写真を本格的に始めたら、ぜひトライしてほしいのがRAWデータの記録だ。RAWはJPEG画像とは異なり、撮影後に高画質を維持したまま、PCでじっくり自分のイメージに追い込むことができる。そしてJPEGやTIFFに書き出す。いわゆるRAW現像だ。そのRAWデータをコントロールするRAW現像ソフトで知られるのが、国産RAW現像ソフトの雄、市川ソフトラボラトリーの「SILKYPIX Developer Studio Pro」シリーズ。その11代目となる「SILKYPIX Developer Studio Pro 11」が2021年冬に登場した。
目次
SILKYPIXシリーズの魅力は、高画質な仕上がりが得られるのはもちろん、非常に高機能でしかも操作性にも優れているところ。多くのプロにも愛用され、私自身も長年使用している。特に明るさやコントラスト、ホワイトバランスや色調の微調整が行いやすいのが気に入っている。このあたりの調整項目は、一見わずかな違いでも、最終の仕上がりに大きな影響を与えることが多いからだ。
さらに機能が進化した「SILKYPIX Developer Studio Pro 11」の新機能を見ていこう。
画像を開くだけで解像感アップ! 新デモザイク処理「クリアビュー」
これまでも優秀なRAW現像ソフトだった「SILKYPIX Developer Studio Pro」シリーズだが、最新の「SILKYPIX Developer Studio Pro 11」では大きな進化を遂げている。そのひとつが、2004年の発売以来初めてRAW現像エンジンを改良、新デモザイク処理技術「クリアビュー」が追加されたこと。これにより、従来と比較して画像の解像感が大きくアップ※。細かなディテールもくっきりと再現される。
※ベイヤー配列の撮像素子によるRAWデータに限る。
しかもクリアビューにするための特別な操作は必要なし。画像を調整画面で開くと同時に適用される。また、これまでのデモザイク処理「標準」に切り換えることも可能。好みや表現によって使い分けられる。
クリアビューは「現像設定」で
「クリアビュー」は「現像設定」で確認できる。ここから標準への変更も可能だ。さらにデモザイク精鋭度の調節も行なえる。もし解像感が高過ぎると感じたら、スライダーで数値を減らそう。
■従来のデモザイク処理「標準」で現像
これだけで見ると解像感は十分高い。
■新デモザイク処理「クリアビュー」で現像
さらに解像感が高くなり、標準より明らかに精鋭度が増した。建物の質感再現も向上している。
<拡大比較>
デモザイク処理「標準」 |
デモザイク処理「クリアビュー」 |
複数画像から2倍サイズの画像を生成「超解像」
「SILKYPIX Developer Studio Pro」シリーズは、合成機能に力を入れてきた。多重露光をはじめ、動体除去やストロボモーション、被写界深度合成など、合成によって得られる表現を豊富に備えている。「SILKYPIX Developer Studio Pro 11」では、さらに合成機能が強化された。そのひとつが「超解像」合成。同じ構図で撮影された複数の画像を合成し、画素数を1.5倍、もしくは2倍に増幅させる機能だ。
カメラにも撮影時にボディ内手ブレ補正を活用して画素数を増やす機能を持つ機種もあるが、「SILKYPIX Developer Studio Pro 11」では画像一致点検出技術により、撮影済みのRAWデータで処理が可能となる。「大きくプリントするのでオリジナルより画素数を増やしたい」「トリミングしても画質を落としたくない」などの場合に有効な機能だ。
超解像合成の手順
同じ構図で撮影した複数の画像を合成する。ここではサムネイル上段の3枚を合成して超解像の写真を作る。
合成の設定画面。「合成方法」の「超解像」のラジオボタンをクリック。オプションで画素数 (出力倍数) に1.5倍か2倍を選ぶことができる。出力形式はTIFF (16bit)、もしくはDNGとなる。
■1枚のRAWデータから現像
1枚のRAWデータからストレート現像。画素数はオリジナルと同じ約2000万画素 (5184×3888ピクセル) 。
■超解像データから現像
3枚を合成し、画素数を2倍にした超解像データ。「画素数2倍」は、縦の画素数と横の画素数がそれぞれ2倍になる。そのため全画素数は4000万画素ではなく約8000万画素 (10368×7776ピクセル) だ。これだけ大きなデータなら、A3ノビを超える大判プリントにも対応できる。
選んだ被写体以外は残さずノイズも低減「多重露光 (動体)」
超高感度で撮影した際、「SILKYPIX Developer Studio Pro 10」などでも同じシーンを重ねていくとノイズ低減ができた。しかし、これまでは動く被写体が入った画像には対応できなかった。「SILKYPIX Developer Studio Pro 11」の新しい機能「多重露光 (動体)」を選ぶと、代表コマに写っている被写体のみを残し、ほかのコマの被写体を残さずに合成することができる。主に高感度を使う夜のスナップや舞台撮影など、暗所でのアクティブなシーンで威力を発揮する。
