機材レポート

20mmからの10倍ズームを実写で徹底チェック! AFは? 近接撮影力は? Sigma 20-200mm F3.5-6.3 DG | Contemporary【後編】

20mmの超広角から200mmの望遠まで1本でカバーできる世界初のフルサイズ対応高倍率ズーム「Sigma 20-200mm F3.5-6.3 DG | Contemporary」。前回はその画角変化と画質についてレビューしたが、今回はAFの速さや近接撮影の強さ、低照度での撮影についてチェックしてみよう。

Sigma 20-200mm F3.5-6.3 DG | Contemporary 実写レビュー
2025年9月25日発売 参考価格143,000円 (税込)
Sigma 20-200mm F3.5-6.3 DG | Contemporary 実写レビュー
  1. 【前編】画角変化&画質をチェック
  2. 【後編】AF・近接撮影力・低照度撮影力をチェック

気になるAFはリニアモーターHLA採用でかなり高速

フォーカス駆動にリニアモーターHLAを採用しているので、フォーカスレンズを前後にダイレクトに動かせ、しかも、動作も俊敏だ。ただ、シャッターボタン半押しでAF-C撮影している際、急激にズームすると、ズームに伴うフォーカスの補正が追いつかずピンボケになりやすいので、連写しながらズーミングするのは避けた方が賢明だ。HLA搭載でフォーカス駆動が速いので、ズームしてからシャッターボタンを半押しし直しても、シャッターチャンスに間に合う確率は高い。

■空港で離陸機を撮影

羽田空港第2ターミナル展望デッキから離陸機が東京スカイツリーと絡む瞬間を狙ってみた。フルサイズの200mmではあと少し望遠不足だが、わずかな望遠不足はトリミングでカバーできる。空気の揺らぎの影響も少ないこともあり、離陸機をピクセル等倍でチェックしても、非常にシャープで機体の輪郭にニジミもなく、A330-300という機種表記まで読み取れた。それだけAF-Cで精度良くピントを合わせられている証拠だ。

Sigma 20-200mm F3.5-6.3 DG | Contemporary 実写レビュー
ソニー α7R V シグマ 20-200mm F3.5-6.3 DG | Contemporary シャッター優先オート 1/1600秒 F6.3 −0.3補正 ISO160 WB : 晴天 200mm域

■走る馬を撮影

「愛馬の日」に馬事公苑で開催されたフリーダムホースショーを観客席の最後部から撮影。場内を駈ける馬とそれを追う騎手の両方が入るようにズームを調整。ちょうど馬が跳ねて宙を舞っているカットを選んでみたが、ピントは手前の馬にビシッと合っていて、跳ね上がった尾の毛並みもシャープで躍動感がある。

Sigma 20-200mm F3.5-6.3 DG | Contemporary 実写レビュー
ソニー α7R V シグマ 20-200mm F3.5-6.3 DG | Contemporary シャッター優先オート 1/2000秒 F6.3 +0.3補正 ISO400 WB : 晴天 175mm域

より望遠が欲しいときはAPS-Cクロップでのテレ側300mm撮影が有効

ただ、レンズのフォーカス駆動は高速とはいえ、動体にしっかり追従できるかは、カメラボディのAFや連写性能にも大きく依存する。ソニーα7シリーズは、連写スピードが最高10コマ/秒と遅くはないが、動きの速い被写体を撮るには少々力不足。

また、画角の面で言うと、スポーツや動物園などカメラとの距離が少し離れている撮影では、200mmではちょっと足らないこともある。そんなときは、APS-Cクロップに切り換えて撮影するのが効果的。記録画素数は少なくなるが、「α7R V」」のような高画素機ならAPS-C機と同じ画素数で記録でき、換算30〜300mm相当の画角で撮影できる。広角不足はどうやっても補えないが、望遠不足はトリミング (APS-Cクロップ) である程度カバーできるので、ズームのワイド端が広いというのはやはり利便性が高い。

