伊達淳一のレンズパラダイス『CAPA』2021年11月号 Other Shots
伊達淳一カメラマンがさまざまなレンズを使い倒しレビューする『CAPA』本誌人気連載の「レンズパラダイス」。2021年11月号の「レンズパラダイス」Other Shotsは、ソニー「VLOGCAM ZV-E10」レンズキットの標準ズームにプラスαしたい、自撮り動画撮影向きの超広角ズーム2本「タムロン 11-20mm F/2.8 Di III-A RXD」「ソニー E 10-18mm F4 OSS」と、ボケを生かした表現を楽しむのに最適な小型の大口径標準レンズ2本「シグマ 30mm F1.4 DC DN | Contemporary」「ソニー E 35mm F1.8 OSS」をピックアップする。
ソニー E 10-18mm F4 OSS
周辺部に直線を配さなければ歪曲収差はほとんど感じない
ロケット公園とも呼ばれている長野県佐久市の稲荷山公園。高さ約35mの宇宙ロケット型展望台「コスモタワー」を階段の途中からワイド端で撮影。少し左に傾いてしまったが、歪曲収差補正がオフでも、周辺に直線を配さなければ気づかない程度の弱い陣笠歪みに収まっている。
画像周辺部の色ズレも極めて少なめ
同じく稲荷山公園のコスモタワー周辺にある、全長約63mのローラースライダー。円筒形のワイヤーチューブを幾何学模様的に捉えてみた。画角が広く、パースペクティブが強い超広角ズームならではのダイナミックな構図だ。こんなにコンパクトなズームにもかかわらず、周辺部に倍率色収差による色ズレもなく、スッキリとした描写だ。
絞ってしまえば周辺部の乱れは気にならない
団地の花壇に咲き乱れるキバナコスモス。秋の長雨続きの中、ようやく青空と絡めて撮影できた。コスモスの細い茎がゴチャゴチャとしているので絞って撮影。奥の方は被写界深度から外れて解像は甘くなっているが、うるさい微ボケにならずに済んでいる。ここまで絞れば、周辺部の乱れもほとんど気にならない。
強い光源に対してもゴーストが出ないのはスゴい
F14まで絞って光条を出してみた。絞り羽根は7枚なので14本の光条が伸びるが、1本の光条がさらに分離してしまうのでちょっと鋭さに欠ける。ただ、太陽を画面内に入れても目立つゴーストがほとんど出ないのはスゴい。安心して画面内に強い光源を入れて撮影できるレンズだ。
迫力ではタムロンには敵わないがピント面はシャープ
長野県佐久穂町の白駒の池にて。苔の中に赤いキノコを見つけたので、ワイド端絞り開放で最短撮影距離ぎりぎりまで近寄って撮影したのがこれ。最短撮影距離は25センチと寄りが苦手というわけではないが、ワイド端で15cmまで寄れるタムロンと比べると、いささか迫力に欠ける。ただ、近接撮影でもピント面はシャープだ。
F8まで絞ると周辺部までクッキリした解像に
今回使ったレンズは、画面右下の解像がやや乱れを感じるものの、画面中央はキレのある描写。周辺や四隅はコントラストが少し下がっていき、解像も緩やかに低下していくが、その分、必要以上に微ボケがうるさくなりにくい。F8まで絞ると、急激に周辺のコントラストも向上してきて、エッジだった解像が得られるようになる。
■周辺画質の比較 (F4)
■周辺画質の比較 (F5.6)
■周辺画質の比較 (F8)
タムロン 11-20mm F/2.8 Di III-A RXD
わずかにパープルフリンジが発生するが整った解像
長野県佐久穂町の八千穂高原。白樺が群生している有名なスポットだ。残念ながら、薄雲がかかっていて、わずかに見える薄い青空を入れて撮影。空と枝の境界部にわずかにパープルフリンジが浮き気味だが、周辺までよく整った解像で、細い枝や葉まできちんと描き分けられている。
絞り開放で背景をぼかしヒガンバナを強調
公園に咲いているヒガンバナをローポジションで見上げて撮影。画角が広い超広角ズームだけにアイレベルで撮影すると背景が煩雑になりがちだが、F2.8開放でローアングルで撮影することで、背景をシンプルにまとめて適度にぼかし、ヒガンバナを強調することができる。
