伊達淳一のレンズパラダイス『CAPA』2022年5月号 Other Shots
伊達淳一カメラマンがさまざまなレンズを使い倒しレビューする『CAPA』本誌人気連載の「レンズパラダイス」。2022年5月号の「レンズパラダイス」Other Shotsでは、キヤノンの広角ズームレンズ「RF14-35mm F4 L IS USM」と望遠ズームレンズ「RF70-200mm F4 L IS USM」をピックアップ。2本とも開放F値をF4とすることで小型軽量化を図り、取り回しのしやすさが特徴だが、肝心の描写性能はどうだろう?「EOS R5」と組み合わせてチェックした。
目次
キヤノン RF14-35mm F4 L IS USM
スペック
[マウント] キヤノンRFマウント [最大径×長さ] 約φ84.1×99.8mm [重さ] 約540g [レンズ構成] 12群16枚 [最短撮影距離] 0.2m [最大撮影倍率] 0.38倍 [絞り羽根枚数] 9枚 [フィルター径] φ77mm参考価格 236,500円 (税込)
周辺部までキレの良い描写が得られる
14mmという超広角を生かして、新宿御苑の大しだれ桜を内側から撮影。手前と奥の枝はそれなりに距離があるので、被写界深度を確保するためF8まで絞っているが、ごく手前の花以外は周辺までビシッとキレの良い描写が得られている。
周辺解像は非常に安定している
新宿御苑の寒桜。新宿エリアのランドマーク的存在のドコモタワーまで被写界深度でカバーするため、F11まで絞って撮影。光の回折でわずかにエッジが鈍ってきている感はあるが、周辺解像は非常に安定している。軽量コンパクトなので、持ち歩くのもまったく苦にならない。
テレ側の描写は「RF24-105mm F4 L IS USM」よりもクセがない
14mmスタートの超広角ズームながら、35mm域までカバーしているのが特徴。このカットは、満開の高遠小彼岸を35mmで切り取ったもので、個人的には「RF24-105mm F4 L IS USM」よりも周辺解像と微ボケの描写にクセがないように感じる。
ゴーストやフレアの発生は軽微
特殊コーティング「SWC (Subwavelength Structure Coating)」と「ASC (Air Sphere Coating)」の両方が施されており、太陽を直接画面内に入れてもゴーストやフレアの発生は軽微。光条はさほど出やすいわけではないが、F14前後まで絞ればそれなりに光条が伸びる。
77mm径のフィルターが使えるのも特徴
ショートバックフォーカス設計により、14mmをカバーする超広角ズームでも77mm径のフィルターを装着できるのも特徴。さすがに14mmで不用意にPLフィルターを使うと、青空に偏光ムラが目立ちやすいが、少しテレ側にズームすればPLフィルターが使えるシーンも多くなる。
最短撮影距離は20cmで背景をぼかした表現が可能
最短撮影距離はズーム全域で20cm。このカットはワイド端でサーボAFで徐々に近づきながら最短撮影距離付近で撮影したカットだ。花のシベと花びらの両方をクッキリ見せたかったので、開放から2/3段だけ絞っているが、それでも14mmの超広角で背景をここまで大きくぼかした表現が楽しめる。
細かい繊維まで解像する高い描写性能
ワイド端絞り開放で撮影。傘の骨の周りの細い糸の繊維までしっかり解像している。背景の松の葉に反射した光が二線ボケになっているが、ボケ領域のコントラストが必要以上に高くないこともあり、それほどうるさくなっていないのが救いだ。
ビルの灯りなども崩れず安定した描写
本来ならもう少し絞って撮影するケースだが、夜景の開放描写をチェックするため、あえて絞り開放で撮影してみた。ズーム中域の20mmだが、ごく周辺部以外は色のはみ出しやコマ収差による乱れはなく、大桟橋に停泊中の飛鳥Ⅱの灯火やみなとみらいのビルの灯りも安定した描写となっている。街灯の強い光でもゴーストは発生していない。
F6.3くらいがもっともシャープに写る
山下公園のしだれ桜。新宿御苑の桜を満喫していて到着が遅くなってしまい、ビルの陰で桜に光が当たらなくなってしまったが、日没間際に光が差し込むワンチャンスを狙ってみた。しだれ桜全体にピントを合わせるためF6.3まで絞っているが、これくらいの絞り値がもっともシャープに写る。
地明かりだけに照らされた桜をクリアに再現
日が暮れて、空にまだ明るさが残る薄暮の時間帯。しだれ桜は特にライトアップされているわけではなく、街灯の光で明るく見えるだけ。薄暮の空と地明かりのしだれ桜、ライトアップされた氷川丸のバランスが取れるのはわずかな時間帯。しかも、風で桜が揺れるので、高感度になりすぎない範囲で必要最小限に絞って撮影している。
