伊達淳一のレンズパラダイス『CAPA』2022年1月号 Other Shots
伊達淳一カメラマンがさまざまなレンズを使い倒しレビューする『CAPA』本誌人気連載の「レンズパラダイス」。2022年1月号の「レンズパラダイス」Other Shotsは、タムロンの16.6倍の高倍率ズームレンズ「18-300mm F/3.5-6.3 Di III-A VC VXD」と富士フイルムの超望遠ズームレンズ「XF70-300mmF4-5.6 R LM OIS WR」をチェックする。300mm域までカバーするXマウントズームレンズ2本は、キャラクターにどんな違いがあるのだろうか?
タムロン 18-300mm F/3.5-6.3 Di III-A VC VXD
スペック
[マウント] 富士フイルムXマウント [最大径×長さ] φ75.5×125.8mm [重さ] 620g [レンズ構成] 15群19枚 [最短撮影距離] ワイド端 0.15m、テレ端 0.99m [最大撮影倍率] ワイド端 0.5倍、テレ端 0.25倍 [絞り羽根枚数] 7枚 [フィルター径] φ67mm参考価格 82,500円 (税込)
高倍率ズームのワイド端とは思えない安定した描写
八ヶ岳大橋から南清里方面を望む。手前の紅葉重視でピントを合わせているため、無限遠と周辺部は少し解像が緩めになっているが、それでも高倍率ズームのワイド端としてはごく周辺部を除けば安定した描写だ。そして、富士フイルムXマウント対応で、Velviaモードならではの力強い発色が使えるのが最大のポイントだ。
赤色の紅葉もぼやけず水準以上の解像
昇仙峡で切り取りった紅葉。単板センサーは赤や青に感じる画素が少ないため、紅葉など赤が主体の被写体を撮影すると細部がぼやけやすいが、レンズの解像性能が水準以上なこともあり、ピクセル等倍で見ると葉脈まではわからないが、葉っぱの1枚1枚がしっかり描き分けられている。
画角を固定すれば追従性能も十分
城南島海浜公園から羽田空港に着陸する旅客機を狙ってみた。ミラーレス用レンズの多くは、ズーミングに伴うピント位置の移動を、メカではなく、電子的にフォーカスレンズを動かして補正している。このレンズはズームした瞬間、電子的な補正がちょっと遅れて像が一瞬大きくボケるので、ズームしながらの連写は避けたほうがよい。ただし、画角を固定して撮影すれば、この程度の動体は楽々追従する。
手ブレ補正の効きはかなり強力
長野県佐久市の貞祥寺。低感度で撮影するとかなりのスローシャッターになってしまうが、電子シャッターで撮影すれば、シャッターブレが抑えられ、1/6秒の手持ち撮影でもカメラブレせずに済む。このレンズの手ブレ補正はかなり強力。輝度差の大きな境界部分は多少フリンジが浮くが、高倍率ズームとしては優秀な部類だ。
被写体にグッと近づいた肉薄した写真が撮れる
一般的な標準ズームに比べ、最短撮影距離が長めなのが高倍率ズームの弱点だったが、このレンズの最短撮影距離はワイド端で15cm、なんとレンズ前5mmまで寄れるので、ワイドな画角で被写体にググッと肉薄した写真が撮れる。逆に、テレ端の最短撮影距離は99cmとやや長めだ。
口径食は少しあるが、球面収差などは目立たない
口径食はそれなりにあるが、非球面レンズ特有の輪線や球面収差の過剰補正による縁取り感は目立たない。これくらいアップで撮影すれば、赤や青の画素の割合が少なめのX-Trans CMOSでも、赤一色の紅葉の葉脈もかろうじて分離する。AF+MFをONにして、AF-Sで合焦後、拡大MFでピントのピークに追い込んで、電子シャッターで機構ブレを抑えて撮影するのが高解像を得る秘訣だ。
料理など、旅先やお散歩での撮影に最適
ワイド側の最短撮影距離が非常に短いので、着席したまま、料理などのテーブルフォトを撮影できるのは、旅行やお散歩撮影のお供にするズームとして便利。ワイド側で少しパースを付けて料理の一部を切り取ってハイキートーンで撮影すれば、説明的な記録写真から脱却できる。
画面中央付近のゴーストは最大の弱点
このズーム最大の弱点が、太陽など高輝度な光源を入れた際のゴースト。光源の位置を変えても画面の真ん中に紫色のゴーストが出るので、フレーミングで回避しにくく、木の枝などで光源を弱めるしか対処法がない。カラークローム・ブルーを使うと、紫色のゴーストが悪目立ちするので注意しよう。
1/2秒で手持ち撮影してもぶれずに撮れる
昇仙峡の仙娥滝。滝から落ちる水の流れを白糸のように写すため、シャッタースピードが1/2秒前後になるまで絞って電子シャッターで手持ち撮影しているが、ピクセル等倍でもブレていないのはビックリ。旅行で三脚を携行するとフットワークが大幅に鈍るので、このレンズ1本だけの身軽な装備でこんな写真が撮れるのは凄いと思う。
