ここ数年、撮影ツアーができるほど人気の工場写真ですが、その多くは夜に撮られたものです。夜の暗闇に光る明かりや煙突、タンクなど、工場を形成する様々な機械類を、フォトジェニックに撮影するためのテクニックの数々をご紹介いたします。
露出や色の選択に迷ったらRAWで撮影して現像時に調整しよう
どんな写真でもそうですが、いくら構図やピントが決まっていても、露出や色の選択を誤るときれいには仕上がりません。現場で被写体に見合う露出や色を選ぶことが難しいのであれば、RAWで撮影しておきましょう。帰ってからゆっくりと、RAW現像時に露出や色を調整すればいいのです。
しかし、どんな工場夜景写真が正解かがわからないと、なかなか調整もできないもの。ここでは露出の正解と、最適な色調整の仕方、そして少し変わった描写になる機能を紹介します。
基本テクニック
工場夜景は見た目よりも少し明るめの露出が◎
工場夜景を華やかに仕上げるには、機械類の輝きが強調される少し明るめの露出にするのがおすすめ。トワイライトの空を効果的に見せたいときも、明るめのほうがきれいだ。ただし、もともとの光が乏しくて、落ち着いた雰囲気にしたいときは暗めが◎。現場で露出に迷ったら、段階露光で撮っておこう。その際、1/3段刻みだと差があまり出ないので、2/3~1段刻みで撮るといい。
機械の金属感やタンクの白さが際立つ左写真を選ぶ
トワイライトの空とにぎやかな工場の機械群なので、写真左のプラス1補正した少し明るめの写真を選んだ。機械の金属感やタンクの白さが一層強調され、未来都市のような雰囲気もある。重厚感を出したいなら、写真中央の明るさでもいいだろう。
画面全体の明るさを考慮して真ん中の写真を選ぶ
こちらは、暗い夜空に煙突からの煙がよく映える落ち着いた工場夜景。写真右では暗すぎるので、中央を正解に選んだ。明るめの写真左でも煙の表情がよく出ていて悪くはないが、手前の植物や街灯の明かりが少しうるさく感じられる。
応用テクニック①
HDR機能を使って近未来のような雰囲気を演出する
ハイダイナミックレンジの略である「HDR」は、一度の撮影では記録できない明暗差のある被写体を、露出を変えて複数枚撮影し、後からそれらを合成することで1枚の写真で広い明暗差を再現可能にする機能だ。合成方法によってさまざまな表現が可能で、これが現実離れした工場夜景にはピッタリとハマる。
HDR機能に対応したカメラであれば、現場で結果が確認できて面白い。多くの現像ソフトにも搭載されている。
高彩度かつエッジが利いたことで特に水蒸気のインパクトが増している
「明」「暗」「適正」の明るさの違う3枚を合成するキヤノンのHDRモードを使用して撮影。さらにここでは「油彩調」を選んだことで、高彩度かつエッジの利いた仕上がりとなった。特に煙の描写は力強く、インパクトが増している。
応用テクニック②
白の再現には「RAW+クリックホワイトバランス」が有効
写真の中で白やグレーに表現したい部分をクリックするだけで、ホワイトバランスを自動的に調整してくれるのが「クリックホワイトバランス」機能だ(現像ソフトによって呼び名は異なる)。RAWで撮影し、現像時にこの機能を使うと、白の再現が容易に行える。クリックする場所によって色が大きく変わるので、正確な色に再現したいときだけではなく、最適な色味を見つけたいときにも便利だ。
スポイトアイコンで写真上の白やグレーの部分をクリックすると、その部分が白くなるように調整される。
これらの色味も悪くはないが、もっと機械の金属感をシャープに表現したい。この写真ではWBのプリセットに当てはまるものはなかった。
光源が白く表現されたことで、シャープ感がより強調された
そこで、クリックホワイトバランスで調整してみる。画面上の煙を何か所かクリックして、求める色合いのところで確定。金属感をよりシャープに描写できた。
241ミリ相当 絞り優先オート(F11 8秒) -2補正 ISO800
工場夜景の撮影の難しさは、露出や色の調整。どれくらい露出すればいいのか、ホワイトバランスは、何にしたら近未来的な撮影が可能なのか、設定などの難しい部分は多々ありますが、迷ったら、RAWで撮影して現像時に調整ができるようにすれば問題ありません。いろいろ試してみましょう。
写真・解説/川北茂貴