すごい速さで雲が流れ、みるみるうちに太陽や星が移動する動画を見たことはあるだろうか。SNSや動画共有サイトで目にする機会の多いこれらの動画は「タイムラプス」と呼ばれる。「タイムラプス」は「時間の経過」を意味する「time lapse」からきた言葉で、日本語では「微速度 (撮影) 動画」と呼ばれる。一定の間隔で連続撮影した数百枚、数千枚という静止画を繋ぎ合わせ、一般の動画と同じスピードで再生することで、時間の経過をより印象的に表現できる。
このタイムラプス動画は、現行の多くのデジタルカメラに搭載されている「インターバル撮影機能」や「タイムラプス動画撮影機能」を使うことで比較的簡単に作ることができる。素材となる大量の静止画を撮影する手間はかかるが、タイムラプス動画が完成したときの喜びは格別。そこで初心者でも確実に撮れるタイムラプス動画制作の作業手順を紹介したい。
タイムラプスで撮った瀬戸大橋の夕景
瀬戸大橋がかかる岡山県側の鷲羽山から撮った夕景。日没1時間ほど前からインターバル撮影を開始し、日没にかけて撮影間隔5秒で撮影した933枚の画像を素材に画像編集ソフトでタイムラプス動画 (フルHD、30fps) を作成した。
オリンパス OM-D E-M1X コーワ PROMINAR 8.5mm F2.8 (35mm判換算17mm相当) 絞り優先オート F4 −0.3補正 ISOオート WB:太陽光 三脚使用
タイムラプス動画はインターバル撮影した画像から作る
まず、タイムラプス動画制作を始める前に基本的な手順を確認しておこう。タイムラプス動画の制作には2つのステップがある。1つ目は素材となる静止画を撮るための「インターバル撮影」。インターバル撮影とは、一定の間隔 (通常は数秒) で静止画を連続撮影すること。この画像を撮影した順番に繋ぎ合わせる作業が、2つ目のステップである「タイムラプス動画」の作成だ。通常、カメラの役割は1つ目のインターバル撮影した静止画を作ること。静止画を繋ぎ合わせる作業はパソコンに画像を取り込み、タイムラプス動画作成のできるソフトウェアで行うという流れが一般的である。
なお、「インターバル撮影」機能とは別に、「タイムラプス動画撮影」機能を持つカメラ (キヤノン、ニコン、パナソニックなどの主要モデル) もある。この「タイムラプス動画」機能は、インターバル撮影を行った後、カメラ内でタイムラプス動画を自動的に生成するというもの。初心者でも簡単にタイムラプス動画を作れる便利な機能なので、パソコンでの画像編集作業が苦手な方に最適。ただし、インターバル撮影した静止画は保存されないので、後日、細かな画像編集を行いたい方にはお勧めできない。
次に「インターバル撮影」機能と「タイムラプス動画撮影」機能、いずれの機能を使って撮影する場合にも、予め知っておきたい大切なカメラの設定があるので、そのポイントを整理しよう。
インターバル撮影に必要なカメラ・レンズ・三脚
タイムラプス動画作成の前段階、インターバル撮影に必要な機材を整理しよう。最初に用意するものは「インターバル撮影」機能を持つカメラ。現行の主要レンズ交換式カメラ (中級機以上) の多くはこの機能を搭載している。レンズは標準ズームレンズでもよいが、空を大きく入れて撮りたいときは超広角ズームレンズや超広角レンズがほしい。
次に三脚。必要な高さが得られ、長時間にわたりカメラをしっかりと固定しておける強度と重量を持つ三脚と雲台が必要。三脚が軽量である場合は、ストーンバッグを取り付けて荷物を置いたり、カメラバッグを吊したりして、安定性が増す工夫をするとよい。なお、三脚の高さが足りず、エレベーターを伸ばしたい場合もあるだろうが、風の強い日は映像が揺れることもあるので、極力避けたい。
メモリーカードは、インターバル撮影する大量の画像が保存できる容量があることを確認しておこう。容量が十分に残っていないカードだと、インターバル撮影の途中でも撮影が中断されてしまう。それまでの苦労が水の泡になる。
バッテリー切れ対策も重要。インターバル撮影を始めるとバッテリー交換はできない。予定していた枚数を撮る前にバッテリー切れを起こすと、最初から撮り直さなければならない。そのため、撮影を始める前に満充電のバッテリーに交換することを習慣づけたい。撮影が長時間にわたる場合や撮影枚数が1000枚を超えるような場合は、バッテリーが2本入るバッテリーグリップを使うか、USB給電 (PD) 対応のカメラであれば、モバイルバッテリーを接続して撮影する。こうすればインターバル撮影中に電源が落ちるという悲劇を避けることができる。
