キヤノンから新登場のフルサイズミラーレスカメラ「EOS R6 Mark III」。カメラファンにとって最も熱いゾーンであるミドルクラス・スタンダードモデルだけに、その実力に大きな注目が集まっている。今回は、この新機種の「キモ」であるAF・連写の実写チェックを軸に、徹底解説をお届けしよう。

約3250万画素に画素数アップしながら電子シャッターで約40コマの連写性能をキープ!「プリ連続撮影」も装備して動きモノへの強さはバツグンだ
「EOS R6 Mark III」は約3250万画素に画素数が増えているが、電子シャッターで最高約40コマ/秒、メカシャッターで最高約12コマ/秒と従来の「EOS R6 Mark II」と同等の連写スピードを維持。バッファメモリの増強により連続撮影コマ数が大幅に向上したのが大きな進化点だ。
「EOS R6 Mark III」の製品情報ページによると、約40コマ/秒の電子シャッター撮影時、JPEG記録で最大約330コマ (「EOS R6 Mark II」は最大約190コマ)、RAW+JPEG記録で最大150コマ (「EOS R6 Mark II」は最大約75コマ) と、連続撮影可能コマ数がほぼ倍増しているので、連写が詰まって肝心な瞬間を撮り逃す、という失敗をしにくくなっている。

【AF・連写Check①】約40コマ/秒連写の「速さ」を再確認する
約40コマ/秒という連続撮影速度は、キヤノンのフルサイズミラーレスではフラッグシップ機「EOS R1」と同等で、約30コマ/秒の「EOS R3」や「EOS R5 Mark II」よりも高速。より速い連写で「ココ!」という瞬間をとらえたいケースで、その威力を発揮する。
今回、連続撮影可能コマ数が増えたことで、超高速な連写がより有効に活用できるようになった。そこで、どれくらい連続撮影可能コマ数やバッファクリアに要する時間に差があるかを「EOS R6 Mark III」と「EOS R6 Mark II」で簡易ベンチマークテストをしてみた。
「EOS R6 Mark II」は「JPEG L+C-RAW」記録で177コマで連写が詰まり、そこから書き込み終了まで約18秒半。これに対して、「EOS R6 Mark III」でCFexpress Type Bカードを使用した場合、「JPEG L+C-RAW」記録で321コマまで詰まらず連写でき、約21秒ちょっとで書き込み終了。V90のUHS-II SDXCカードを使用した場合でも、「JPEG L+C-RAW」記録で321コマ、書き込み終了まで24秒弱という結果に。「JPEG L+C-RAW」撮影では、意外とCFexpressとV90 UHS-IIカードの差が小さかったが、RAWやL+RAWならCFexpressのほうがUHS-IIよりも書き込み終了までの時間が大幅に短くなっている。
■約40コマ/秒で約1秒間、35コマの連続カットを全公開
約40コマ/秒の「高速連続撮影+」で撮影した連続カットの35枚がこちら。1秒弱の間に静止したサギが飛び立つまでのようすが詳細に記録できている。
※画像をタップ/クリックで拡大表示されます。
キヤノン EOS R6 Mark III RF200-800mm F6.3-9 IS USM シャッター優先オート 1/1600秒 F8 ISO1600 WB : オート
■40コマ/秒の超高速連写だからベストのタイミングが高確率で捉えられる
羽ばたく鳥のように、動きが極めて速い被写体では、連写スピードが速ければ速いほど「ベストの瞬間」を選び出す可能性が高まる。この超高速連写が32.5Mの高画素でできることが「EOS R6 Mark III」の大きな魅力だ。



