多くのカメラマンはRAW現像で仕上げることを前提に撮影しているが、その現像工程は意外にも簡潔だったりする。ここでは風景写真家・宮武健仁さんが実際に行っているRAW現像術を3ステップで紹介する。
朝日に染まる雪景色は空の階調と霧氷の輝きを引き出すのがコツ
<Before(現像前)>
朝日が照らす霧氷の木々を撮影。撮って出しでは目で見た光景に比べて白っぽいはずの霧氷が暗く写り、全体にくすんで感じられる。
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<After>
RAW現像で手前の朝日が当たって赤く焼ける木を鮮やかにした。奥につながる霧氷の木々がピンクに染まる様子や、幹の氷のディテールなども再現できた。
現場第一主義だが記憶の再現にRAW現像が欠かせない
朝夕の光によって雪景色が染まる光景はドラマチックだ。特に、霧の明けた早朝に山で見る霧氷は、稜線の木々がピンク色に輝き、満開の桜並木のようで格別。しかし目で感じる風景以上に朝夕は明暗差が大きく、空が飛んだり、斜面が沈んだりしがちである。感動の光景がJPEGデータのみでは再現しきれないこともある。だが、RAWデータにはもっと許容度の高い記録が残っているので、記憶に近い風景を現像処理により再現することができる。
私は風景の撮影時は必ず、RAW+JPEGで記録している。夜景を除いては、ホワイトバランスはほぼ「太陽光」で、基本的にJPEGそのままでも使用できるよう適正露出を目指して撮っている。後から調整が可能とは言っても、やはり現場第一主義だ。その上で再現しきれなかったシーンを現像で救済するための保険がRAWだと思っている。インスタグラムなどで「映え」を意識して、レタッチのやり過ぎによって写真が破綻して版画のようになってしまった作品を見かける。RAW現像では記憶した美しい光景の再現に留めたいものだ。
今回は霧氷や雪が暗くならず、夜明け空の鮮やかさを損ないたくなかったので、撮影時に空が飛ばない程度のプラス補正をした。そして現像で霧氷の輝きや朝焼けの赤の鮮やかさを表現している。また、LUMIX S1Rでハイレゾ撮影したデータもSILKYPIXで美しく現像することができるので、2億画素クラスの超高解像度のリアリティ表現を味わってほしい。
コントラストとカラー調整でメリハリを付けて鮮明に仕上げる
宮武健仁×SILKYPIX×雪景色
ステップ1. プラスの露出補正で沈み気味の霧氷を明るくする
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朝日周辺の空がオーバーになって飛んでしまうのを避けるため、暗めに抑えて撮影していたので、まずは露出を明るく補正する。ここでは露出補正を「+0.70」にして、沈み気味だった霧氷を明るく戻す。さらに、ホワイトバランスを「5600K」に調整して少し黄色味を加えることで、青く寒々しい色になりがちな雪面に朝日の色彩を盛り込んだ。現場の様子に近づけた。
ステップ2. 「コントラスト中心」で暗部の濃度はそのままに、霧氷のみを際立たせる
露出をプラス補正したことで全体が明るくなり霧氷も映えてきたとはいえ、右奥の霧氷などはまだ暗い。そこで「調子」の項目の中から「コントラスト中心」を選び、低照度側「0.36」に設定。これによって背景の山影の濃度はそのままに、霧氷などの氷を明るくすることでより引き立った。コントラストも「1.55」にして若干メリハリも付けている。
「コントラスト中心」とは?
コントラスト調整上の基準の明るさを決定する。コントラスト中心を小さくすると明るくなったように、大きくすると暗くなったように感じる。「トーンカーブ」の調整に比べ直感的に操作でき、絵としてのバランスも崩れにくい。今回は明るめの霧氷がこの写真の重点である。霧氷のディテールを表現するために低輝度部にコントラストの中心を移動させて、高輝度部をより階調を深く表現した。
ステップ3. 染まる霧氷や青空を鮮やかに仕上げるため、ピンク色と青色に分けてカラー調整
最後に色味を整える。まずカラー調整で全体に彩度を上げる。ここでは「1.20」に設定。さらに「ファインカラーコントローラ」で色味ごとに調整する。ピンク色域の彩度を「+5%」、明度「+15%」にして霧氷をより明るく鮮やかに。青色域の彩度「+16%」、明度「-7%」にして青空の鮮やかさを上げつつ、明るさを抑えて全体のトーンを引き出した。これで完成!