※この記事の解説写真は「オリンパス OM-D E-M1 Mark II」を使用。タイムラプス動画は、すべて画像編集ソフト「Olympus Workspace」で作成した。
インターバル撮影用のカメラ設定を行う
ほとんどのカメラは、インターバル撮影中にシャッター速度や絞り、露出補正の操作を受け付けない。また、オートフォーカスや手ブレ補正が撮影中に不用意に動いてしまうと撮影が台無しになってしまう。そのため、撮影開始前に行うカメラ設定が大切になる。
■露出モードは絞り優先オートかマニュアル
露出モード (撮影モード) は、絞り優先オートかマニュアル露出がよい。早朝や夕方、刻々と周囲の明るさが変化する場合、絞り優先オートであれば、自動露出によりシャッター速度が変化するので、明るさを一定に保つことができる。昼間の明るさの変化が少ない場合は、マニュアル露出で絞りとシャッター速度を固定することで、露出ムラが生じることによるフリッカー現象 (ちらつき) を排除できる。
■ホワイトバランスはオート以外に設定
同様にホワイトバランス (WB) も固定しておきたい。オートWBでは、被写体の色や雲の出具合などにより、少しずれた色調に写った画像が混じることがある。基本的に「太陽光 (晴天) 」に設定しておくとよい。もちろん、曇天や雨天、夜景の撮影などの場合は必要に応じて色温度による設定などを適宜行う。
■ISO感度オートでは上限を上げすぎない
基本的にISO感度は固定が望ましい。明るさが変化しない条件でインターバル撮影する場合は、ISO100やISO400など任意の感度に設定する。早朝や夕方など、周囲の明るさが大きく変化するシーンでは、ISO感度を明るい時間帯に合わせて設定すると、シャッター速度が極端に遅くなり、暗い時間帯は真っ暗な画面となる。これを避けたいときは、ISO感度を高めに設定するか、「ISO感度オート」に設定する。「ISO感度オート」であれば、周囲が暗くなってもシャッター速度が遅くなりすぎずに済む。ただし、「ISO感度オート」を使う場合は、ISO感度の上限の数値に注意。感度が上がりすぎるとノイズが目立ち、解像感が失われるので、自分のカメラの高感度性能を考えて、ISO感度の上限を設定する。マイクロフォーサーズ機ではISO1600、フルサイズ機は機種によるが、ISO3200〜6400が目安になる。
また、多くのカメラではインターバル撮影中に露出補正の操作ができないので、周囲の明るさの変化を見越して、暗い状態からスタートする早朝や徐々に暗くなっていく夕方の撮影では、全体に暗めの露出 (マイナスの露出補正を行う) に設定する。露出アンダーのほうが色の濃度が高くなり、ドラマチックな映像になる。
■オートフォーカスと手ブレ補正はオフにする
インターバル撮影中はフォーカスの位置を固定したいので、オートフォーカス (AF) はオフにする。広い風景であれば遠景に、近くに主要被写体があれば、その被写体にピントを合わせておく。
手ブレ補正もオフにすることを忘れずに。三脚使用時に手ブレ補正がオンになっていると、イレギュラーな振動を拾い、不必要な手ブレ補正を行うことがある。これがカメラブレの原因になることや、タイムラプス動画を作成する際に画面の揺れとなって影響するので注意したい。
■アスペクト比を16:9に設定する
もう1点、カメラの設定で重要なことがある。それアスペクト比の設定。タイムラプス動画に限らず、多くの動画には「16:9」のアスペクト比 (画面の縦横比) が用いられている。そこで、インターバル撮影 (あるいは、タイムラプス動画撮影) を行うときは、カメラのアスペクト比の設定を「16:9」にセットする。
画質モードをJPEGに設定している場合、アスペクト比は「16:9」で記録されるが、RAWに設定してある場合は、撮影時に「16:9」に設定してもRAW画像は「3:2」や「4:3」で記録される。そのため撮影後にトリミング作業を行う必要が生じる。ただし、RAW+JPEGに設定してある場合は、JPEGのみ「16:9」で記録される。
また、アスペクト比を「16:9」にすると、画面の上下が削られるため、「3:2」や「4:3」で撮るときより画面の垂直方向の画角が狭くなる。そのため、空を大きく入れて撮りたい場合は、写真を撮るときよりも画角の広い超広角レンズが必要になることがある。