■連続撮影可能コマ数とバッファクリアまでの時間を比較

マニュアル露出 F2.8 1/1600秒 ISO1600 H+(40コマ/秒)で マガモのはく製をMFで連写。Cfexpressカード (Type B) は「ProGrade Cobalt 325GB」、SDXCカードAは「ソニー SF-G128T」(UHS-II V90 128GB)、SDXCカードBは「Nextorage NX-F2SE」(UHS-II V60 256GB) を使用。
【AF・連写Check②】連写機能「プリ連続撮影」の便利度は?
「EOS R6 Mark III」はバッファメモリが増強されて、連続撮影可能コマ数がほぼ倍増しただけでなく、待望の「プリ連続撮影」(プリキャプチャー撮影) にも対応。従来の「EOS R6 Mark II」も「RAWバースト」モードにすれば、約30コマ/秒で最大0.5秒のプリ撮影が可能だ。しかし、シャッター半押しで狙っている間のライブビューが多少カクついて見えるのと、連写画像が一つの大きなRAWデータとして記録され、そこからの切り出し作業が必要なのが△。必要なコマをカメラ本体、もしくはDPPでRAWデータとして抽出するので、撮影した後の作業に手間と時間がかかる。
「EOS R6 Mark III」では、上位機種の「EOS R1」や「EOS R5 Mark II」と同様に、通常のプリ撮影ができるようになった。シャッターボタンを全押しした瞬間から最大20コマ遡って約40コマ/秒の高速連写が楽しめる (「H+」以外のドライブモードは設定不可)。鳥の飛び立ちなど撮影者が予期しにくい瞬間もしっかり記録できる。

当然、プリ撮影をオンにすると、20コマ分連続撮影可能コマ数が減ることになるが、バッファメモリの増強で連続撮影コマ数が大幅に増えているので、その点は安心。デュアルカードスロットの一つがCFexpress Type Bなので、バッファフルになってからの復帰も早い (特にRAW記録時)。「EOS R1」と同等の約40コマ/秒で高速連写しまくりたい人にとっては、この点こそ「EOS R6 Mark II」から買い換える価値がある進化だ。
■「プリ連続撮影」だから写せたカワセミの飛び出し直後の瞬間


キヤノン EOS R6 Mark III RF200-800mm F6.3-9 IS USM シャッター優先オート 1/2500秒 F9 ISO12800 WB : オート
【AF・連写Check③】より高まったAF追従性能の感触は?
「EOS R6 Mark III」のAFシステムは、基本的には従来の「EOS R6 Mark II」を踏襲していて、認識できる被写体の種類も同じだ。しかし、AFアルゴリズムを一部改善することで、被写体を追従するトラッキング性能がより粘り強くなっているという。
■被写体検出&トラッキングの性能はとても優秀




実際に「EOS R6 Mark III」でサギ類を撮影してみたが、頭部を認識しやすくなっていて、しかも、飛び立ったときでも頭部を認識し続け、しっかり頭部にピントが合う率が高くなった印象を受ける。人物に関しては検証する機会がなかったが、「EOS R1」や「EOS R5 Mark II」では、動物よりも人物に対する認識やトラッキング性能が優秀と感じている。こうした上位機のAF性能の傾向や、上位機搭載の「登録人物優先」機能が本機種で追加されていることから、動物以上に人物に対する認識やトラッキング性能の高まりには期待ができる。
また、AFエリアモードには、「全域トラッキングOFF」の [スポット1点AF / 1点AF / 領域拡大AF] が追加され、AFエリアモードの選択時にトラッキングのON/OFFを切り替え可能。従来機種でもトラッキングのON/OFFは、それ用のメニュー項目で切り替えられるが、現状がトラッキングONなのかOFFなのか、一瞬わからなくなることもある。AFエリアモードでトラッキングする/しないを選べたほうが混乱しにくいメリットがある。
■AF追従性能がわかる動画はこちら
【ローリングシャッター歪みCheck】電子シャッター時の歪みはどのくらいなのか?
キヤノン公式の製品情報ページを調べてみたが、「EOS R6 Mark III」のセンサーは「有効画素数最大約3250万画素のフルサイズCMOSセンサー」という記述しかなく、積層センサーでもなければ、裏面照射型センサーでもなさそうだ。これは従来の「EOS R6 Mark II」も同様だが、それでも電子シャッター撮影時のローリングシャッター歪みは、積層センサー搭載機にはかなわないものの、裏面照射型センサー搭載のフルサイズミラーレス機よりも歪みが抑えられている。
一般的に、画素数が増えると各辺のピクセル数が多くなり、読み出しスピードが変わらなければ、それだけ全部のデータを読み出し終わるまでの時間が増える=ローリングシャッター歪みが大きくなる。それだけに、約2540万画素から約3250万画素に画素数が増えた「EOS R6 Mark III」のローリングシャッター歪みが大きくなっていないか不安視している人も多だろう。
そこで、USB扇風機によるローリングシャッター歪みチェックを行ってみた。画素数が増えているにもかかわらず、ローリングシャッター歪みは「EOS R6 Mark II」とまったく同じ。新型になってローリングシャッター歪みが少なくなるのを期待していた人には残念な結果かもしれないが、画素数が増えてもローリングシャッター歪みが大きくなっていないのは、しっかり進化している証。それに、前述したように積層センサー搭載のフルサイズ機を除けば、ローリングシャッター歪みの少なさではトップクラス。部分積層センサー搭載の「ニコン Z6III」や「パナソニックL UMIX S1II」(画質優先時) にほぼ匹敵する性能だ。
ただ、ピクセル等倍に拡大してみると、回転している扇風機の輪郭 (高速で上下に移動している部分) がギザギザしているのは、歴代EOS R5 / R6シリーズと同じで、読み出しスピードを高速化するため、複数ラインの同時読み出しをしている副作用と思われる。ただ輝度差が大きく色補間が難しい単色部分以外は、それほど目立たない感じだ。
■「全く同じ」と言っていいほど近似した2機種のローリングシャッター歪み


