新たな『CAPA』本誌連動企画がスタート! 月例フォトコンテスト「学生の部」の入賞作品に加え、全応募作品の中から審査員の鶴巻育子先生が目を留めた“気になる作品”をピックアップしてアドバイスします。さらなるレベルアップのためのヒントが満載です!
〈講評〉鶴巻育子
1席「千円札とヤモリ」
山内香晴 (島根県大田市 / 15歳 / 島根県立大田高等学校 / 写真部)
いやいや、他人の家の中を覗くと未知の世界が広がっていて、本当に興味深い。窓に貼り付けてある濡れた千円札だけでも違和感を覚える風景ですが、洗剤入れに使用されている無脂肪ヨーグルトの容器もかなりの違和感です。そんなユニークなキッチンの窓の外には、ヤモリがへばりついているというミラクル! 最高です!
2席「旅立ち」
奥村歌月 (愛知県名古屋市 / 17歳 / 愛知県立愛知総合工科高等学校 / 写真部)
成人式用の着物を身に纏った姉の姿。ジオラマフィルターを使用したと思われますが、顔ではなく髪飾りの花にピントを合わせたことで、記録写真の枠から外れ、撮る側、撮られる側の姉妹の気持ちがジワジワと伝わってくるような余韻を感じる素敵なポートレートに仕上がりました。
3席「霧に潜む」
松本真和 (島根県大田市 / 15歳 / 島根県立大田高等学校 / 写真部)
白鷺が霧の中から白く浮かび上がり、凛とした美しさが際立ちます。コメントを見ると、実は霧ではなく草を焼いている煙だそうですが、知らなければ霧だと思い込んで感動してしまう。それが写真の面白いところです。白鷺と言えば、白鷺の虜だった田中徳太郎。ぜひ、写真集を見てほしいです。
入選 「居眠り体操」
伏見凜音 (和歌山県田辺市 / 和歌山県立神島高等学校3年 / 写真部)
動作が全く揃っていません。そして、誰一人としてやる気を感じられません。私が子どものころから続いている朝のラジオ体操の習慣。決まりだからやっているだけ。日本人の性が写っています。
入選「お墓掃除」
中山和奏 (愛知県岡崎市 / 光ヶ丘女子高等学校1年 / 写真部)
ご先祖さまに感謝しながらのお墓掃除。逆光の光が、まるでご先祖さまが見守っているような雰囲気に。もう少しだけ明るめで掃除の様子を出してもよかったでしょう。
入選「悪夢」
西川祐平 (愛知県豊川市 / 豊川高等学校2年 / 写真部)
顔が陰になり、前に突き出した手のひらだけに光が当たって不気味な写真です。窓の外が現実的なので、背景まで工夫すると不気味さも増して完成度が高くなったでしょう。
入選「こどもごころ」
中嶋汐彩 (千葉県柏市 / 17歳 / 千葉県立柏南高等学校 / 写真部)
夜の公園は昼間と違った怪しさが漂います。そんな空間に無邪気に遊ぶ女子高生たちの姿が加わり、どことなくエロティシズムを感じます。人物の配置が惜しい。
入選「魔法のステッキ」
張中浩 (岡山県岡山市 / 18歳 / 朝日塾中等教育学校 / Asahijuku Camera Team)
ライティングと煙を駆使し、タイトルの工夫も相まって、ロマンチックな世界を作り上げています。青、緑、黄色の背景の配色が美しい。煙と影をもっと観察するとより雰囲気が出たでしょう。
入選「summer」
山地里奈 (香川県青葉町 / 17歳 / 香川県立坂出商業高等学校 / 写真部)
自分だったら、撮られたくない恥ずかしい瞬間。隣の女の子の存在で、悲惨な場面も賑やかで楽しい場面に変化してよかった。コケた男の子には触れないタイトルが面白い。
入選「元気に育てよ!」
大林采花 (香川県坂出市 / 香川県立坂出商業高等学校2年 / 写真部)
これが映画だったら、穴の中に苗が入り真っ暗になって場面転換って感じですね。表情が硬くやらせ感たっぷり。撮影に付き合ってくれるおじいちゃん。微笑ましい。
入選「習慣」
楫大和 (島根県大田市 / 島根県立大田高等学校3年 / 写真部)
「日本人なら毎朝見る味わい深いみそ汁」とコメントが添えられていました。渋い雰囲気ですが、どこか軽い印象を受ける妙な写真です。主観主義写真の新山清作品を思い出しました。
入選「朝焼けの中の気球」
大田響己 (福岡県北九州市 / 18歳 / 九州国際大学付属高等学校)
燃えるような夕焼けの空のインパクト。雲の表情も豊か。そこに一機の気球のシルエットが浮かび、ドラマチックな一枚に。中央に配置し力強さを出したのもよかった。