キヤノン RF70-200mm F4 L IS USM
スペック
[マウント] キヤノンRFマウント [最大径×長さ] 約φ83.5×119.0mm [重さ] 約695g [レンズ構成] 11群16枚 [最短撮影距離] 0.6m [最大撮影倍率] 0.28倍 [絞り羽根枚数] 9枚 [フィルター径] φ77mm参考価格 236,500円 (税込)
逆光に輝く桜ににじみは見られない
新宿御苑の大しだれ桜を絞り開放で撮影。ピント位置は後方に枝垂れた枝に咲いている桜の花で、樹の幹は被写界深度外で少しだけぼけているが、コントラストの高い被写体ではないので自然に見える。逆光で光っている花もにじみはほとんどなく、周辺解像の乱れも感じない。
後方の微ボケにほんのわずかなざわつきを感じる
新宿御苑のハチジョウキブシを絞り開放で撮影。ピント面はピクセル等倍でも非常にシャープな描写。後方の微ボケは少しざわつきを感じるが、そこからもう少しぼければ、望遠レンズならではのフワッとしたボケを楽しめる。
ヒヨドリの羽の模様までしっかり解像
残念ながらテレコンには非対応なので、野鳥撮影にはかなり力不足だが、たまたま寒桜を撮影していたらヒヨドリが近くの枝に留まってくれたので、無音の電子シャッターで狙ってみた。ヒヨドリの羽の模様がしっかり解像していて、4500万画素の「EOS R5」ならAPS-Cクロップ撮影するのもありだろう。
AFのスピードは速く、精度も的確
まん延防止等重点措置が解除され、約2か月半ぶりの開園となった多摩動物公園に出掛けたら、3月22日にもかかわらずまさかの雪! となり、待望の雪レッサーを撮影できた。200mmでは少し望遠不足だが、そのぶん、雪が舞っている感を強調できている。AFスピードも速いが、現時点はサーボAF時のフルタイムMF操作には非対応だ。
中望遠マクロ顔負けのアップ撮影ができる
最短撮影距離はズーム全域で60cm。70-200mmクラスのズームレンズの中では抜群の近接撮影能力だ。このカットは前ボケを入れながら、サーボAFで被写体に徐々に近づきながら、最短撮影距離付近で撮影したもの。テレ端直前の望遠域なので、中望遠マクロ顔負けのアップ撮影ができた。
開放F4ズームとしては総合的に美しいボケ描写
公園の植え込みから真っ直ぐ伸びたユキヤナギ。白い花なので軸上色収差があるとすぐにわかるが、絞り開放撮影でもピント面はもちろん、前後のボケにも色づきはなし。周辺部のボケが少しざわつくような崩れ方をしているのが惜しいが、総合的には開放F4のズームとしては美しいと思う。
チューリップの花の筋までしっかり解像
自宅近くの小さな公園に咲いていたチューリップをパチリ。標準ズーム並みにコンパクトなので、持って歩くのが苦にならない。それほどアップで撮影していないのに、チューリップの花びらの葉脈的な筋までしっかり確認できる。前後のボケも自然だ。
後方の枝のボケが少しざわついているがうるさくはない
雪の多摩動物公園で、雪が積もり始めた枯れ木がフォトジェニックだったので、ホワイトバランスを少しブルーにシフトさせて、望遠の狭い画角で切り取ってみた。絞り開放で撮影しているので、画面中央以外の枝は少し微ボケ気味だが、いらだつほどうるさくはない。ピントを合わせた中央エリアは降雪でコントラストは低めながら、シャープな描写が得られている。
RF70-200mm F4 L IS USM 絞りによる口径食の変化
口径食は少なめで、F5.6~8で解消
絞り開放では口径食はそれなりに出るが、渦を巻いて見えるほどの欠けではなく、F5.6~F8まで絞れば、ほぼ円形のボケになる。後ボケの輪郭に縁取り感はなく、非常に素直なボケ味だ。
■F4
■F5.6
■F8
■F11
RF70-200mm F4 L IS USM vs RF70-200mm F2.8 L IS USM ボケ比較
大きなボケや明るさ以外は互角の描写力
当然ではあるが、F2.8 Lのほうが開放絞りのボケは大きく、同じF4での比較でもF2.8 Lは絞ることで口径食が少なくなり、F4 Lよりも大きめだ。とはいえ、ピント面の解像や軸上色収差の少なさはどちらも素晴らしく、F2.8ならではの大きなボケや明るさを特に重視しないのであれば、小型軽量で実売で10万円以上安いF4 Lも非常に魅力的な選択肢といえる。
■RF70-200mm F2.8 L IS USM (F2.8)
■RF70-200mm F2.8 L IS USM (F4)
■RF70-200mm F4 L IS USM (F4)
※参考価格は記事執筆時点の量販店価格です。