※画像をタップ/クリックで拡大表示されます。
【操作性Check】「EOS R6 Mark II」からの変化を確認する

「EOS R6 Mark III」ボディの外観、操作性は、ほぼ「EOS R6 Mark II」と同じだ。外観的な違いは、左肩のタリーランプと、ネームプレートの文字、RATEボタンの下に「COLOR」の表記、モードダイヤルにS&F (スロー&ファストモーション動画) ポジションが新設といった程度。それ以外はHDMI端子がType Aに、ダブルスロットの一つがCFexpress TypeBになり、このCFexpress Type Bスロットを搭載した影響か、グリップ部の握りが少し太くなっている。
■ボディ背面とカードスロット比較

■HDMI端子比較

■「RATE」ボタンは撮影時「COLOR」ボタンに

操作ボタンやダイヤルのレイアウトや基本的な機能割り当て、メニュー構成もほとんど変わっていないので、従来の「EOS R6 Mark II」から「EOS R6 Mark III」に乗り換えても、買ったその日から迷わず操作できるのは◎。こっそり買い換えても、家族にバレるリスクは少ないかも (笑)。
ただし、バッテリーは「LP-E6P」が標準に。従来の「LP-E6MN」や「LP-E6N」でも電源は入るものの、プリ撮影やスマホとの連携、一部の動画機能など使用できる機能が制限され、バッテリーの持続時間も短くなる。「LP-E6」は使用不可だ。