インターバル撮影の“キモ”は撮影間隔の設定
インターバル撮影 (あるいは、タイムラプス動画撮影) の設定の詳細は、メーカーやカメラによって異なるが、共通しているのは、①撮影間隔、②撮影枚数 (コマ数)、③撮影開始時刻の3つの設定項目。最も重要な項目が①撮影間隔で、この数値の設定次第でタイムラプス動画の仕上がりが大きく左右されるといっても過言ではない。
インターバル撮影の間隔を短くするとタイムラプス動画の動きは滑らかになり、撮影間隔を長くとれば、被写体が目まぐるしく変化する様子を表現したダイナミックな映像になる。撮影テーマや被写体によって、適した撮影間隔は異なり、忙しそうに人や車が行き交う街並みの撮影であれば撮影間隔を1〜3秒程度と短めに、太陽や雲など自然風景の変化を撮るときは5〜10秒に、被写体の動きが遅い星の撮影では10〜30秒に設定するとよい。
もし、撮影間隔の選択に迷ったときは、とりあえず5秒に設定してインターバル撮影してみよう。5秒間隔であれば、どんな被写体を撮っても面白い動きをするタイムラプス動画になるし、次回撮影するときの撮影間隔の基準となる。
タイムラプス動画の長さを左右する撮影枚数の設定
タイムラプス動画の長さを左右するのが、②撮影枚数。現行の主な機種では、最大999枚、または9,999枚のインターバル撮影が行えるようになっている。例えば、撮影間隔を5秒に設定して100枚撮る場合、1分あたり12枚撮影することになるので、撮影にかかる時間は100÷12=約8.3分。999枚撮れる機種では約83分、9,999枚撮れる機種では約833分 (約14時間) かかることになる。ただし、カメラの機種やノイズリダクションの設定によっては、実際の撮影時間が計算した時間より若干長くなる。インターバル撮影のメニュー画面で、撮影間隔と撮影枚数を設定すると、おおよその撮影終了時刻が表示されるので、こちらの時間を参考にするとよい。
このようにしてインターバル撮影した画像を繋ぎ合わせ、タイムラプス動画を作成した場合、出来上がる動画の長さを計算してみる。通常、動画は1秒間に30コマ (30fps) ないし、60コマ (60fps) の画像から作られる。30fpsで計算すると、999枚で約33.3秒、9,999枚で約333秒 (約5分56秒) となる。ビデオ全般に言えることだが、1シーンが1分を超える動画は見ていて飽きるので、1シーン、20〜30秒程度にまとめるのがオススメ。そう考えると、インターバル撮影の1シーンあたり、必要な画像の枚数は600~900枚程度と考えるとよい。
インターバル撮影中は動き回らず静かに待つ
インターバル撮影をスタートしたら、基本的に撮影が終わるまでカメラのそばを離れずに見守りたい。機材の心配もあるが、何より撮影中のトラブルにいち早く気づくため。三脚が動いてしまったり、倒れてしまったりという不足の事態を防ぐためにも近くにいることが必要だ。撮影中、無闇に動き回ると、うっかりレンズの前に出てしまい、自分が写り込んでしまうというミスを犯しがちだ。ちなみに筆者もレンズの前を飛びまわる虫を手で追い払ったところ、手が写ってしまった。幸い手が写り込んだ画像が1枚だけだったので、その1枚を消去して、残りの画像でタイムラプス動画を作成して事なきを得た。
パソコンでタイムラプス動画を作成する
インターバル撮影した画像はパソコンに取り込み、タイムラプス動画作成機能を持つソフトウェアを使って編集作業を行う。タイムラプス動画作成に適したソフトウェアとしては、ビデオ編集ソフトの「Adobe Premiere Pro」や「Adobe After Effects」がまず挙げられる。静止画の連番ファイルを繋ぎ、タイムラプス動画を作成することに加え、フェードイン&フェードアウトなどのトランジットとタイトルの作成ができ、最終的な動画編集まで一貫して行える点が大きなアドバンテージだ。
もっと手軽に、できれば無料のアプリを使いたいという方には、オリンパスの「Olympus Workspace」、ソニーの「Imaging Edge」の存在は心強い。それぞれのメーカーのカメラを持っていることが使用条件となるが無料で使える画像編集ソフト。インターバル撮影した連番の画像を取り込み、簡単にタイムラプス動画を作成できる。いずれのメーカーのカメラも持っていない、という方でも、画像編集ソフト「Adobe Photoshop」はお持ちでないだろうか。実はPhotoshopにもタイムラプス動画作成機能が組み込まれている。
