伊達淳一のレンズパラダイス『CAPA』2022年2月号 Other Shots
伊達淳一カメラマンがさまざまなレンズを使い倒しレビューする『CAPA』本誌人気連載の「レンズパラダイス」。2022年2月号の「レンズパラダイス」Other Shotsでは、II型へと進化したソニーGマスターシリーズの大口径望遠ズームレンズ「FE 70-200mm F2.8 GM OSS II」をピックアップ。従来モデル「FE 70-200mm F2.8 GM OSS」やテレコンバーター使用時の画質比較も含めて描写性能をチェックする。
目次
FE 70-200mm F2.8 GM OSS II 実写レビュー
スペック
[マウント] ソニーEマウント [最大径×長さ] φ88×200mm [重さ] 約1045g (三脚座を除く) [レンズ構成] 14群17枚 [最短撮影距離] ワイド端 0.4m、テレ端 0.82m [最大撮影倍率] 0.3倍 [絞り羽根枚数] 11枚 [フィルター径] φ77mm参考価格 330,000円 (税込)
ズームテレ端でもチーターの毛並みをシャープに描写
多摩動物公園のチーター。放牧場の比較的手前なら70-200mmズームでもなんとか守備範囲。ズームテレ端絞り開放でもキレッキレの解像で、うるさくなりやすい前方の微ボケも比較的穏やかだ。AFスピードも速く、動きモノの撮影も快適に行なえる。
ラバーダックのハイライト部ににじみもなくクリア
中之島ウエスト・冬ものがたり2021で、大阪・福島(ほたるまち)港に浮かぶラバーダックを田簔橋から撮影。輝度差が大きなシーンだが、ハイライトがにじんだりパープルフリンジが浮くこともなくクリアな描写。開放F値が明るいので、夜景も感度を抑えて撮影できるのが強みだ。
手ブレ補正の効きも良く、スローシャッターでもブレにくい
自宅近くの多摩川の堰で、水の流れを超スローシャッターで手持ち撮影。手ブレ補正の効きも悪くはなく、電子シャッターで撮影すれば微ブレを抑えられる確率は高い。夕空が水面に反射して、川面や水の流れのグラデーションが美しい。
夜の着陸機撮影には高感度に強いカメラがほしいところ
伊丹空港横の千里川の土手から着陸機を狙う。残念ながら、この日は空があまり焼けず、これ以降薄暮の時間帯には着陸機も来なかったので、滑走路の誘導灯が機体にキラリと反射したカットは、開放F2.8、ISO25600にしても暗すぎて被写体ブレ。ISO51200が常用できるカメラでないと、このレンズで夜の着陸機を被写体ブレなく撮影するのはむずかしい。
ISO4000でノイズは浮き始めてるが睫毛の線は崩れず再現
日が暮れてから薄暮が残る時間帯にハウススタジオ脇の屋外で撮影。レフ板で顔の陰を起こしているが、暮景と組み合わせたポートレートでもない限り、普通なら撮影しようとは思わない暗さ。絞り開放でもISO4000なので、多少ノイズが浮き始めているが、レンズの解像性能が高く、高感度NRがかかっても睫毛の細い線が潰れずに残っている。
寄りに強く近寄ってきたマヌルネコにもピントが合う
神戸どうぶつ王国のマヌルネコをガラス越しに撮影。このレンズはワイド側での最短撮影距離が短いので、ガラス近くまで動物が近寄ってきても対応できるのが強みだ。神戸どうぶつ王国は動物との距離が近く、檻やガラスのない動物展示も多いので、70-200mmF2.8ズームがあれば動物をそこそこアップで撮影できる。被写体ブレの心配が少ないシャッタースピードでも、それほど高感度にならずに済む。
シャドー部の再現性も高く、オニオオハシをクッキリ描写
掛川花鳥園のオニオオハシ。園内で販売されているおやつ(リンゴ)をパクッと食べる瞬間を狙ってみた。背景がかなり明るめだったので、オニオオハシの黄色いくちばしが鮮やかに写るように、思いっきりプラスの露出補正をかけて撮影しているが、ヌケが良く、黒い羽根がフレアで黒浮きしていないのは見事。ピント面の解像も文句なしだ。
FE 70-200mm F2.8 GM OSS II + 1.4×テレコンバーター SEL14TC で撮影
少しにじみやすくなるが高い解像性能のまま
多摩動物公園のチーターを1.4倍テレコンを装着してテレ端の280mm相当で撮影。少しだけハイライトがにじみやすくなるが、絞り開放でも並の望遠ズーム以上の解像だ。1.4倍テレコンを装着しても開放F4で、100-400mmズームより1段も明るいので、明るさが不足するシーンで感度を抑えて撮影できるのも強みだ。
1/3絞るだけでにじみが抑えられ機体はクリアに
伊丹空港横の千里川の土手からA滑走路に着陸する飛行機を撮影。長さが短いA滑走路に着陸する飛行機は小型機なので、テレコンを装着しないと、積乱雲などと絡めない限り間延びした写真になってしまう。開放から1/3段だけ絞っているが、それだけでもハイライトのにじみ感が抑えられ、テレコンの存在を感じさせない描写が得られている。
FE 70-200mm F2.8 GM OSS II + 2×テレコンバーター SEL20TC で撮影
2倍テレコン装着では解像が低下し機体のにじみも目立つ