開放近くから周辺部も含め極めて高い解像が得られる
長野県佐久穂町にある白駒の池の入り口。レンズの解像テストを兼ねて案内所を正面からパチリ。2/3段だけ絞っているが、周辺まで際立った解像が得られ、舗装された地面の細かいテクスチャーも不自然に解像が乱れることもない。周辺まで均質性の高いレンズだ。
ゴーストが発生するのが唯一の弱点
このレンズの数少ないウィークポイントが、太陽など強い光源を画面中心から少し外れた位置に入れたときに、明るいゴーストが目立つこと。特に縦位置はゴーストが伸びてうるさくなりやすい。ただ、少しだけ光源の位置を工夫すれば、ある程度、ゴーストを目立たなくできる。
ワイド端で15cmまで寄ることが可能
このレンズの最大の特徴が最短撮影距離の短さ。特にワイド端では15cm (レンズ前玉からは3cmくらい) まで寄れる。本誌では横位置で撮影したカットを掲載したが、これは縦位置で寄れるところまで寄ったもの。中望遠マクロとは違って背景に広がり感があり、それでいて優しくぼけてくれるのが魅力だ。
絞り開放から周辺部まで高い解像が得られる
「ソニー E 10-18mm F4 OSS」と同じポジションで撮影。タムロンはワイド端11mmなので、わずかに画角が狭く、レンズ内手ブレ補正も搭載していないが、開放F2.8と明るく、絞り開放から周辺部まで解像とコントラストが高い。F2.8でも周辺画質は非常に高く、微ボケの乱れもごくわずかだが、F4まで絞るとさらにコントラストが向上し、解像している部分の輪郭がよりクッキリ際立ってくる。
■周辺画質の比較 (F2.8)
■周辺画質の比較 (F4)
■周辺画質の比較 (F5.6)
■周辺画質の比較 (F8)
シグマ 30mm F1.4 DC DN | Contemporary
近接撮影時以外では被写界深度はやや深め
APS-C専用設計のレンズで、換算45mmと一般的な標準レンズよりもわずがに画角は広め。開放F1.4と明るいが、同条件で撮影してもフルサイズよりも被写界深度は深く、近接撮影以外は大きくぼかすのは難しい。絞り開放時はハイライトに紫にじみが感じられるが、解像は安定している。
近接時は大きくぼけて、描写も適度な柔らかさ
最短撮影距離は30cm。小さな花や虫をアップで撮影するには力不足だが、ペットやテーブルフォトには十分すぎる近接撮影性能。開放F1.4と明るいので、ズームレンズでは得られない被写界深度の浅さを生かした大きなボケ表現が楽しめる。近接撮影でもピント面がにじむ傾向は少なく、適度な柔らかさで撮影できる。
開放がF1.4と明るくシャッタースピードが稼げる
長野県佐久穂町の白駒の池にある苔の森。このレンズは手ブレ補正を搭載していないが、開放F1.4と明るいのでズームよりは速いシャッタースピードで撮影できるのが強み。また、前方の微ボケは少しうるさくなる領域があるが、後方の微ボケは滑らかで自然だ。
軸上色収差は少ない部類
水道の蛇口などメタリックな被写体を絞り開放で撮影すると、光が反射している輝度差の大きな部分にパープルフリンジが多少浮く。また、前後のボケの輪郭にマゼンタやグリーンの色浮きが感じられるケースもあるが、全体表示で色づきが目立つというほどではなく、一眼レフ用大口径レンズの多くと比べれば、軸上色収差は少ない部類だろう。
好感が持てる柔らかな後ボケ
風に揺れるコスモスをAF-Cでひたすら連写し、ピンボケやブレが少ないカットを選んでみた。このような近接撮影時にはハイライトにわずかなにじみが浮くが、これは欠点ではなく、むしろ美点。後ボケのコントラストは滑らかで、輪郭も柔らかく好感が持てる仕上がりだ。
手ブレ補正機能非搭載よりも明るさのほうがメリット
