伊達淳一のレンズパラダイス『CAPA』2022年7月号 Other Shots
伊達淳一カメラマンがさまざまなレンズを使い倒しレビューする『CAPA』本誌人気連載の「レンズパラダイス」。2022年7月号の「レンズパラダイス」Other Shotsは、NIKKOR Zレンズ初となる超望遠ズーム「NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S」と、ミラーレンズを採用した小型超望遠レンズ「トキナー SZX 400mm F8 Reflex & 2X エクステンダーKIT MF」をピックアップ。400mmクラスの超望遠の描写力をチェックしてみた。
前編では「NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S」の描写を実写作例で見ていこう。
目次
- NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S 実写チェック
- トキナー SZX 400mm F8 Reflex & 2X エクステンダーKIT MF 実写チェック
NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S
スペック
[マウント] ニコンZマウント [最大径×長さ] 約φ98×222mm [重さ] 約1435g (三脚座を含む) [レンズ構成] 20群25枚 [最短撮影距離] 0.75m (焦点距離100mm時) / 0.98m (焦点距離400mm時) [最大撮影倍率] 0.38倍 [絞り羽根枚数] 9枚 [フィルター径] φ77mm参考価格 349,800円 (税込)
ISO4000だが雛の細かい毛並みまで解像
近所の川でカルガモの雛が11羽誕生。これは川に出てきた翌日の写真で、まだお母さんから離れず密集して泳いでいる姿が愛らしい。川に隣接する道路から見下ろす形で距離を取って撮影しているが、400mmなら隊列を撮るのにちょうどいい画角。感度はISO4000で、そろそろ高感度NRで細部が甘くなってくる領域だが、ピクセル等倍でチェックしてみても雛の細かい毛並みまでしっかり解像できていた。
曇りの夕方なので揺らぎは少なく、メリハリのある描写に
羽田空港第2ターミナル展望デッキから、都心ルートで着陸する機体を撮影。通常、地表付近は空気の揺らぎが大きく、どんなに高性能なレンズを使ってもまともに解像しない。この日は曇りの夕方ということもあり、像は多少揺らいではいるがコクピットや機体の文字もしっかり描写され、コントラストも高く、メリハリのある描写が得られている。
条件が整えば機体の細かな文字までクッキリ解像
写真は明るく写っているが、マジックアワーも終わり薄暮から夜に突入しようかという時間帯。滑走路にゆっくりと移動する機体を1/60秒で追い写ししているが、機体の動きにピタッと合わせられたため、接合部や細かな文字までクッキリと解像。尾翼のリベットまで解像している。ピンボケとブレ、空気の揺らぎさえなければ、素晴らしい解像が得られるレンズだ。
ボケに色づきは見られず、うるさくもない
新しいレンズを手にすると、必ず撮ってみるのが、日が当たった自転車。泥よけやスポークなど金属の鏡面反射に、パープルフリンジやボケの色づきが出ていないか? スポークなどコントラストの高い被写体の微ボケが必要以上にうるさくなっていないかをチェック。このレンズは軸上色収差がよく補正されているので、パープルフリンジもボケの色づきもなく、うるさい微ボケも出ていない。
速くはないが、捕捉した被写体をしっかり追従するAF
多摩動物公園のサーバル。檻越しの撮影なのでボケがうるさくなっているが、サーボAFの追従性は悪くなく、動物瞳AFで目にしっかりピントを合わせ続けてくれている。AFサーチ時の駆動スピードは驚くほど速いわけではないが、一度、捕捉した被写体の動きはしっかり追従できている。
カリカリせず適度な解像で毛並みを優しく描写
多摩動物公園のお食事中のキリン。Zニッコールレンズというと、もっとエッジ立った解像が得られるイメージだが、このレンズはそこまでカリカリではなく、それでいて細い毛までちゃんと解像しているので、毛並みがゴワゴワにならず、ふんわり優しい描写が得られている。カメラの輪郭強調が効きやすいクッキリした輪郭の被写体だと、もう少しカリカリの仕上がりになる。背景の金網や木漏れ日は少し二線ボケ傾向だ。
近接撮影時でもにじみはほとんど見られない
最短撮影距離はワイド端で75cm、テレ端で98cmと、焦点距離によって変わる。このカットはテレ端の最短撮影距離付近までアジサイに近寄って撮影したものだ。近接撮影時のフォーカススピードはあまり速くなく、一度フォーカスを外すと戻ってくるのに少し待たされる。ピント合わせは大変だが、絞り開放で近接撮影してもマルチフォーカスの採用でにじみの少ないキレの良い描写が期待できる。この写真は被写界深度を深くするためF10まで絞っている。
二線ボケ傾向だがナーバスなまでにはならない
タチアオイがキレイに咲いていたので、横位置構図でパチリ。撮影した写真を確認したら、画面中央の花の中にいる虫までシャープに写っていてビックリ。背景のボケもフワッと大ぼけして美しいグラデーションになっている。後方で微ボケになっているタチアオイの茎を見ると、少し二線ボケ傾向は見られるが、「NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S」ほどカリカリしていないので、それほどナーバスな微ボケにはなりにくい印象だ。
高画素機で光量が少ない場面ではDXクロップが好結果に
多摩動物公園のオランウータン。テレ端400mmまでズームしても周囲に余計なものが写ってしまうので、DXクロップに切り換え換算510mm相当の画角で撮影している。1.4倍と2倍のテレコンバーターも装着できるが、開放F値が1段もしくは2段落ち光学性能も多少低下するので、高感度NRに飲まれやすくなる。個人的に「Z 7II」のような高画素機でそれほど光量がないシーンを狙うなら、テレコンよりもクロップ撮影したほうが総合的には好結果が得られると思う。
空気の揺らぎもあるので、DXクロップ撮影がオススメ
羽田空港第2ターミナル展望デッキから着陸した瞬間を狙う。小型機だと400mmは望遠不足になるケースが多くテレコンが欲しくなるが、テレコンを装着しても地表近くは空気の揺らぎが大きくまともに解像しないので、高画素機ならDXクロップで撮影するのがオススメ。ISO12800でも細部が溶けない高感度に強い機種以外、1.4倍テレコンはDXクロップでもまだ望遠が足りないときの最終手段だ。
※参考価格は記事執筆時点の量販店価格です。
後編では「Tokina SZX 400mm F8 Reflex & 2X エクステンダーKIT MF」の描写力をチェックします。