
ライカが発売した、ライカMマウントのフルサイズミラーレスカメラ「ライカM EV1」。そう、“フルサイズミラーレスカメラ” と書いた。「ライカMといえばレンジファインダーカメラではないのか?」「それは果たして “M” なのか?」……そんな疑問について、実機を試した印象と、ライカカメラ社の製品担当者の言葉から、真意を探ってみたい。
※発売前の試作機を使用したため、画質や各部仕様が変更となっている可能性があります。
EVF化とは、どういうことなのか
Mといえば光学式のファインダーを覗いて二重像を合わせることで、狙った被写体にピントを合わせる仕組みのレンジファインダーカメラ。その仕組みや撮影体験こそがMのMたる所以であった。
それがEVFでは、どうなるのか。ライカとしては、これはM型ライカの進化形ではなく、新たに加わるバリエーションの一つと位置付けている。あくまでレンジファインダーカメラが本流で、EVF内蔵のミラーレスカメラとなった「ライカM EV1」は、顧客の強い要望によって開発した傍流のモデルなのだ。

ピント合わせの方法は、いわゆるミラーレスカメラにライカMレンズのようなMFレンズを装着した時と同じ。ライブビュー画面を見ながらフォーカスリングを回してピントを探るか、コントラストの高い部分をカメラがハイライトするフォーカスピーキング機能が使える。


ライカならではと言えるのは、ライカMレンズ、もしくはそれに類する距離計連動レンズを組み合わせた時。フォーカシングに伴うカムの動きを検知して、ボタン操作なしで自動的にライブビューを拡大表示する機能があるのだ。ミラーレスカメラの純正AFレンズでMF操作を行うときと似たような挙動とも言える。
これは、距離計連動レンズの後部に備わるカムの動きを検知するコロが、「ライカM EV1」のマウント内部に備わっているからこそできる芸当。レンジファインダーカメラのレンズを使って快適に撮影を楽しみたい場合、「ライカM EV1」を積極的に選ぶ理由のひとつになり得る機能だ。


軽さは大事! ボディ各部を見てみる
「ライカM EV1」の各部を見てみよう。基本的には「ライカM11」世代のプラットフォームを使っているため共通部分が多いものの、光学式ファインダーがないことで一部が独特の機能配置になっている。また、EVF化により「ライカM11」比で42g軽くなり、レンズを除く重量は500gを切った。
まず、ファインダー前面の下部にあるレバーは、左右方向それぞれに倒せるスイッチになっている。これをFnボタンとして、ライブビューの表示拡大やピーキング機能のオンオフといった機能を割り当てられる。設定を変更したいときは、変更したいボタンを長押しするだけで機能一覧が開く。最近のライカはどれも同じ挙動で、樹海のようなメニュー画面に立ち入る必要はない。

前面左側、レンジファインダーカメラの小さな距離計窓があった部分は、セルフタイマーランプになっている。中身は小さな赤いLEDだけれど、見慣れたM型ライカのモチーフを残すために工夫を施したそうだ。

上面右手側にはシャッターボタンなどが集中。右側の黒いボタンはFnボタンで、ここにも好きな機能を割り当てられる。一般的なデジタルカメラだと録画ボタンになっていることが多いが、「ライカM EV1」もほかの現行M型ライカと同じく、動画撮影機能は非搭載。

底面は「ライカM11」と同じ。中央のレバーを操作すると左のバッテリーがロック解除される。バッテリーを外した中にSDカードのスロットが1つ備わる。左端にはUSB Type-C端子があり、充電・給電、データ転送が可能。内蔵メモリーを使えばメモリーカードなしでも写真が撮れる。カメラのUSB機能をPTPに設定すると、Macの「イメージキャプチャ」から内部データを吸い出せた。

背面は、左上にEVFのアイピースとアイセンサー、視度調節ダイヤルが備わる。右上のホイールは露出補正などを割り当てると便利なダイヤル。押し込みも可能だ。モニターはタッチパネル式。

さらに細かな部分
「ライカM EV1」の独自機能など、目に付いた機能についても説明したい。撮影時には、ライブビュー表示の拡大だけでなく、クロップにより画角を狭める機能もあった。装着レンズでは少し画角を持て余すときに、Fnボタンの操作ひとつで呼び出せる。レンズ本来の画角に対して1.3倍と1.8倍が選べ、クロップ状態で撮影してもDNGにはレンズのフル画角の写真が残る。