■流鏑馬を300mm相当で撮影

「愛馬の日」に馬事公苑で行われた流鏑馬を撮影。的の近くの最前列はすでに見物客でいっぱいだったので、向かってくる馬を正面から狙ってみたが、被写体までの距離が遠く、やはり200mmでは明らかに望遠不足。そこで、APS-Cクロップに切り換え、300mm相当の画角で撮影。写真の的を射る瞬間はまだまだ遠くてアップでは写せなかったが、その後、馬が画面いっぱいに写るまで接近してきてもAFはしっかり追従してくれた。

Sigma 20-200mm F3.5-6.3 DG | Contemporary 実写レビュー
ソニー α7R V シグマ 20-200mm F3.5-6.3 DG | Contemporary シャッター優先オート 1/2500秒 F6.3 +0.3補正 ISO800 WB : 晴天 200mm域 (APS-Cクロップで300mm相当)

25mmから85mm域ではハーフマクロ撮影が可能

このレンズを使っていて楽しかったのは、ワイド端20mmスタートという画角の広さと、ワイドから標準域では驚くほど被写体に寄って撮影できること。もっとも寄れるのは28mm時の16.5cmだが、20mmでも25cm、28~85mm域はハーフマクロ撮影ができるほど寄れるので、花やテーブルフォトなど身近な被写体もクローズアップでフォトジェニックな写りにできる。

ただ、フルサイズの近接撮影は、開放F値が明るくなくても被写界深度は非常に浅くなり、花のシベにピントを合わせようと思っても、風で花が揺れたり撮影者自身も微動してしまうので、なかなか狙った箇所にビシッとピントが合いにくいし、カメラのAF自体も花のシベなど小さな箇所にピンポイントでピントを合わせるのは苦手で、少し後ろの方にピントが合ってしまうケースも多い。

このような場合は、MFに切り換え、撮りたい構図に調整後、ピントを合わせたい箇所をライブビュー拡大し、狙った箇所にピントが合ったことを確認してシャッターを切るのが確実。このレンズは、レンズ側にAF/MF切り換えスイッチがあるので、瞬時にAFとMFを切り換えられるのも便利だし、レンズ前方のフォーカスリングの動きも軽くてなめらかだ。

■約85mm ハーフマクロ撮影

蝶に近づくとすぐに逃げられてしまうので、ハーフマクロ撮影できるもっとも焦点距離が長い85mmにズームを調整。電子シャッターで無音にし、AF-Cで高速連写しまくりながら少しずつ蝶に近づいてみた。昆虫認識ができる「α7R V」とはいえ、蝶の目にズバピンが来る確率は高くはないが、それでも運良く目にピントが合ったカットは非常にシャープな描写だ。

Sigma 20-200mm F3.5-6.3 DG | Contemporary 実写レビュー
ソニー α7R V シグマ 20-200mm F3.5-6.3 DG | Contemporary シャッター優先オート 1/500秒 F6.3 ISO500 WB : 晴天 86mm域

■約28mm ハーフマクロ撮影

白鷺の形をしているサギソウを、最短撮影距離がズーム全域で最短である28mm域で撮影。風でサギソウがゆらゆらと揺れるので、揺れが収まった瞬間にAF-Cでひたすら連写。ハーフマクロまであと少しという超クローズアップ撮影でも、輪郭やボケに色づきはなく、白い花がちゃんと白く再現されている。ワイドのセミマクロ撮影なので被写体のカタチがボケすぎないのもイイ。高倍率ズームとは思えないクローズアップ撮影能力だ。

Sigma 20-200mm F3.5-6.3 DG | Contemporary 実写レビュー
ソニー α7R V シグマ 20-200mm F3.5-6.3 DG | Contemporary 絞り優先オート F4 1/1600秒 ISO200 WB : 晴天 28mm域

