カメラの連写機能は、狙った瞬間を捉えるための機能として進化してきた。連写速度は年々速くなり、10コマ/秒以上の連写能力を持つカメラも今では当たり前となってきた。しかし、野鳥や昆虫のようにノーモーションで飛び立つ被写体をタイミングよく写すことは、熟練の技を持つプロカメラマンでも簡単ではない。この被写体が動き出す瞬間を確実に記録できるのが「プリ連写機能」。この「プリ連写機能」は、オリンパス、パナソニック、富士フイルム、キヤノンが販売する一部のミラーレスカメラ(ミラーレス一眼)に搭載されている。ここではメーカーごとに各機能の特徴について整理してみよう。なお、同様の機能をもったコンパクトデジカメなども存在するが、本記事ではレンズ交換式カメラについて解説する。
シャッターボタンを全押しする前の画像を仮保存
「プリ連写機能」は、シャッターボタンを半押ししている間、画像をカメラのバッファメモリーに貯めておき、全押した瞬間に仮保存してある画像をメモリーカードに記録し、さらに連写し続けるというもの。このとき、電子シャッターでの撮影となり、30コマ/秒や60コマ/秒という非常に速い速度で連写できる。
名称や連写速度、溯って記録できる画像の枚数、記録画像サイズは、メーカー、機種によって異なる。オリンパスのOM-Dシリーズではこの機能を「プロキャプチャーモード」、パナソニックのLUMIX G9 PROなどでは「プリ連写機能」「6K/4Kプリ連写」、富士フイルムのX-T4/T3では「プリ撮影」、キヤノンのEOS M6 Mark IIでは「RAWバーストモード+プリ撮影」と呼んでいる。
【実写】野鳥が飛び立つ瞬間を高速シャッター&プリ連写でキャッチ
木の枝や岩の上などにとまっている小型の野鳥は、ほぼノーモーションで飛び立つ。「飛んだ」と思った瞬間にシャッターボタンを全押ししても、鳥は大きく移動し、画面の外へ消えた後ということもある。しかし、「プリ連写機能」の助けがあれば、飛び立つ瞬間を逃さない。
オリンパス OM-D E-M1X M.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PRO シャッター優先オート 1/3200秒 F4 −0.3補正 ISO3200 WB:オート
次の写真ではオリンパス OM-D E-M1Xの「プロキャプチャーモード(ProCap H)」を使用。連写速度は60コマ/秒、プリ連写枚数は15枚に設定してメジロが飛び立つ瞬間を狙った。EVFで(12)のコマを確認した瞬間にシャッターボタンを全押ししたつもりだったが、実際にシャッターが切れたのは4コマ先のカットが写った瞬間。この間、約0.067秒。メジロは画面の右端近くまで移動していた。
<画像ギャラリー(CAPA CAMERA WEB本サイトでのみ閲覧できます)>
60コマ/秒の高速連写をした写真の中でベストだと思われるのが、シャッター全押しの3枚前(約0.05秒前)、(13)のコマ。メジロの翼がきれいに広がっている。
オリンパス OM-D E-M1X M.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PRO 絞りF8 1/6400秒 ISO6400 WB:オート M.ZUIKO DIGITAL 1.4× Teleconverter MC-14、三脚使用
各社のプリ連写機能
オリンパス「プロキャプチャーモード」
オリンパスの「プロキャプチャーモード」の特徴は、まずC-AF(コンティニュアスAF)で被写体にピントを合わせ続けることができる最高18コマ/秒の「プロキャプチャーL」、ピントは1枚目で固定されるが、最高60コマ/秒の超高速連写が可能な「プロキャプチャーH」の2つのモードを持つこと。さらに、連写速度、プリ連写枚数、連写可能枚数などをメニューで細かに設定できることが挙げられる。特にプリ連写枚数と連写可能枚数(枚数リミッター)は1枚単位で設定でき、撮影の自由度が高い。
なお、「プロキャプチャーL」モード時は絞りが開放からF8までに制限される。さらに、「プロキャプチャーL」モードは、他社製マイクロフォーサーズレンズやフォーサーズレンズでは使用できない。
【搭載機種】OM-D E-M1X、E-M1 Mark III、E-M1 Mark II、E-M5 Mark III※
【モード】(1)プロキャプチャーL(ProCap L):C-AF(コンティニュアスAF)が使える (2)プロキャプチャーH(ProCap H):S-AF(シングルAF)とMF時に使える連写速度重視のモード
【連写速度】(1)プロキャプチャーL(ProCap L):18コマ/秒、15コマ/秒、10コマ/秒 (2)プロキャプチャーH(ProCap H):60コマ/秒、30コマ/秒、20コマ/秒、10コマ/秒
