プロの写真家はRAW現像で仕上げることを前提に撮影することも多い。しかし、その工程は意外にも簡潔だったりする。写真家の藤村大介さんが行なっているRAW現像を3ステップで紹介する。
藤村大介 × Capture NX-D × 夜景
暗部の描写を引き出しながら夜景ならではの人工色を強調させる
撮影では白トビを極力抑えて現像時に暗部を補う
デジタル創成期の夜景写真は、ノイズや画質の劣化を防ぐため、なるべく修正をしなくてもいいように撮影していた。露光は十分、色味は浅く撮影し、仕上げで彩度を調整するのが一般的だった。最近のデジタル一眼はダイナミックレンジが広く、高感度や低照度に強いことから暗部の補正が容易になり、ギリギリの低照度で撮影が行なえる。言い換えれば、白トビを極力抑えながら暗部を修正で補うことができるのだ。これは夜景写真にとって大きなメリットである。
印象をそのまま残せるように撮影して画像処理を施す
夜景写真は明る過ぎては夜のイメージを損なう。その微妙な明るさの表現が、夜景を「写したい」のか「作りたい」のかの違いになる。近年SNSで流行りの夜景写真は、後者の「作り上げた」写真が多い。否定するわけではないが、私は目の前に見えている風景を写真に残したいと考えているので、印象をそのまま残せるようにカメラを設定し、撮影条件に合った画像処理を施す。「過ぎたるは及ばざるが如し」の精神で作品を制作している。
極端な補正をせずに記憶色を再現する
私は人工光源の色がとても好きで、特に緑、オレンジ、アンバーは夜景写真において最も重要な色味と考えている。それらの記憶色を再現するために、RAW現像で色味と明るさを調整する。全ての色は明るさに左右されるので、次で説明する項目が非常に重要となってくる。さらに、シャドーやハイライトは極力自然な状態を維持したい。極端な補正は不自然な仕上がりになってしまうからだ。
コントラストは弱めが基本! 色や明るさは部分的に調整する
使用ソフト : ニコン Capture NX-D (Ver.1.6.3)
ステップ① トーンカーブを用いて、強めのコントラストを軟調方向に調整する
夜景におけるトーンカーブの曲線は、コントラストを弱めるために「逆S字」が基本。まずは右側の縦線を山型のヒストグラム付近まで詰め、白の濃度の幅を狭くする。次に斜線がヒストグラムと交わっている辺りを目安にドラッグし、全体の明るさを決め、さらに画面を見ながら左下 (暗部) を少し持ち上げて暗部の描写を引き出す。右上 (明部) は少し下げて、逆S字を作った。
ステップ② 水銀灯の緑やナトリウム光のオレンジを、LCHエディターを使って強調する
LCHエディターで調整できる明度、カラー明度、彩度、色相の中から彩度を選択。白線上の気になる色の部分をクリックし上下させることで彩度を調整する。今回は都会的なイメージを出すために、人工光源の色である緑とオレンジを上に持ち上げて強調した。彩度は上げ過ぎると色飽和を起こすので注意が必要だ。
「LCHエディター」とは?
気になる色を指定し、その色のみを調整できる機能。夜景では主に「彩度」と「カラー明度」を使うことが多い。パネル右側にあるスライダーを上下に動かすと全体的に調整でき、白い直線の上で好きな色をクリックし上下すると、その色のみが変化する。パネル下のスライダーが調整幅で、指定色付近の範囲を決められる。
ステップ③ カラーコントロールポイントで空の明度を落として夜の雰囲気を引き出す
青は画面に多数存在するので、場所を限定できるカラーコントロールポイントで調整していく。空の青い部分をポイントし、その周辺の近い色部分の明度 (B) を落とし、夜の雰囲気を出した。同時に明るく写っている雲も落としている。空の暗さは夜の雰囲気を最も印象付けるので、明る過ぎないように仕上げよう。これで完成。