伊丹スカイパークからランディングの瞬間を狙ってみた。2倍テレコンを装着すると140-400mmF5.6になるので、100-400mmの代用になるのでは? と期待する人もいるだろうが、残念ながらハイライトがにじみ、解像とコントラストも低下する。1段絞ればかなりマシになるが、少しでも速いシャッターが切りたい動体撮影では絞り開放の描写が重要なので、1.4倍テレコンで撮影したカットをトリミングしたほうが総合的な描写は上だと思う。
200mm開放 (F2.8) 描写比較
FE 70-200mm F2.8 GM OSS II |
FE 70-200mm F2.8 GM OSS |
■部分拡大
FE 70-200mm F2.8 GM OSS II |
FE 70-200mm F2.8 GM OSS |
FE 70-200mm F2.8 GM OSS II |
FE 70-200mm F2.8 GM OSS |
II型はカラーコンタクトの模様までわかる高い解像
「FE 70-200mm F2.8 GM OSS」と「FE 70-200mm F2.8 GM OSS II」のズームテレ端絞り開放描写を比較してみた。色の付いたLEDは後ボケ、アンバーのLEDは前ボケで、口径食はI型もII型も同程度だが、ピント面 (目) の解像は圧倒的にII型が上。II型は、細い睫毛やカラーコンタクトの模様までビシッと解像している。
I型は、球面収差が多少残っているのか少し解像に緩さはあるが、女性ポートレート撮影では肌の荒れが必要以上に目立たないのはメリット。ボケの輪郭は、II型のほうが収差がしっかり補正されていて、少し縁取り感はあるものの輪線の残骸のようなボケの模様はI型のほうがほんの少しだけ目立つ。絞り開放の解像の鋭さを求めるなら断然II型だ。
遠景解像比較 (70mm時)
70mm F2.8時
■FE 70-200mm F2.8 GM OSS II (F2.8)
■FE 70-200mm F2.8 GM OSS (F2.8)
■部分拡大
FE 70-200mm F2.8 GM OSS II |
FE 70-200mm F2.8 GM OSS |
70mm F4時
■FE 70-200mm F2.8 GM OSS II (F4)
■FE 70-200mm F2.8 GM OSS (F4)
■部分拡大
FE 70-200mm F2.8 GM OSS II |
FE 70-200mm F2.8 GM OSS |
70mm F5.6時
■FE 70-200mm F2.8 GM OSS II (F5.6)
■FE 70-200mm F2.8 GM OSS (F5.6)
■部分拡大
FE 70-200mm F2.8 GM OSS II |
FE 70-200mm F2.8 GM OSS |
絞り開放でも中央から周辺までII型の描写性能は高い
II型は絞り開放から周辺まで解像とコントラストが高く、F4まで絞ると樹の細い枝など輪郭がエッジ立ってくるほど高解像になる。一方I型は、画面中央では絞り開放で多少にじみがあって、コントラストが低めだが解像はしっかりしている。F4まで絞るとにじみが低減しコントラストも向上してくる。ただ、画面周辺はコントラストが低いだけでなく解像も少し緩めで、特に絞り開放の周辺は樹の細い枝はほとんど解像せず、ベタッと潰れたトーンになってしまう。F4まで絞れば少しは解像してくるが、F5.6まで絞ってもII型の絞り開放周辺描写には及ばない。
遠景解像比較 (200mm時)
200mm F2.8時
■FE 70-200mm F2.8 GM OSS II (F2.8)
■FE 70-200mm F2.8 GM OSS (F2.8)
■部分拡大
FE 70-200mm F2.8 GM OSS II |
FE 70-200mm F2.8 GM OSS |
200mm F4時
■FE 70-200mm F2.8 GM OSS II (F4)
■FE 70-200mm F2.8 GM OSS (F4)
■部分拡大
FE 70-200mm F2.8 GM OSS II |
FE 70-200mm F2.8 GM OSS |
200mm F5.6時
■FE 70-200mm F2.8 GM OSS II (F5.6)
■FE 70-200mm F2.8 GM OSS (F5.6)
■部分拡大
FE 70-200mm F2.8 GM OSS II |
FE 70-200mm F2.8 GM OSS |
テレ端でも開放から安心して使えるII型の描写力
ワイド端の70mm域と同様、II型は画面中央はもちろん周辺部まで絞り開放からコントラストも高く、細部までキリッとした解像が得られ、絞ってもそれほど画質は変化しない。絞り開放から安心して使える解像性能だ。一方I型は、絞り開放で少しにじみがありコントラストが低めだが、画面中央の解像性能はまずまず。F4まで絞るとにじみが収まり、F5.6で急激に解像感が増してくる。周辺部の描写もワイド端のような緩さはなく、画面中央に近い解像性能だ。風景など細部描写力を求めるならF5.6あたりがベストな解像だ。
テレコン装着時の画質比較 (280mm時)
■FE 70-200mm F2.8 GM OSS II + 1.4×テレコンバーター SEL14TC (F4)
■FE 70-200mm F2.8 GM OSS II + 1.4×テレコンバーター SEL14TC (F5.6)