タイムラプス動画作成の際にも大切な設定作業がある。動画の解像度を決める「フレームサイズ」、1秒間に何コマの画像から動画を作るか決める「フレームレート」、画質やデータサイズに影響する「動画ビットレート」、そして動画の形式を選ぶ「フォーマット」の4項目。「フレームサイズ」は、「HD (HDTV 720p / 1440×720ピクセル) 」、「フルHD (HDTV 1080p / 1920×1080ピクセル) 」、「4K・UHD (3840×2160ピクセル) 」から選ぶのが一般的。今後は3600万画素以上のカメラを使った8Kタイムラプス動画も作られるようになると思うが、現状では「フルHD」がパソコンへの負荷が少なく、動画共有サイトにもアップしやすい。
「フレームレート」は、1秒間に何枚の静止画像から動画を作るかを決めるもの。数値が大きいほど動画の動きは滑らかになるが、ファイルサイズが大きくなる。一般的にはテレビ放送とほぼ同じ「30fps (1秒間に30コマ)」がよい。機種によっては、テレビ放送と同じ「29.97fps」が選択できるものもある。「ビットレート」は「bits per second」の略で、動画が1秒間に何ビットのデータで作成されているかを表す。このビットレートの数値が大きいほど、動画の圧縮率が低くなり、より高画質になる。数値で表示される場合もあるが、手元のソフトでは、「Super Fine」「Fine」「Normal」、あるいは「高画質」「標準画質」「低画質」の3項目から選ぶようになっている。通常は「Super Fine」や「高画質」を選ぶといいだろう。
最後の設定項目は「フォーマット」。「動画コーディック」とも呼ばれる動画の記録形式の選択だ。特別な意図がない限り「MP4」や「H.264」を選択したい。これらは動画共有サイトやスマートフォンなどの機器で再生でき、汎用性の高いフォーマットとなっている。
ここまで設定したら、「書き出し」→「レンダリング」 (Olympus Workspaceでは「保存」) と選択し、タイムラプス動画の作成をスタートする。後はレンダリングが完了するのを待つだけ。撮影枚数やフレームサイズによるが、レンダリングには数十分から数時間かかるので、時間に余裕のあるときに作業を行いたい。
次々とフェリーが出入りする高松港の情景
香川県の海の玄関口、高松港は瀬戸内海の島々へ向かうフェリーや高速船が頻繁に出入りする賑やかな港だ。フェリー桟橋にカメラを固定して、6秒間隔で999枚撮影。撮影時間は約97分。このインターバル画像からタイムラプス動画 (フルHD、30fps) を作成した。ゆっくりとした動きのはずの船が猛スピードで出入りする動きがコミカルな映像に仕上がった。
オリンパス OM-D E-M1 Mark II コーワ PROMINAR 8.5mm F2.8 (35mm判換算17mm相当) 絞り優先オート F5.6 −0.3補正 ISO200 WB:太陽光 三脚使用
慌ただしく行き来する電車のタイムラプス動画
この鉄道は香川県を走るローカル私鉄だが、朝夕のラッシュ時には短い運転間隔で次々と電車がやってくる。長い直線区間を望遠レンズで狙い、踏切を渡る車や歩行者の動きを重ねて、インターバル撮影した。電車、車、歩行者のいずれも動きが速いので、撮影間隔を2秒と短めに設定。671枚の画像を元にタイムラプス動画 (フルHD、30fps) を作成した。
オリンパス OM-D E-M1 Mark II M.ZUIKO DIGITAL ED12-100mm F4.0 IS PRO マニュアル 絞りF8 1/500秒 ISO400 WB:太陽光 三脚使用
瀬戸内海に沈みゆく夕日とあかね色に染まる空
タイムラプス動画の撮影テーマとして外せないのが、沈みゆく夕日と刻々と色を変える夕焼けの空。撮影間隔を5秒に設定し、日没の30分前から日没を挟んで672枚、約65分間、インターバル撮影を行った。太陽の光が強かったので、露出はマイナス1補正をかけた。ISO感度はオートとし、日没後、ノイズが強く出ないように上限を1250に抑えた。
オリンパス OM-D E-M1 Mark II M.ZUIKO DIGITAL ED12-100mm F4.0 IS PRO 絞り優先オート F5.6 −1補正 ISO感度オート WB:太陽光 三脚使用