【プリ連写枚数】最大35枚、0~35枚の任意の枚数を設定できる
【連写可能枚数】(1)プロキャプチャーL(18コマ/秒):74~77枚(RAW)、89~105枚(JPEG) (2)プロキャプチャーH(60コマ/秒):48~49枚(RAW、JPEG) 機種や設定する連写速度によって異なる
【記録画素数】約2000万画素
【記録形式】JPEG、RAW※E-M5 Mark IIIのプリ連写枚数は最大14枚、連写速度はプロキャプチャーH時に30コマ/秒、20コマ/秒、10コマ/秒、プロキャプチャーL時に10コマ/秒
パナソニック「プリ連写機能」
パナソニックの「プリ連写機能」は、LUMIXシリーズの中で G9 PROにのみ搭載される機能。20コマ/秒の連写で被写体にピントを合わせ続けることが可能な「SH1 PRE(超高速1)」、シングルAFでピントは1枚目に固定されるが60コマ/秒の超高速連写が可能な「SH2 PRE(超高速2)」の2つのモードを持つ。なお、「SH2 PRE」を選んでも、AFがAFS、MFに設定してあると連写速度は20コマ/秒となる。
プリ連写される枚数は、SH1 PRE時は8枚、SH2 PRE時は24枚だが、いずれのモードでも時間に換算すると0.4秒間と同じ。連写可能な枚数は最大50枚なので、SH1 PRE時はシャッター全押し後に42枚(2.1秒間)、SH2 PRE時は26枚(0.43秒間)撮ることができる。プリ連写で遡れる時間が短いので、タイミングよくシャッターを切る必要がある。
いずれのモードも絞りは1枚目で固定され、使用するレンズ(他社製や旧製品)、絞りによっては、連写速度が低下することがある。
【搭載機種】LUMIX G9 PRO
【モード】(1)SH1 PRE(超高速1):AFC(AFコンティニュアス)とAFF(AFフレキシブル)が使える (2)SH2 PRE(超高速2):AFS(AFシングル)とMF時に使える連写速度重視のモード
【連写速度】(1)SH1 PRE:20コマ秒 (2)SH2 PRE:60コマ/秒、20コマ秒(AFS、MF時)
【プリ連写枚数】(1)SH1 PRE:8枚(0.4秒) (2)SH2 PRE:24枚(0.4秒)
【連写可能枚数】50枚
【記録画素数】約2000万画素
【記録形式】JPEG、RAW
パナソニック「6K/4K プリ連写」
超高速連写ができる「6K/4Kフォト」は、撮影したMP4形式の動画から撮影後に任意のコマを選び、JPEGで保存する機能。通常の「6K/4K 連写」で動きのある被写体を動画として撮っておき、狙った瞬間を選んで保存するほか、シャッターボタンを全押しした瞬間の前1秒、後1秒の計約2秒間を撮影できる「6K/4K プリ連写」機能で、一瞬を狙う撮り方もできる。
G9 PROの「プリ連写機能」が約2000万画素のRAWデータ記録が可能なのに対して、「6K/4K プリ連写」は6K(約1800万画素)、あるいは4K(約800万画素)のJPEGデータ記録となる。記録画素数の違いを理解したうえで、使い分けたい。
【搭載機種】LUMIX S1R/S1/S1H、GH5、G9 PRO
【モード】(1)6K(18M):1800万画素記録の高画素モード (2)4K H(8M):800万画素記録の超高速連写モード、(3)4K(8M):800万画素記録の標準モード
【連写速度】(1)6K(18M):30コマ/秒 (2)4K H(8M):60コマ/秒 (3)4K(8M):30コマ/秒
【プリ連写枚数】(1)6K(18M):30枚(約0.5秒) (2)4K H(8M):60枚(約0.5秒) (3)4K(8M):30枚
【連写可能枚数】(1)6K(18M):60枚 (2)4K H(8M):120枚 (3)4K(8M):60枚
【記録画素数】(1)6K:約1800万画素、(2)4K H/(3)4K:約800万画素
【記録形式】JPEG
富士フイルム「プリ撮影」
富士フイルムのハイパフォーマンスモデルX-T4、X-T3に搭載される「プリ撮影」機能。ドライブモードを「CH 高速連写」に合わせ、連写速度をメニューにある「30fps(1.25×クロップ)ES」、「20fps(1.25×クロップ)ES」、「10fps(1.25×クロップ)ES」の中から選択する。さらに「プリ撮影ES」の項目で「ON」を選ぶことで機能する。なお「ES」は電子シャッターの略号。
「プリ撮影」時は1.25×クロップ撮影となり、撮影画角は35mm判換算で1.5×1.25=1.875倍となる。例えば、400mmのレンズであれば、750mm相当の画角で撮れることになる。このとき、記録画素数は約1660万画素となる。「プリ撮影」時はAF/AEが追従するため、30コマ/秒の超高速連写でもコンティニュアスAF(AF-C)撮影が可能だ。
【搭載機種】X-T4、X-T3
【モード】プリ撮影ES
