6月の梅雨の季節にアジサイと同じくきれいな花々を咲かせてくれるハナショウブ。見頃は6月中旬の梅雨時期で水との相性がいい花です。雨にぬれる姿もいいですし、水面に花の映り込みを見ることもできます。逆に梅雨の晴れ間の強い日差しを浴びると花弁がしなびてしまうので、雨の日や雨上がり、早朝が狙い目です。
梅雨の晴れ間の強い日差しを浴びると花弁がしなびるので雨の日や早朝が狙い目
ハナショウブはアヤメ、カキツバタと同じアヤメ科で、どの花も形が似ているので撮り方は同じです。一般的な花のピント位置は花心ですが、ハナショウブでは手前の花弁に合わせます。ちなみに、ハナショウブには花弁の芯に黄色い部分があり、カキツバタはここが白で、アヤメは網目模様になっていることから見分けることができます。茎の先端に一番花、二番花、三番花と順に花を咲かせますが、二番、三番になると先に咲いてしおれた花が入るので、なるべく一番花を咲かせた花を選ぶといいでしょう。
基本テクニック
群生を狙うときは、花の色や背景を生かして作画する
ハナショウブは水が引かれた菖蒲田の中に生えている。ポジションが限られる中でも変化がつけられる場所を探そう。濃い紫、薄い紫、赤紫、白など同系色の中でもさまざまな品種があるので、群生狙いではそれら色の違いに注目して組み合わせていくと画面に変化がつく。また、花の部分だけを狙うと平面的になるので、水際の映り込みを入れてみると水生植物らしさが出る。
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200ミリ相当の望遠レンズで狙った。 見事な密集度だが、全体的にまんべんなく咲いているので、平面的で変化に乏しい。
参考例 ○
水面の映り込みを入れる
花だけでフレーミングするのではなく、水面の映り込みを入れた。主役の群れを左下に配置し、右下の空間に映り込みのボケを入れて画面のバランスをとっている。また主役の群れ以外をぼかしたことで、作画のメリハリもある。
260ミリ相当 絞り優先オート(F2.8 1/1250秒) +0.7補正 ISO200 WB:晴天
奥に咲くハナショウブにピントを合わせて奥行きを出すのも◎
上の写真と同じ場所で撮影。ピント位置を奥の花に合わせ、この写真では主役だった花々を前ボケにした。前ボケが入ったことで奥行きが感じられる。また横位置構図に比べて、手前から遠くまで入る縦位置構図にしたことで、さらに奥行きが出ている。
300ミリ相当 絞り優先オート(F2.8 1/800秒) +0.7補正
応用テクニック
一輪狙いは縦位置構図が基本、横位置では左右にできる空間をきれいな色やボケで埋める
ハナショウブは茎が長いので縦位置の構図がはまりやすい。茎を含めて一、二輪程度を狙うなら、縦位置で構図を作ってみよう。しかし、花だけを見れば横広がりなので、アップなら横位置もいい。左右に脇役を入れるなら、引いて撮る場合も空間を埋めることができる。
周囲の花々のボケを空いた空間に
花自体が横広がりなので横位置構図も合うが、茎を入れると縦長になるので茎のほとんどを前ボケで隠した。左右の空間を埋める要素として、周囲の花々を脇役としてぼかしすぎない程度に加えた。
背景の木漏れ日のボケと花の高さが生きる縦構図
上の写真は周囲から高く飛び出した花を狙った。茎から花にかけて縦長なので縦位置構図に当てはめた。画面上部には木漏れ日のボケを入れて空間を埋めている。下の写真は花を見上げ、茎の下から花の先まで入れているので、こちらも縦位置構図がはまる。どちらも横位置だと左右の空間が間延びしてしまう。
応用テクニック
水面の映り込みだけを切り取って不可思議な写真に仕上げる
水辺では、水面の映り込みがないかも見てみよう。映り込みを狙うときは、ピントは水面ではなく映り込みに合わせる。うまく合わない場合はMFを使う。花そのものと映り込みの両方を収めた写真をよく見るが、映り込みだけを写すのも面白い。天地が逆さまになったり、シャープなのに部分的に揺らいでいたりと不思議な仕上がりになる。
ハナショウブの映り込みを探すなら、なるべく低い位置から狙うと花から茎まで写せる。しかし、水底の土の色によって色彩が濁っている。
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ここではホワイトバランスの色温度設定で3500Kに合わせて、青みを足した。色が乗って幻想的になった。ただ映り込み以外の杭や茎などが説明的。
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ホワイトバランスで青みを足し、映り込みだけを切り取って、完成
説明的な杭や茎などをフレームアウトして、さらにプラス2.3の露出補正を行って明るくする。そして、映り込んだ描写にしっかりピントを合わせて撮影。水面が茶色かったとは思えないほど澄んだ色に仕上がった。
150ミリ相当 絞り優先オート(F2.8 1/160秒) +2.3補正 ISO200 WB:3500K
ハナショウブは群生でも一輪でも、写真での見せ方はさまざま。ハナショウブの長い茎を生かした撮影テクニックを身に付けたいですね。
写真・解説/吉住志穂