レンズIS非搭載だがボディ内ISとの相性は抜群

開放F値はF3.5-6.3。大口径の標準ズームや単焦点レンズよりは開放F値が暗いとはいえ、高倍率ズームとしては標準的なスペックだ。ただ、レンズIS (手ブレ補正機構) を搭載しておらず、ボディISを搭載していないカメラで使う場合は、手ブレのリスクが高まる低照度では感度を上げて対処することになるが、このレンズが対応しているソニーEマウントやライカLマウントのフルサイズ機はボディISを搭載しているので、特に不便は感じないだろう。

ちなみに、「ソニー α7R V」と組み合わせた場合、ワイド側なら1/2秒前後のスローシャッターで手持ち撮影しても、かなりの確率でブレずに撮影できた。手すりなどで半固定撮影できるなら、望遠側でも1/8秒前後でもブレを抑えた撮影ができるので、水の流れをスローシャッターで表現したり、感度を抑えることでノイズリダクションによる画質低下を避けることができる。これは、レンズの性能というよりボディの性能を褒めるべきかもしれないが、レンズ自体が軽量で、鏡筒も比較的スリムなので、安定したホールディングができる。

■シャッタースピード 0.4秒

野鳥をアップで撮影するには200mmでは望遠不足だが、野鳥のいる風景としてなら十分通用する画角。日も暮れてかなり暗くなっていたので、通常なら感度を上げて対応するところだが、コサギの動きがほとんどなかったので、思い切って低感度でシャッタースピードを遅くし、魚道の水流をなめらかにブラしてみた。

Sigma 20-200mm F3.5-6.3 DG | Contemporary 実写レビュー
ソニー α7R V シグマ 20-200mm F3.5-6.3 DG | Contemporary シャッター優先オート 1/2.5秒 F6.3 −1補正 ISO125 WB : 晴天日陰 200mm域

■ボディ内手ブレ補正が効かないバルブ撮影時

自宅から数百m先が花火の打ち上げ場所だが、ベランダからだと電線がジャマ。そこで、雲台を半固定にして、打ち上がった花火をクレー射撃の要領で追い、花火が開く直前に雲台を固定し、望遠でバルブ撮影。「α7R V」のボディISは、バルブ撮影時はOFFになるので、花火の軌跡は多少ブレているが、高倍率ズームのお手軽撮影でこれくらい撮れれば満足だ。

Sigma 20-200mm F3.5-6.3 DG | Contemporary 実写レビュー
ソニー α7R V シグマ 20-200mm F3.5-6.3 DG | Contemporary バルブ撮影 8秒 F20 ISO100 WB : 色温度(3600K) 132mm域

操作性・カメラとのバランスは?

フィルター径は72mm。レンズ保護フィルターはともかく、CPLフィルターなどを流用することを考えると、多くのレンズが採用している67mm、もしくはもうワンサイズアップして77mmのほうが良かった気もするが、周辺減光やサイズ感を考えると72mm径がベストバランスなのだろう。

最近のシグマのレンズは、前玉のレンズ名表記が暗めのグレーになっていて、デザイン的には少し寂しい気もするが、フィルター装着時の面間反射を考えるとこれが正解。特に、このレンズは最短撮影距離が短く、最短でレンズ前2cmまで近寄れるので、レンズ銘表記が白や赤文字だと、展望台や水族館のガラスなど反射しやすいものがあると、それが写り込んでしまうリスクが高くなる。見映えを重視したデザイナーの自己満足ではなく、ちゃんと写りのことまで考えてデザインされている点は好感が持てる。

Sigma 20-200mm F3.5-6.3 DG | Contemporary 実写レビュー
前玉周り

付属の花形フードにはロック機構はないが、装着はかなり固めで、取り外すときに「あれ、このフードってロック付きだったかな?」と確認してしまうほど。経時変化で緩くなっていくのかもしれないが、もう少し、力を入れずに着脱できると快適になると思う。

Sigma 20-200mm F3.5-6.3 DG | Contemporary 実写レビュー
「ソニー α7R V」へ装着した状態

レンズの操作部は、レンズISは非搭載なので、AF/MF切り換えスイッチとズームロックスイッチのみ。AF/MF切り換えスイッチを省いてボディから操作するレンズもあるが、夜景やマクロ撮影など思うようにAFが働いてくれないときに、瞬時にMFに切り換えられるのは便利。ズームロックスイッチも、ズームリングを回すと自動的にロックが解除されるので手間要らずだ。