多重露光 (動体) 合成の手順
サムネイルの上から2段目、左4枚を多重露光 (動体) 合成するために選択して「選択コマを合成」ボタンをクリックする。左端の白枠で囲まれた画像が代表コマ。代表コマはキーボードの矢印で変更できる。
合成の設定画面。合成方法の「多重露光 (動体)」を選択する。これで代表コマのみ被写体の画像が残される。手持ちの撮影での位置ずれを最小限に抑えたい場合は「手持ち撮影時の位置ずれを補正する」のチェックボックスにチェックを入れる。
■多重露光 (動体) で合成して現像
標識にピントを合わせ、通りを歩く人の後ろ姿を入れた。感度はISO6400。当然、人は動いているので従来は合成には向かない。しかし「多重露光 (動体)」は、合成を感じさせない仕上がりが得られた。
■代表コマのみ現像
代表コマのみRAW現像した。多重露光 (動体) の方が、高感度によるノイズが少ないのがわかる。
■通常の多重露光で合成して現像
通常の多重露光で合成すると、人物は影のように消えてしまった。背景のイルミネーションもずれている。
色をより詳細にコントロール「ファインカラーコントローラ 詳細モード」
色相・彩度・明るさを、写真に写っている色ごとに調整できる「ファインカラーコントローラ」はとても便利な機能だが、適用される色の幅が広すぎることがあった。「SILKYPIX Developer Studio Pro 11」ではファインカラーコントローラに「詳細モード」を追加、細かな調整が容易になった。また部分的に色相を大きく変えた表現も可能だ。好みの色調や彩度によりスムーズに追い込むことができる。
フラミンゴの羽毛を鮮やかにしてインパクトのある写真に
動物園で撮影したフラミンゴ。羽毛の赤を印象的に仕上げたい。しかしフラミンゴ全体の彩度が高いと不自然だ。そこで、①「ファインカラーコントローラ」を起動。②「詳細モード」に切り替えて、③スポイトで調整したい色をクリック。するとカラーサークルに指定した色の範囲が扇形に表示される。
扇形内の白点を動かすことで、コントロール対象の色相と彩度を調整できる。明度はスライダーが調整しやすい。また、白線をマウスでドラッグすることで、色相、彩度のコントロールする範囲を変更できる。
■Before
オリジナルの写真。フラミンゴの赤の濃い部分をもう少し鮮やかにしたい。
■After
「ファインカラーコントローラ」の「詳細モード」で濃い赤だけを指定して鮮やかにした。薄い赤は変化していないことに注目。オリジナルよりインパクトのある仕上がりになった。
緑の葉を紅葉に変えてみる
あえて異なる色相に移動させると、被写体の指定した色を大きく変えることができる。
■Before
オリジナルの写真。葉の色は緑だ。
■After
葉の部分だけ指定して、色相を動かすことで緑の葉を紅葉に変えた。被写体の色を部分的に変更したい場合に便利だ。
簡単かつ自然に不要物を消すことが可能「修整ブラシツール」
夢中になって撮影していると、うっかり余計なものが画面に入っているのに気付かないことがある。また、不要だとわかっていても、どうしても画面内に入ってしまう場合もあるだろう。以前からスポッティングツールを装備し、写り込んでしまったゴミ等を消すことは手軽にできたが、広い面積の処理は苦手だった。
そこで、「SILKYPIX Developer Studio Pro 11」で新たに搭載されたのが「修整ブラシツール」だ。画像の不要な部分をブラシでなぞるだけで不要物を除去できる。修整方法は「コピー」と「修整」の2種類。コピーは元画像をそのまま反映させ、修整は除去するオブジェクトの周囲の色になじむようにコピーすることができる。
風景から船だけ除去する
船が通っている川が流れる都市風景。ここから「修整ブラシツール」を使って船を除去する。
修整ブラシツールを起動し、船と波の部分をなぞる。除去するオブジェクトの大きさや形などによって、ぼかし量やブラシサイズの変更ができる。
ブラシでなぞって除去する部分を指定したら、マウスから指を離せば処理が始まる。ここでは「修整」を使用した。より自然な仕上がりになるように、反映部分の移動もできる。
■Before
オリジナルの写真。
■After
船が見事に消えた。難しいと思われがちな複雑な背景からのオブジェクトの除去だが、これならとても手軽だ。風景やポートレート、スナップなど、さまざまなシーンで活用できる。
必要なところにだけ効果を与える「部分補正ツール 明瞭度」
画面全体ではなく、必要な部分にだけ効果を与える「部分補正ツール」。作品の完成度を高めるのに必須のツールだ。今回そこに追加されたのが「明瞭度」と「シャープ」。よく似た機能だが「明瞭度」は被写体の質感再現の調整、「シャープ」は被写体の解像感の調整だ。