横浜関内の猫カフェMiysisにて。子どもやペットなど動く被写体を撮影するときは、動体ブレを避けるた、少しでも速いシャッタースピードで撮影するのが鉄則。そのため、レンズ内手ブレ補正よりも、絞り開放でもシャープな写りの明るいレンズが有利だ。レンズ口径も小さく、被写体を威圧しないのも猫撮影に適している。
F8まで絞って全体にピントを合わせてヒマワリを撮影
道の駅の傍らに咲いていたヒマワリ。一つの茎からいくつもの花を咲かせているので、複数の花にある程度ピントを合わせるため、F8まで絞って撮影。ここまで絞るとズームとの差はほぼなくなるが、前後の微ボケは比較的素直だ。
近接で背景を単純化させるには最適なレンズ
超広角ズームで撮影したキノコを最短撮影距離付近で撮影。超広角ズームよりも背景として写る範囲が狭く、単純なグラデーションになっている。背景が煩雑なシーンでは、背景を単純化しやすいのが標準~中望遠レンズの特徴だ。
ソニー E 35mm F1.8 OSS
大きなボケ表現が楽しめる
換算52mm相当のAPS-C専用標準レンズで、レンズ内手ブレ補正を搭載しているのが特徴。開放F値もF1.8と明るいので、近接撮影時は大きなボケ表現も楽しめる。植え込みには入れず、撮影ポジションが限定されているので、少しでも背が高い個体を主題に、絞り開放で浮かび上がらせてみた。
石仏のディテールをきっちり再現
公園の石仏をアップで撮影。この距離では背景はそれほど大きくぼけてないが、絞り開放でも口径食はそれほど大きくはない。軸上色収差で光点ボケの輪郭に緑が浮いているのも、背景の緑バックに華やかさを添えてくれる。ピントの合った部分はエッジ立った解像ではなく、少し柔らかめだが、細かい部分までしっかり描写できている。
ISO3200にしても猫の毛並みは細い線に再現
横浜関内の猫カフェMiysisにて。保護された仔猫たちが元気いっぱいじゃれ合っているシーンを撮影。店内の奥はあまり明るくないので、絞り開放でも1/200秒でISO3200まで感度が上がってしまう。高感度NRによるディテール低下が心配だったが、ピントを合わせた仔猫の白いヒゲや毛並みがスッキリと細い線で描写されている。
解像とコントラストがしっかりしていてISO6400も使える
同じく横浜関内の猫カフェMiysis。仔猫だけでなく母猫も一緒に保護されてきて、未だに仔猫が甘えてお乳をせがんでくる。感度はISO6400まで上がり、APS-C機としてはあまり使いたくない感度だが、レンズの解像とコントラストがしっかりしていることもあり、母猫の毛並みも高感度NRで溶けずに再現されている。
周辺まで安定している絞ったパンフォーカス的な描写
緊急事態宣言下で不用意に人の集まる場所に撮影に行くのがためらわれたため、自宅付近を散歩しながらスナップ撮影。きれいなお花畑が広がっていることを想定し、絞って撮影したときの描写をチェックしてみた。中遠景ということもあり、意外と被写界深度が深く、ほぼパンフォーカス的な描写で、周辺まで非常に安定した解像が得られている。
鋭い解像で派の質感をクッキリ描写
これも近所を散歩しながらのスナップ。暗めの背景と日光がたっぷり当たっている葉が妙にフォトジェニックだったので、前後の葉にピントが合わせ、背景が適度にぼけるようわずかに絞って撮影。ピクセル等倍で見てもエッジ立つほど鋭い解像で、葉の質感がよく再現されている。
発売年の古いレンズだがボケの色づきは少ない
これはスーパーの駐車場脇のカート置き場。光が当たっているメタリックな被写体を撮影すると、軸上色収差やパープルフリンジの有無が一発でわかる。軸上色収差によるボケの色づきはわずかにあるが、発売年月が古いレンズとしてはごく少なめ。ただ、光点ボケに同心円の模様がちょっと浮いている。
前後のボケは後ボケのほうが柔らかい
路傍に植わっていたコムラサキ。もう少し寄って撮影したかったが、最短撮影距離は30cmなのでこれが精一杯。前ボケよりも後ボケが柔らかなレンズだが、コントラストの高い輪郭が少ないこともあり、前後とも柔らかくぼけてくれている。
※参考価格は記事執筆時点の量販店価格です。