■FE 70-200mm F2.8 GM OSS + 1.4×テレコンバーター SEL14TC (F4)
■FE 70-200mm F2.8 GM OSS + 1.4×テレコンバーター SEL14TC (F5.6)
■FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS (F5.6)
■FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS (F5.6)
■部分拡大
FE 70-200mm F2.8 GM OSS II + 1.4×テレコンバーター SEL14TC (F4) |
FE 70-200mm F2.8 GM OSS II + 1.4×テレコンバーター SEL14TC (F5.6) |
FE 70-200mm F2.8 GM OSS + 1.4×テレコンバーター SEL14TC (F4) |
FE 70-200mm F2.8 GM OSS + 1.4×テレコンバーター SEL14TC (F5.6) |
FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS (F5.6) |
FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS (F5.6) |
II型をF5.6まで絞るとキレのある描写に改善する
素の状態では、絞り開放から揺るぎのない解像とコントラストが得られたII型だが、1.4倍テレコンを装着すると、絞り開放で少しハイライトににじみが感じられ、周辺部の画質も少し緩さが出てくる。ただ、並の望遠ズームよりは安定した開放描写で、F5.6まで絞るとコントラストが向上してキレのある描写に改善する。
I型は、絞り開放ではコントラストだけでなく解像も少し緩くなってくるが、F5.6まで絞ればかなりスッキリとした描写になる。参考までに、「FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS」と「FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS」の280mm域絞り開放とも比較してみたが、1.4倍テレコンを装着した「FE 70-200mm F2.8 GM OSS II」の絞り開放と比べば、100-400mmや200-600mmが上。ただしF5.6まで絞れば「FE 70-200mm F2.8 GM OSS II」+1.4倍テレコンのほうがキレがある。
テレコン装着時の画質比較 (400mm時)
■FE 70-200mm F2.8 GM OSS II + 2×テレコンバーター SEL20TC (F5.6)
■FE 70-200mm F2.8 GM OSS + 2×テレコンバーター SEL20TC (F5.6)
■FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS (F5.6)
■FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS (F5.6)
■部分拡大
FE 70-200mm F2.8 GM OSS II + 2×テレコンバーター SEL20TC |
FE 70-200mm F2.8 GM OSS + 2×テレコンバーター SEL20TC |
FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS |
FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS |
400mm以上の超望遠撮影には II型+テレコンは向かない
2倍のテレコンを装着すると、さすがのII型も解像とコントラストが緩くなってきて、金属の反射など高輝度部分ににじみが生じる。「FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS」や「FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS」の絞り開放描写と比べると、解像も少し緩くなる。比較的単純な絵柄でコントラストが高い被写体であれば、思ったよりも解像感のある開放描写が得られるケースもあるが、動物の毛並みなど絵柄が細かくコントラストも低めの被写体を高感度で撮影すると、細部がベタッとした描写になりやすい。
2倍テレコン装着は、II型といえども2段ほど絞って使うのでなければ個人的には推奨したくない。I型はハイライトのにじみがかなり目立ってきて、絞り開放はソフトフォーカス効果を狙うのでなければ厳しい描写。ただし2段絞れば使えなくもない描写にはなるが、そこまで絞って2倍テレコンを併用すべきかは疑問だ。400mm以上の超望遠の描写を重視するなら、素直に「FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS」(もしくは「FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS」) の導入を検討したほうがいいと思う。
※参考価格は記事執筆時点の量販店価格です。