「明瞭度」を強めると被写体のディテールがくっきりし、弱めると柔らかい雰囲気になる。例えば、建物の壁の質感を強調したいなら「明瞭度」を強くし、人物の肌を柔らかく再現したいなら「明瞭度」を弱めるとよい。部分補正ツールは、指定した部分以外には影響を及ぼさないのもメリット。
人物の肌を柔らかい印象に
ここでは人物の肌を柔らかくしてみる。まず、①「部分補正ツール」を起動し、②ブラシを選択。調整したい部分をなぞる。ぼかし量やブラシサイズの変更も可能だ。
スライダーの一番下、「明瞭度」のスライダーをマイナス側に動かす。画像を部分拡大して行うと作業しやすい。
■Before
「明瞭度」を変更していないオリジナルの写真。
■After
顔の部分だけ「明瞭度」を下げた。肌が柔らかくなり、優しい雰囲気の写真に仕上がった。
<拡大比較>
オリジナル |
「明瞭度」を下げた写真 |
部分的にシャープを適用できるようになった「部分補正ツール シャープ」
これまで画面全体だけだった「シャープ」も、部分補正ツールにより部分的に適用できるようになった。画面にメリハリをつけて、印象的に仕上げられる。特にピントを合わせた部分を際立たせるのに効果的だ。
菜の花を際立たせて立体感を出す
菜の花に迫って撮影した写真。部分補正ツールのブラシで、ピントを合わせた部分をなぞる。
「効果」タブを選択し、「シャープ」のスライダーで調節する。「明瞭度」と同じく、画面を拡大すると作業しやすい。
■Before
「部分補正ツール」を使用していないオリジナルの写真。
■After
「部分補正ツール」でピントを合わせた花をシャープにした。オリジナルと比べてくっきりした印象になった。ただしシャープのかけ過ぎは不自然になるので、さり気なく使用するのがコツだ。
<拡大比較>
オリジナル |
「シャープ」適用後 |
初めてのRAW現像にもオススメ! これまでのRAW現像から1歩も2歩も進んだ処理ができる
「SILKYPIX Developer Studio Pro 11」は、RAW現像エンジンの改良をはじめ、強化された合成機能や部分調整機能などにより「高画質」と「追い込み」が大きくレベルアップしている。なんとApple ProRAWにも対応し、iPhone 12 Pro、12 Pro MAXで撮影したRAW画像から「ポートレート」「肌」「空」と自動で領域を選択、領域ごとに部分調整も可能となる※。
※2022年1月27日に、iPhone 13 PRO、13 Pro MAXにも対応した。
豊富な機能が直感的な操作で扱えるため、これまでのRAW現像から1歩も2歩も進んだ処理を行えるだけでなく、初めてRAW現像をする人にもオススメしたいソフトだ。作品制作がより楽しく、よりスムーズになること間違いない。
なお、2022年1月27日にMac版が発売された。これでMacユーザーもSILKYPIX最新版の高機能と高画質を活用できる。シリアルNo.はOSの区別なく使用可能なので、より便利に利用できるだろう!
SILKYPIX Developer Studio Pro 11
価格 (税込)
ダウンロード版 新規ライセンス価格
22,000円 (税込)
ダウンロード版 アップグレード価格
- SILKYPIX Developer Studio Pro9 / Pro10から : 8,800円
- SILKYPIX Developer Studio Pro8以前のProシリーズから : 11,000円
- SILKYPIX Developer Studioシリーズから : 13,200円
- バンドル製品※から : 17,600円
※バンドル製品は、デジタルカメラや交換レンズ付属のSILKYPIXシリーズ。
動作環境
Windows
- Microsoft Windows 11 / 10 / 8.1 64bit版 (Windows 10のタブレットモードには非対応)
- Intel Core 2 Duo以上 または AMD Athlon 64 X2以上のプロセッサー
- DirectX 10以上に対応したグラフィックボード
- 4GB以上のRAM (8GB以上推奨)
- 20GB以上の空き容量のあるハードディスク (選択コマの合成実行時は50GB以上の空き容量が必要となる場合がある)
- 1024×768以上の画面解像度をサポートするディスプレイ
macOS
- macOS 10.15 / 11 / 12
- Intel Core 2 Duo 以上のプロセッサー
- 4GB以上のRAM (8GB以上推奨)
- 20GB以上の空き容量のあるハードディスク (選択コマの合成実行時は50GB以上の空き容量が必要となる場合がある)
- 1024×768以上の画面解像度をサポートするディスプレイ
→「SILKYPIX Developer Studio Pro 11」の詳しい情報はこちらをチェック!
〈協力〉株式会社 市川ソフトラボラトリー