試用中、メニュー画面の「防塵対策」という言葉が気になった。イメージセンサーを震わせてダストを落とすような仕組みは持っていないはずだからだ。いろいろ試していると、これをオンにした状態で交換レンズを外すと、自動的にシャッターが閉まった。
昨今のミラーレスカメラでは「レンズ交換時にホコリが入りそうで怖い」との声で、こうした機能を搭載しているカメラが増えている。シンプルさを追求するライカとて、ユーザーの求めには応えていく姿勢が見えた。


カメラの外装に巻かれた “貼り革” は、通常のM型ライカと異なるモダンな見た目。「ライカQ」などに採用されるダイヤモンドパターンになっていた。ライブビュー専用という、新世代的なカメラだからキャラクターの違いを明確にしたのだろう。

そしてマニアックながら、ライカの開発者がこだわったのがEVFを薄く搭載することだった。本機のEVFは、表示パネルと接眼光学系をレンズ一体型カメラの「ライカQ3」から継承している。しかし、「ライカM EV1」は「ライカQ3」より本体が薄い。そこでEVFモジュール部分を新たに小型化し、かつアイピースの突出も「ライカQ3」より抑えられた。

EVF搭載のためとはいえ、伝統的なライカMカメラのスタイリングを崩すことは、彼ら自身も許せなかったのだろう。実にタイトな内部構造となっており、「ライカM11」にあったISO感度ダイヤルが非搭載なのも、このスペースの都合なのだという。
EVFになっても、MはMなのか?
ライカカメラ社の製品担当者に聞くと、たとえEVF内蔵機という新機軸であっても、誰もがイメージする「Mのスタイル」で撮影できることを重んじていた。小さなカメラであることはもちろん、カメラを構えても顔があまり隠れないため、反対の目で周囲を観察したり、被写体とコミュニケーションが取れる。
筆者はM型ライカの二重像合致式で撮影するのに慣れており、ミラーレスカメラにオールドレンズを組み合わせたような、ピントのヤマを画面で見ながら撮影するのは不慣れ。そのため、最初は撮りたい瞬間に対応できなかったり、何を目標物としてピントを合わせるかなど、迷う部分が多かった。
しかし、EVFのメリットは「見たままに写る」ことだ。ダイナミックな雲のカタチ、光と影が織りなす街角の景色を、一発で狙い通りの露出で撮れるのは気持ちいい。また、M型のように鍛錬しなくても視野率100%のフレーミングが可能なため、モチーフを構図内にバランス良く配置するような撮影も思いのままだ。
どうしてもライカが便利になると、筆者も含め原理主義的なココロがザワつく部分はある。しかし近年はスマホで当たり前に写真が撮れるからこそ、カメラと写真の楽しみ方が多様化し、ともすれば手間を楽しむためにカメラを欲しがる人も増えている。そんな自由な気持ちを、我々カメラ人類も見習いたいと思わされる機会となった。「ライカM EV1」は間違いなくライカだけれど、「撮りたい写真のためには便利にやろうよ」という、自由な気持ちを与えてくれる新型カメラだった。
実写作例
※撮影データに記載した絞り値は、撮影画像のExifデータから取得しています。
快晴の箱根。気持ちのいい空を絞り込んで1枚。フレアの具合もライブビュー画面で見ながら撮れるのは、クラシックなライカレンズの味わいを楽しむ人にも魅力的だろう。

観光客と、青い空、カラフルなボート。狙い通りの構図で撮れるのはEVF撮影ならではのメリットだ。

アポ・ズミクロンの特徴は、画面周辺まで均質性を保った描写であること。その解像力を体感したくて撮影した1枚。

近距離で撮影しても背景の形は崩れない。近年の各社高性能レンズに見られる傾向だが、本レンズは圧倒的に小型だ。

本レンズは30cmまで寄れるので、距離計の “最短70cm” の壁を越えてみた。しかし、それでも描写は崩れない。恐るべきレンズだ。

歩道の落ち葉。思わずカメラを向け、何も考えずに撮影した1枚。パソコンで表示してみて色と質感の表現に驚く。

カメラ内でモノクロモードに設定。露出補正値を動かしながら、雲の出方の好みを探る。ビルの暗部階調に凄みがある。

夕方の日が差し込むビル。温かみや厚みを感じる色再現と、レンズによる繊細な描写が生み出す質感の高い描写。