【連写速度】30コマ/秒、20コマ/秒、10コマ/秒
【プリ連写枚数】30コマ/秒時は20枚(約0.67秒)、20コマ/秒時は20枚(約1秒)、10コマ/秒時は10枚(約1秒)
【連写可能枚数】30コマ/秒時は40枚、20コマ/秒時は57枚、10コマ/秒時は310枚(JPEG記録時)
【記録画素数】約1660万画素(1.25×クロップ)
【記録形式】JPEG、RAW
キヤノン「RAWバーストモード+プリ撮影」
EOS初の超高速連写機能としてEOS M6 Mark IIに搭載されたのが「RAWバーストモード」。被写体にピントを合わせ続けるサーボAFを使いながら、最高約30コマ/秒で超高速連写を行う。メニューの「プリ撮影」の項目を「入」にすれば、シャッターボタン全押しの約0.5秒前まで溯って記録される。
「RAWバーストモード」時は約1.33倍(画面の約75%×約75%)にクロップされ、撮影画角は35mm判換算で1.6×1.33=2.128倍となる。例えば、400mmレンズであれば、約851mm相当の画角で撮れることになる。このときの記録画素数は約1800万画素となる。
連写した画像は複数枚が1組のRAWデータ形式のファイルとして保存され、撮影後にカメラで任意のカットを選択し、1枚単位のJPEG画像として切り出す。この現像処理はキヤノンのRAW現像ソフト「Digital Photo Professional」の「RAWバースト画像ツール」で行うことも可能。
【搭載機種】EOS M6 Mark II
【モード】RAWバーストモード+プリ撮影
【連写速度】30コマ/秒
【プリ連写枚数】15枚(約0.5秒)
【連写可能枚数】80枚
【記録画素数】約1800万画素(1.33×クロップ)
【記録形式】RAW
高速タイプのメモリーカードと三脚は必須
望遠レンズで「プリ連写機能」を使って一瞬を逃さず撮るには、三脚を使うことが望ましい。例えば、野鳥や昆虫が飛び立つ瞬間を撮るには、その瞬間が訪れるまで根気強く待つ必要がある。これは手持ち撮影をした場合、シャッターボタン半押しをキープした状態で待ち構えていると、被写体が動く瞬間への反応が遅れ、シャッターチャンスを逃してしまう恐れがあるからだ。
また、カメラに使用するSDメモリーカードは、UHS-IIタイプのSDHC/SDXCメモリーカードを使いたい。連写した画像はカメラ内のバッファメモリーに一時的に保存される。データの書き込み速度が遅いUHS-Ⅰのカードでは、バッファのデータをメモリーカードへ書き込むのに時間がかかり、バッファがなかなか解放されない。そのため、連写速度が落ち、連写が止まってしまうことがある。これに対して書き込み速度が速いUHS-IIタイプのカードであれば、バッファメモリーからメモリーカードへのデータの書き込みがスピーディーに進み、連写枚数を稼ぐことができる。
キヤノンEOS M6 Mark IIのカタログには、UHS-ⅠカードとUHS-IIカードの連写可能枚数の違いについての表記がある。「RAWバーストモード」撮影時にUHS-IIカードを使った場合は最高約80枚撮れるが、UHS-Ⅰカード使用時は最高約57枚で連写が止まってしまうとのこと。プリ連写される枚数は変わらないが、シャッターボタン全押し後に撮れる枚数は23枚減ることになる。
一方、オリンパス OM-Dシリーズの「プロキャプチャーモード」は、連写可能枚数までは設定した速度で連写が行われ、それ以降もシャッターボタンを押していればバッファフローを起こすまで連写し続けることができる。E-M1Xの場合、公式サイトにあるQ&Aの回答を見ると、電子シャッターによる「静音連写 H(60コマ/秒)」撮影時の連写可能枚数は、UHS-IIカードを使用してRAWデータ記録した場合は49枚、JPEGでも49枚と変わらず。
実際にE-M1Xを使いUHS-IIカード(最大書き込み速度250MB/秒、最大読み取り速度280MB/秒)と格安のUHS-Ⅰカード(最大書き込み速度12MB/秒、最大読み込み速度40MB/秒)で撮り比べてみたが、どちらのメモリーカードでも49〜50枚とほとんど同じ結果となった。ただし、51枚目以降の連写速度はUHS-Ⅰカードでは大きく落ちて、撮影後のバッファメモリーの解放までの時間もUHS-IIカードの1.5倍以上と長くかかった。なお、「静音連写 L(18コマ/秒)」撮影時には、UHS-Ⅰカード使用時は61枚、UHS-IIカード使用時は66枚と若干差が出た。
使用するメモリーカードの書き込み速度によって連写速度やプリ連写できる枚数が変わることはないが、シャッターボタン全押し後の連写可能枚数に差が出ることはある。全モデルに共通するのは、バッファメモリーを素早く解放し、次の撮影にスムーズに移るために、高速タイプのUHS-IIカードの使用が望ましいということだ。