【そのほかの進化点】7Kオープンゲート記録など動画はてんこ盛りの進化だ
「EOS R6 Mark III」の動画に関する主な進化ポイントは、「7K30pオープンゲート記録 (RAW/MP4)」や「4K 120p」「スロー&ファストモーション動画モード」「被写体追尾IS」の搭載だ。また「ショックレスWB」や「AWBレスポンス」「AWBホールド」といった動画撮影時のホワイトバランス追従性特性を柔軟に変えられる機能や、カラーグレーディング前提の「カスタムピクチャー」、14種類の「カラーフィルター」といった動画向けの画作り機能も追加。このほか、AFでのフォーカス送りで合焦直前に緩やかに減速できるフォーカス加減速アルゴリズムが搭載されたほか、動画記録中の水準器表示や拡大表示といった撮影補助機能も充実。左肩のタリーランプで、録画中か否か、撮影される側がすぐわかるのも便利だ。
想定ターゲットは静止画メインのユーザーではあるが、CINEMA EOSを所有するような本格的な動画ユーザーのサブ機としても十分通用する機能と性能を備えている。
EOS R6 Mark III チェックまとめ
先代の「EOS R6 Mark II」が発売された当時は、主に被写体認識AFの認識性能が注目されていた。でもそれだけでなく、どのAFエリアモードからも認識した被写体を画面全域でトラッキングできる新しいAF撮影スタイルこそが、エポックメイキングのポイントだったことがわかる。しかも、最高約40コマ/秒でRAW記録も可能という、フルサイズミラーレスのスタンダードモデルとしては最強のAFと連写性能を有していた。
ただ、約40コマ/秒という連写スピードの速さに、バッファメモリの容量やUHS-II SDXCカードの書き込みスピードが力不足だったのも否めない。調子に乗って高速連写しまくると、アッという間にバッファフルになり、最も撮りたかった瞬間を撮り逃すという憂き目に遭うこともしばしば。ストイックな連写を心がける必要があった。
しかし、「EOS R6 Mark III」はバッファメモリが増え、連続撮影可能コマ数がほぼ倍増。レリーズ直前の最大20コマ前まで遡って記録できるプリ撮影にも対応し、約40コマ/秒でも連写が詰まりにくくなっているのが最大の強み。V90のUHS-IIカードよりも大容量でコスパが高いCFexpress Type Bカードが使えるので、カードの残容量を気にしながら節約連写する必要もなしだ。
上位機種に採用されている積層センサーやDIGIC Acceleratorといったサプライズはなかったものの、画素数が約3250万画素に増えても、普段積極的に使用できるISO25600以下の感度域では、画質の低下はほとんど感じないし、ローリングシャッター歪みも同程度。認識した被写体へのトラッキング性能も従来よりも粘り強くなっていて、ピントが合う率も高くなった印象だ。
とはいえ、「EOS R6 Mark II」との実売価格差は約10万円。しかも、「EOS R6 Mark II」は「冬のキャッシュバック2025」で3万円還元されることを考えると、約3250万画素の画素数や連続撮影可能コマ数、プリ撮影といった機能を必要としなければ、「EOS R6 Mark III」発売後も併売される「EOS R6 Mark II」の高コスパは魅力大だ。コスパを取るか、より高い性能を取るか? この冬にキヤノンのミドルクラス購入を考えている人にとっては、楽しくも悩ましい選択を迫られることになりそうだ。
キヤノン EOS R6 Mark III 主な仕様

有効画素数 最大約3250万画素
撮像素子 35mmフルサイズCMOSセンサー
マウント キヤノンRFマウント
AF方式 デュアルピクセル CMOS AF II
AFエリア分割数 最大1053分割
被写体検出 自動、人物、動物 (犬 / 猫 / 鳥 / 馬)、乗り物 (モータースポーツ〈車・バイク〉/ 飛行機 / 列車)
ISO感度 静止画撮影時 ISO100~64000 (拡張 ISO50、ISO102400)、動画撮影時 ISO100~25600相当 (拡張 ISO102400)
シャッター速度 メカシャッター 電子先幕 1/8000~30秒、電子シャッター 1/16000~30秒、バルブ
高速連続撮影速度 メカシャッター 電子先幕時 約12コマ/秒、電子シャッター時 約40コマ/秒、
ファインダー 0.5型 約369万ドット 電子ビューファインダー (倍率 約0.76倍)
液晶モニター 3.0型 約162万ドット バリアングル液晶モニター
手ブレ補正 ボディ内5軸手ブレ補正 中央8.5段、周辺7.5段
※CIPA2024規格準拠、ピッチ / ヨー / ロール補正性能、RF24-105mm F2.8 L IS USM Z (f=105mm) 使用、協調補正時
カードスロット CFexpress Type B、SD (UHS-II対応) のデュアルカードスロット
幅×高さ×奥行き 約138.4×98.4×88.4mm
質量 約699g (バッテリー、CFexpressカードを含む) / 約609g (本体のみ)
付属品 バッテリーチャージャー LC-E6、バッテリーパック LP-E6P、ストラップ ER-EOSR6 MarkIII、シューカバー ER-SC2