ここからは、惜しくも選外となった作品の中から、鶴巻育子先生が気になった作品をピックアップしてアドバイスします。
〈講評〉鶴巻育子
あそぼ? (4枚組)
岡﨑ひなた (和歌山県田辺市 / 和歌山県立神島高等学校3年 / 写真部)
海の近くに住んでいる子どもを撮影した組写真。さすがフォトコン入選の常連さん! まず、インパクトのある1枚目の写真で目を引きました。ほかの3枚も光の捉え方、アングル、被写体との距離感と絶妙なバランス。主役の女の子のアグレッシブな行動に対し、男の子たちのテンションの低さとの対比もしっかり狙っているところが抜け目ない。
気になったのは、ある日の夕方の数時間で撮影したと思われます。作品づくりは必ずしも時間をかければいいというわけではないのですが、短時間で撮影した写真の中で面白い写真を集めたんだなという印象を受けました。また、男の子が一人で縄跳びをしている3枚目の写真は、女の子が主役の中でちょっと浮いてしまいました。枚数がもっと多かったら、このシーンも生きてくるかもしれません。4枚に制限せずに、組写真に取り組んでみるとよいかもしれませんね。
午後のひととき
竹下友梨 (島根県大田市 / 17歳 / 島根県立大田高等学校 / 写真部)
白いシャツと赤い口紅が印象的で魅力的なポートレート。半逆光で顔に陰影がつき立体感も出ています。笑顔のポートレートもいいですが、その場合、表情や可愛さだけを見てしまいがちになります。この作品のように、デッドパン (無表情) で撮影すると、人物の内面が見えてきたり、かえって撮影者との関係性が想像できたり、また、見ている私たちと対峙しているような感覚になったりと、見る人によって捉え方が広がります。
この写真はスナップ的なポートレートですから、そこまで考えて撮影していないと思いますが、光をもっと読んだり、画角を微妙に変えたり、細かい部分に気を配ることで、よりイイ写真を撮ることができると感じました。
あれ、なにかな…?
中田大介 (愛知県小牧市 / 15歳 / 愛知県立小牧南高等学校)
美人な猫です。凛々しい表情は、何を見ているのか気になります。いい光が当たり、黒と白の毛並みがキレイに出ていて、長いヒゲも目立ちます。
撮影場所が自宅と記載されていたので、飼い猫でしょう。自分の子どもやペットは、どんなときでもかわいく見えるものです。確かに、この猫ちゃんはとてもかわいい。しかし、かわいいだけの猫の写真では、他人が見たときにそれ以上の共感を得られません。例えば、見たこともないユニークな仕草をしている瞬間とか、もっと引いて家の中の様子を一緒に写して猫との暮らしの風景を見せるとか、写真の中にもう一つ要素を加えてみましょう。
ひと足おくれて
宮武侑加 (香川県坂出市 / 香川県立坂出商業高等学校2年 / 写真部)
バーベキューの食べ残しのお皿に留まる1匹のハエ。けして美しいとは言えない場面ですが、美の基準や興味は人それぞれ。面白い視点です。何かに反応した瞬間にカメラを向けるフットワークの良さは、写真を撮る者、特にスナップシューターにとっては必要な素質です。
フォトコンテストとなると、正直なところ、この写真で入選することはなかなか難しいかもしれません。でも、この先も、このまま自分だけが持つ視点や美的感覚で世の中を見て写真を撮り続ければ、面白いモノができそうな気がします。上手な写真を撮ろうと思わないでいいのです。自分の世界を写してほしいです。
何とな〜くですが、ヴォルフガング・ティルマンズの作品を思い出しました。
古き良き (3枚組)
三原由貴 (広島県庄原市 / 16歳 / 広島県立庄原格致高等学校 / 写真部)
商店街の古いお店や建物を撮影した組写真。古いものや懐かしいものを見ると、心が和みます。正面から平面的に捉え、画面いっぱいに建物を入れる、撮影するときにルールを作ったことで、統一感が生まれたのがよかった。
このように似た被写体を揃えた組作品の場合は、もう少し数が欲しいですね。これを機に、古い建物を撮りためてみてはいかがでしょう。それと、もう一つ気になったのが応募票のコメント。「古い」と一言だけでした。なぜ、この古い建物が気になって撮影したのか、その動機や撮影しているときの気持ちなどが書いてあると、作品の良さがより伝わります。