF11に固定なので、晴天の屋外であっても、ISOオートで6400を越えるような高ISO感度が選択されることがある。
すなわち「RF800mm F11 IS STM」の描写性能自体に問題は感じることはないものの、絞りF11固定と暗いレンズなので、ISO感度による画質の劣化の影響を受けやすいのが気になる。これをどこまで許容するかを考えて使う必要があるだろう。手持ちでも十分に使える軽量のレンズだが、シャッター速度を遅くして画質を確保したいシーンでは、被写体ブレは仕方がないにしろ、カメラブレを起こしては意味がないので、基本三脚とはいわないが、一脚を使って撮影した。
超望遠撮影に挑戦したいRFマウントユーザーなら買いの1本
絞り値が固定のF11であるため、高ISO感度を選択せざる得ないシーンがあるにしても「RF800mm F11 IS STM」は、800mmの超望遠で軽くて、しかも高画質、さらに価格もリーズナブルと、ある意味いいことずくめの1本だ。RFマウントボディの「EOS R」シリーズのユーザーで、これから超望遠撮影に挑戦してみたい、もしくはすでに超望遠撮影は楽しんでいるがキヤノン純正の超望遠を使いたいというユーザーなら、買いの1本といえるだろう。
秋の晴天とはいえ、絞りがF11で固定の本レンズでは、シャッター速度優先AEで1/500秒を選択しているとISO 12800といったシーンもあった。天候や明るさによっては気になることもあるだろう。また、絞り値がF11の固定であることだけでなく、最短撮影距離が6.0mということから、室内での撮影が得意なレンズとはいえない。
しかし、それらを補ってあまりあるのが、キヤノン純正であるということだ。「EOS R5」公式WEBサイトの商品紹介では「EOS最高解像性能」の理由を「新開発CMOSセンサー、DIGIC X、RFレンズの三要素が一体となることで、解像感、ノイズ、光学特性、すべての要素から画質向上を追求。すべてのEOSを上回るEOS最高解像性能を達成しています」と解説している。デジタル一眼レフ時代から、レンズ単体だけでなく、カメラとの組み合わせで高性能を追求するのは常識といえる。しかもミラーレス一眼においては、カメラ本体によるレンズ光学補正、いまやAF合焦の主流となった「顔・瞳検出AF」など、カメラメーカー純正であることのメリットは増加し続けている。そういう意味でもキヤノン純正のリーズナブルな超望遠レンズはRFマウントユーザーなら買いといえる。
また、同時に発表された「RF600mm F11 IS STM」よりも「RF800mm F11 IS STM」に興味を引かれた理由は、単純に固定 (開放) F値が11で同じであれば、より望遠の800mmのほうに興味があったから。もし「RF600mm F11 IS STM」がF8.0固定であったら、先に「RF600mm F11 IS STM」を試したかもしれない。軽くて軽量、リーズナブルな純正超望遠単焦点レンズとしては、興味があるので機会があれば、ぜひテストしたい1本だ。
唯一気になる高ISO感度選択時の画質低下も、筆者はだいだい5年前くらいまではISO 1600は画質が劣化するので使いたくないと言っていた。それ以前はISO 400までが限界としていたので、カメラの高ISO感度性能がアップすることで、数年後には気にしなくていい問題になっている可能性だってある。それどころか、ISO感度性能の進化によっては、「RF800mm F11 IS STM」や「RF600mm F11 IS STM」のような暗めの絞り固定の超望遠レンズが、一般的になる可能性すらあると感じた。