『CAPA』本誌連動企画として毎月公開している、月例フォトコンテスト「学生の部」ピックアップ作品レビュー。今回は『CAPA』2021年4月号より、誌面に掲載された入賞作品に加え、全応募作品の中から審査員の鶴巻育子先生が目を留めた“気になる作品”をピックアップしてアドバイスします。さらなるレベルアップのためのヒントが満載です!
〈講評〉鶴巻育子
1席「本当の自分。」
尾﨑小梅 (和歌山県田辺市 / 16歳 / 和歌山県立神島高等学校 / 写真部)
馬の写真で知られる写真家・今井壽惠さんの自由で詩的な初期の作品を思い出す印象の強い作品です。誰もが自分は何者か、考えるものです。違った方向を向いたり表情の違う自分がレイヤーになったプリントから、どの自分が本当か混乱し模索しているような、複雑で純粋な気持ちを感じました。これからも独特な表現を続けてほしいです。
2席「ひとりごと」
生越若葉 (島根県大田市 / 16歳 / 島根県立大田高等学校 / 写真部)
静かな部屋に風が通りカーテンが揺れているシーン。アングルから想像して横になってシャッターを切っているようです。作者が自分の部屋で寛ぐリラックス感が見る側にも心地よさを与え、見えない気配に不思議と惹きつけられる作品です。「ひとりごと」というタイトルが、より広がりを感じさせる仕掛けとなっています。
3席「白亜紀復活」
向當和莉 (福井県越前町 / 17歳 / 福井県立丹生高等学校 / 写真部)
大胆で不安定な構図。一瞬で大きなインパクトを受けました。倒れそうに見えるビルの錯覚で目眩がしそうです。美しい青空、逆光、水しぶきなどさまざまな好条件が揃ったのも運が良い。眺めていると元気になる作品です。巨大なプリントで出力してみたい。写真はプリントサイズで印象が大きく変化します。
入選「命中」
市川拓実 (愛知県小牧市 / 16歳 / 愛知県立小牧南高等学校)
ムキになっている男子学生の表情が劇画風で面白い。何を表現したいのかわかりませんが、表現云々よりもインパクトがあるだけで写真は成り立つことがしばしば。ストロボ使用が効いています。
入選「いざ着地」
白垣若葉 (福岡県宇美町 / 16歳 / 福岡県立宇美商業高等学校 / 写真部)
説明的でない写真は、眺める時間が長くなる効果があります。学生服を着た女の子の姿とはわかりますが、変な体勢ですし、なぜこれを撮影したのか作者への興味もわきました。それぞれのフォルムの重なりも面白い。
入選「雪遊び」
田原颯汰朗 (島根県大田市 / 16歳 / 島根県立大田高等学校 / 写真部)
作者は雪遊びの楽しさを表現したようですが、中央にある人型が事件現場のように見えたり、高コントラストのプリントにより不穏な空気を感じ、タイトルとのギャップがかえって印象を強めています。
入選「涼」
藤本愛永 (香川県坂出市 / 坂出商業高等学校2年 / ジャーナル研究部)
色合いと透明感が際立つ美しさに、口を丸く開けた金魚のコミカルさが加わり、とても印象に残る作品。縦位置が深さを感じさせ、地上に住む私たちには味わえない水の中の清らかな世界を見ているようで素敵です。
入選「Black kite」
夏目大翔 (愛知県豊川市 / 豊川高等学校2年 / 写真部)
迫力満点。シルエットになったことで、トンビの英語名「black kite」のblackが強調され、さらに凧の英語名「kite」の文字によって、本物ではないような印象が加わり錯覚を覚える面白い作品になりました。
入選「晴れのち雪」
岡 心春 (島根県大田市 / 16歳 / 島根県立大田高等学校 / 写真部)
猫だけに注目せず、窓の映り込みやカーテンの柄を重ね合わせた構成が面白い作品に繋がっています。窓枠で作品が締まった印象になったのもよかった。光沢や半光沢の用紙がマッチしそう。
入選「生きていく」(5枚組)
榎本萌々 (和歌山県田辺市 / 16歳 / 和歌山県立神島高等学校 / 写真部)
光と影が印象的で、おばあさんの素朴な生活がいい距離感で表現されています。足元の写真は力強く目を引きますが、作者の視点とおばあさんの意識がほかの写真とは異なって見えました。
ここからは、惜しくも選外となった作品の中から、鶴巻育子先生が気になった作品をピックアップしてアドバイスします。
チラッ
花田日菜 (愛知県小牧市 / 16歳 / 愛知県立小牧高等学校 / 写真部)
赤い首輪が似合う美人な三毛猫です。場所は作者の祖父の家だそうですが、テーブルには飲みかけのビール、背後は雑然とした食器棚など、おじいさんは写っていませんが、存在が感じられます。
周りの様子を一緒に写すことで、おじいさんと猫の暮らしぶりが感じられるのがよかった。どうせなら、より引いて周囲をもっと入れても面白かったと思います。
無題
京藤 和 (福井県越前町 / 18歳 / 写真部)
今の時代もパン食い競争が体育祭の競技にあるのが、微笑ましいです。真剣にパンを口で捉える仕草自体がとても滑稽ですが、写真はこの瞬間の前後が見えないことで余計にユニークに感じます。棒や白線のラインによって、不安定な構図になっている面白さもあります。
タイトル、コメントは応募票に記入したほうが、作者の作品への真剣度が伝わりますよ。
運命
川上将弥 (島根県大田市 / 15歳 / 島根県立大田高等学校 / 写真部)
ゴミに惹かれる気持ちに共感します。使命を終えた物たちの存在は、寂しげに見えたり、美しく見えたり、不思議な魅力を感じますね。アーヴィング・ペンをはじめ、これまでにたくさんの写真家がゴミを被写体にしています。
この視点、タイトルの付け方、とても素晴らしいと思います。主役であるゴミにピントが合っていないのは残念。また、俯瞰で捉えたゴミ籠のフォルムが際立つように全体の構図をもっと考えて撮影するとよかったでしょう。