数ある花の中で、女王の風格を備えている花といえば、バラをイメージするのではないでしょうか。重なる花びらは絹のようにやわらかく、自然が作り出す美しさに驚かされます。バラは春バラと秋バラが年に2回開花します。春のほうが暖かくなっていく中で開花するので花に勢いがあり、秋は徐々に寒くなるので花が長持ちしやすいという特徴があります。春バラも秋バラも、どちらも撮り方は同じです。花の女王の風格を表現できる撮影テクニックをご紹介いたします。
花びらの美しさと差し込む光に着目して一輪のバラを丁寧に撮影してみよう
写真の表現において、春と秋の違いは主に光です。5月の光は上から降り注ぐのに対し、10月は斜光線気味になります。日暮れも早いので、バラ園の閉園間際まで滞在すれば、夕暮れの光で撮ることも可能です。花びらの美しさと差し込む光に着目して、一輪のバラを丁寧に撮影してみましょう。
基本テクニック
特徴的なバラの中心部をクローズアップする
バラの美しさは何といっても、渦を巻くように重なる花びらの形だ。中心部はぎゅっと絞られ、外へ向かうほどやわらかに広がっていく。その重なりを狙うときは、ピントは花の中心部に合わせる。また中途半端に背景を入れずに、花びらの部分だけを切り取ったほうが、中心部に目線が生きやすくなって効果的だ。部分アップでも、十分にバラとわかる。
クラデーションのついた花びらがきれいだったので、ここでは花びらの色や形を強調したいが、花全体を入れてしまうと花びらだけに注目させることは難しい。
日陰のバラを選んだことで滑らかなトーンに
花に対して真正面から撮影。花びらの形に合わせて正方形のフォーマットを選び、中心部だけをクローズアップした。日陰の花を選んだのでトーンが滑らかで、奥は濃く、外は淡いピンに描写された。光が強く当たったバラを選んでしまうと、奥は黒くつぶれ、外側は白くとんでしまう。
120ミリ相当絞り優先オート(F2.8 1/100秒)+2補正ISO250WB:曇天
応用テクニック①
ハイキー調に仕上げてバラのやさしさを表現する
ハイキー調とは全体が明るい調子の画像のこと。ハイキーに仕上げると、優しげな雰囲気が感じられるが、ただ露出を明るくすればハイキーになるというわけではない。むしろ、露出オーバーの失敗写真になってしまう。成功するか否かは光の選び方がポイントになる。
前ボケに使用した花と、主役の花
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コントラストが低い曇天時は白とびしにくい
曇天時に淡い色のバラを写すと色が濁りやすいが、コントラストが低いので明るくしても白とびはしにくい。主役と前ボケになる花の距離が離れた場所を選び、望遠レンズで花を包み込むような大きな前ボケを作った。明るめの露出と前ボケによるソフト効果で、やわらかな写真になった。
300ミリ相当絞り優先オート(F2.8 1/1600秒)+1.7補正ISO200WB:曇天
逆光+フレア発生でふんわり描写になった
逆光では花の手前側が陰になるが、陰になった部分が明るくなるように露出補正を掛けると、背景はより明るくなってハイキーになる。このときはレンズに強い光が斜めから差し込んでいたのでフレアが発生。それもハイキー演出に合っていた。
150ミリ相当絞り優先オート(F2.8 1/500秒)+1.3補正ISO200WB:3900K
応用テクニック②
つぼみもフォトジェニックで被写体に最適
どんな花でも開花のピークに撮るのがベストだが、バラは花びらが傷みやすいので、開きかけの花やつぼみを狙うのもおすすめだ。開花途中の初々しさや、これから開こうとする勢いが感じられる。しかし、小さいからといって思い切り寄ってアップで写すと迫力が出てしまうので、むしろ画面に小さく写して可憐さを引き出したい。
雨に喜ぶ様子を明るめの露出と青い色合いで表現
開きかけの花びらは色がきれいで傷みもない。秋の雨に耐えるというよりも、植物として雨を喜んでいるようにも思えた。明るめの露出と青っぽい色合いに仕上げて、重々しくならないようにした。
300ミリ相当絞り優先オート(F3.5 1/15秒)+1.3補正ISO200WB:4400K
シルエットの場合は形がわかるアングルで撮る
明るいボケにつぼみのシルエットを重ねた。力強く、これから開こうというエネルギーを表現している。シルエットの場合は特に、形だけでバラのつぼみとわかる水平アングルから狙おう。
120ミリ相当絞り優先オート(F2.8 1/4000秒)-0.7補正ISO100WB:オート
春も秋も私たちを楽しませてくれるバラの花。たくさんの種類があり、女王として可憐な姿を見せてくれます。バラの繊細さを撮影する方法としては、花びらのグラデーションをきれいに写し取るクローズアップもおすすめですが、前ボケなどを利用して、ふんわりとした印象に仕上げるのもおすすめです。
写真・解説/吉住志穂