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操作部

総合まとめ

最近のフルサイズミラーレス対応の高倍率ズームは、一眼レフ時代の高倍率ズームに比べ、画質も大幅に向上しているが、ズームワイド端の画角や最短撮影距離に少しだけ不満を感じることもある。その点、この「20-200mm F3.5-6.3 DG | Contemporary」は、ワイド端の画角が20mmと広く、28〜85mmの領域ではハーフマクロ撮影ができるほど近接撮影に強く、これまでの高倍率ズームで感じていた不満のほとんどが解消されている。

本当にこのレンズ1本でさまざまな撮影に対応できるので、旅行や散歩のお供はもちろんのこと、風景や野鳥など本気の撮影でもプラスαで持っていく機材を減らせるので、トータルの荷物の量が減らせ、結果として機動力がアップする。単なる便利ズームではなく、標準ズームに代わる新たな常用ズームの誕生といっても過言ではないだろう。

唯一の不満は、このズームがニコンZやキヤノンRFで使えないこと (笑)。といって、ソニーEもα7シリーズだと最高10コマ/秒、α1やα9シリーズもAF-Cだと最高15コマ/秒でしか撮れない制約がある。そのため、このズームで高速連写したいために、「パナソニック LUMIX S1II」が欲しくなるほど。それくらい、「20-200mm F3.5-6.3 DG | Contemporary」は魅力的な存在だ。

【番外編】マウントアダプターで「ニコン Z8」に装着して使ってみた

ちなみに、メーカー動作保証外の組み合わせだが、ソニーEマウントの「20-200mm F3.5-6.3 DG | Contemporary」に「Megadap ETZ21 Pro」を使って「ニコン Z8」に装着し、馬事公苑で開催された愛馬の日のイベント、流鏑馬をハイスピードフレームキャプチャ+ [C60] で連写してみたが、馬の動きに見事に追従。歪曲収差補正など、デジタルによるレンズ補正は効かないが、APS-Cクロップなら画面中央を切り出すので、フルサイズよりは歪みが少なめだ。

■「ニコン Z8」で撮影

Sigma 20-200mm F3.5-6.3 DG | Contemporary 実写レビュー
ニコン Z8 シグマ 20-200mm F3.5-6.3 DG | Contemporary マニュアル露出 1/2500秒 F8 ISO1800 WB : 自然光オート 200mm域

本来は、やむなくこうしたイレギュラーな組み合わせを自己責任で使うのではなく、ソニーα7シリーズの連写スピードがもっと速ければ無問題だし、「20-200mm F3.5-6.3 DG | Contemporary」のニコンZマウント版があれば、素直にそちらをチョイスできる。まあ、それぞれのメーカーにはそれぞれの事情があるのだろうけど、ユーザーとしては選択の自由が広がってほしいと思うし、正攻法で「20-200mm F3.5-6.3 DG | Contemporary」が使えないマウントのユーザーはかわいそうだと思う。

Sigma 20-200mm F3.5-6.3 DG | Contemporary 主な仕様

対応マウント ソニーEマウント、Lマウント
対応撮像画面サイズ フルサイズ
焦点距離 20〜200mm
開放絞り F3.5〜6.3
最小絞り F22〜F40
画角 94.5°〜12.3°
レンズ構成 14群18枚 (FLDガラス1枚、SLDガラス3枚、非球面レンズ4枚)
絞り羽根枚数 9枚 (円形絞り)
最短撮影距離 焦点距離28mm時 16.5cm、ワイド端 25cm、テレ端 65cm
最大撮影倍率 1:2 (焦点距離28〜85mm時)
フィルター径 72mm
最大径×長さ Eマウント φ77.2×117.5mm、Lマウント φ77.2×115.5mm
質量 Eマウント 540g、Lマウント 550g

※参考価格は記事公開時点の量販店価格です。