高倍率ズームながら月をここまで写せる
金星が月に大接近というので、高倍率ズームでどこまで撮れるのか、ベランダからお気楽に手持ち撮影。ズームテレ端開放、換算450mm相当だ。夕方から曇り予報で、運良く月と金星は見えたものの、霞んだ空で少し月がにじみ、金星には少し色収差が出ているが、マイナスの露出補正で欠け際のクレーターもかろうじてわかる。
富士フイルム XF70-300mmF4-5.6 R LM OIS WR
スペック
[マウント] 富士フイルムXマウント [最大径×長さ] 約φ75×132.5mm [重さ] 約580g [レンズ構成] 12群17枚 [最短撮影距離] 0.83m [最大撮影倍率] 0.33倍 [絞り羽根枚数] 9枚 [フィルター径] φ67mm参考価格 106,710円 (税込)
動物園や野鳥撮影ではもう少し焦点距離がほしいところ
多摩動物公園のレッサーパンダ。換算450mm相当のテレ端での撮影だが、これでも比較的手前に来ているタイミング。動物園や野鳥の撮影では、少しでも望遠で撮影できるレンズが有利だ。このズームはテレコンも装着できるが、すでにISO5000まで感度アップしていて、これ以上高感度にしたくなかったので、テレコンは使わずに撮影している。
高倍率ズームと比べわずかに明るく画質も上
多摩動物公園のチーター。レッサーパンダよりは放牧場が明るいが、動きが速く、被写体ブレを抑えるためには少しでも速いシャッタースピードを切りたいところ。ほんのわずかではあるが、開放F値的には高倍率ズームよりは有利で、絞り開放画質もわずかに上。毛並みが細い線で描写されている。
解像性能が高く、高感度でも崩れは少ない
多摩動物公園のアムールトラ。ここも冬の夕方は日が陰ってきてかなり暗くなるのだが、被写体ブレを抑えるシャッタースピードを確保しようとすると、アッという間にISO6400まで感度アップしてしまう。高感度NRでトラの胴体の毛並みが少し溶け気味だが、レンズの解像性能が高いので顔の毛並みやヒゲの解像はしっかり維持できている。色収差もほとんど目立たない。
輝度差が大きくてもフリンジはほとんど出ない
城南島海浜公園から羽田空港に着陸する旅客機を撮影。光る海面が機体に反射してメタリックに輝く瞬間を狙ってみた。光の鏡面反射や輝度差の大きな境界部分にもフリンジがほとんどなく、APS-Cミラーレスとしては極上の描写。機体のリベットまでしっかり解像している。
手ブレ補正機能の効きも高く、細部までシャープ
明るく見えるかもしれないが、すっかり陽は沈んで薄暮の時間帯。テレ端450mm相当でシャッタースピード1/18秒の手持ち撮影でもまったくぶれていない。地面からの空気の揺らぎも少なく、感度を抑えて撮影していることもあり、機体の接合部分の細い線までしっかり確認できる。
駅に進入する列車をしっかり追従
最近のカメラならそれほどむずかしい動体ではないかもしれないが、駅に入ってくる電車をAF-Cで連写。連写カットのほとんどが車体の前部にビシッとピントが来ている。空気の揺らぎの影響もあるが、後ボケは少し二線にぼけている領域もある。
二線ボケ傾向は少なく、背景はうるさくならない
このレンズの最短撮影距離はズーム全域で83cm。70~300mmズームとしては近接撮影に強い部類なので、ペットや花などのクローズアップ撮影にも適している。テレ側でもコントラストの高い描写で、シャドー部もしっかり締まる。柔らかいボケではないが、光が反射している部分以外は二線ボケ傾向は少なく、うるさいボケにはなりにくい。
葉の水滴や葉脈までリアルに再現
水面に浮かんでいる落葉がフォトジェニックだったのでパチリ。葉っぱに付いた水滴が妙にリアルに写っている。浮かんでいる葉っぱはユラリと動いているので、少し感度を上げて速いシャッタースピードで撮影。葉脈までクッキリと解像している。
テレコンを使用してもコントラスト低下は見られない
1.4倍テレコンを使用して換算630mm相当で撮影。空気の揺らぎの影響を多少受けているものの、テレコンを装着した絞り開放テレ端とは思えないほどシャキッとした描写で、ピント面がにじんだりコントラストの低下も感じない。開放F8になるが、明るいシーンや被写体ブレの心配がないシーンには威力を発揮する。
高感度NRによる画像低下も極めて少ない
近くの川のカルガモ。毛繕いが一段落して羽ばたいた瞬間を連写して、幸運にも被写体ブレしなかったカットをチョイス。すでに日陰で暗くなっていて感度をISO2500まで上げているが、コントラストは高く輪郭がシャープにエッジ立つレンズなので、高感度NRによる解像感低下もごくわずかで済んでいる。
※参考価格は記事執筆時点の量販店価格です。