『CAPA』本誌連動企画として毎月公開している、月例フォトコンテスト「学生の部」ピックアップ作品レビュー。今回は『CAPA』2021年7月号より、誌面に掲載された入賞作品に加え、全応募作品の中から審査員の鶴巻育子先生が目を留めた“気になる作品”をピックアップしてアドバイスします。さらなるレベルアップのためのヒントが満載です!
〈講評〉鶴巻育子
1席「かがみよかがみ」
岡 心春 (島根県大田市 / 16歳 / 島根県立大田高等学校 / 写真部)
鏡を用いた表現は、妙な奥行き感が出て不思議でロマンチック。光の選択がお見事でした。鏡に映る桜は順光が当たり、淡いピンクが再現されました。また、指と髪の毛のピンに逆光の光が当たったことで、彼女の顔は見えなくても清楚な雰囲気を持った彼女の存在感が出ています。これを機に鏡の作品を作ってみては?
2席「天国の教室」
西田順哉 (岐阜県関市 / 17歳 / 関市立関商工高等学校 / 写真部)
不気味な教室風景。大林宣彦監督の映画「時をかける少女」や「狙われた学園」を思い出しました。多重露光は組み合わせと配置、露出がカギとなりますが、全て絶妙です。しかし、天国には見えなかった!
3席「亡骸」
竹内瑛亮 (愛知県豊川市 / 豊川高等学校 / 写真部)
イルカの一種であるスナメリの死骸。変わり果てた姿にショックさえ受けます。ライトを当てたことで一段とグロテスクな質感が際立ちました。背後のシルエットは入れずスナメリだけフレームに収めたら、さらに上位を狙えたでしょう。ストーリーを作りすぎないように注意です。
入選「悪戯坊主」(3枚組)
道畑あおい (和歌山県田辺市 / 18歳 / 和歌山県立神島高等学校 / 写真部)
手に負えなそうなパンツ一丁ではしゃぐ子ども。足と鏡の写真は、悪戯の激しさに作者が振り回されているのが想像でき、この家の個性も見えて非常に面白い。それらに比べると、もう一枚が少々弱く感じました。
入選「無常の春」
坪井柊一 (愛知県豊山町 / 16歳 / 愛知県立小牧南高等学校)
無惨な光景ですが、ポップで爽やかな印象を受けるのが面白い。そこに大袈裟なタイトルが加わり、全体のチグハグさに惹かれます。この手のテイストは、複数枚で表現するともっと世界観を感じられそうです。
入選「ただ待ち続ける」
松本真和 (島根県大田市 / 16歳 / 島根県立大田高等学校 / 写真部)
寂れていくベンチや建物と静かに育っていく植物との対比に着目した作者の視点から、時の流れが感じられます。どこかもの悲しい風景を低コントラストになる曇りを選択したのもよかったと思います。
入選「裸足で駆け出せ」
谷口 凜 (福井県越前町 / 17歳 / 福井県立丹生高等学校 / 写真部)
「クツをぬぎはらって思いのままにあなたと駆け出すこの時間がどれだけ楽しく幸せなことだったか…」。作者が書いた言葉が沁みます。カラオケ映像の一コマみたい! 二人の動きのタイミングもよかった。
入選「nostalgic」(5枚組)
太田真緒 (和歌山県田辺市 / 17歳 / 和歌山県立神島高等学校 / 写真部)
まず、この濃い空間に入り込む勇気が素晴らしい。色々な場面を切り取っていますが、説明的になっています。もっとストレートに撮ってみると良いのでは? ぜひ、同じ場所の撮影にもう一度チャレンジしてほしいですね。
入選「船の眠るまち」
石川悠乃 (神奈川県横浜市 / 16歳 / 瀬谷高等学校 / 写真部)
ドラマチックなタイトルです。言葉によって写真の見え方が変化する良い例。手前にある太い縄、タバコをくわえたおじさん、街の風景のレイヤーによってこの街がどんな場所かが伝わりました。広角レンズの特徴を理解した構図が良い。
入選「生命力」(4枚組)
吉田 開 (宮城県仙台市 / 16歳 / 宮城県泉高等学校)
高コントラストのモノクロと大胆な構図で捉えた迫力満点の桜の木。どこまでも枝が伸びているように感じるフチなしプリントの相性も抜群。プリントの質を向上させればより表現の幅が広がります。
ここからは、惜しくも選外となった作品の中から、鶴巻育子先生が気になった作品をピックアップしてアドバイスします。
幻想
須貝穂佳 (千葉県柏市 / 16歳 / 千葉県立柏南高等学校 / 写真部)
光が森いっぱいに降り注ぎ透明感のある風景。実際肉眼ではこの場所はもっと暗く、木々の間から逆光で光が差し込んでいると想像できますが、見たままを写すのではなく、須貝さんがこの風景を目の前にしてどのように見えたか (感じたか) わかるのがいい。それが写真表現の面白く興味深いところ。
ハイキーの画像で注意したいのは、白飛びです。手前の草がもう少し優しい雰囲気でディテールが残っているとよかったと思います。カメラの液晶画面やパソコンで見て良い場合でも、プリントすると美しくないことがあります。プリントを前提に考えましょう。
水面と桜
山岡 愛 (千葉県柏市 / 16歳 / 千葉県立柏南高等学校 / 写真部)
大きな水たまりを画面半分に配置しシンメトリーの構図が印象的です。雨上がりの青空と澄んだ空気を感じる爽やかな光景。桜も生き生きと咲いています。空の青、桜のピンク、草の緑と色のバランスも美しい。
とても良い視点ですが、ファインダーを覗いたときに右上の太い幹や手前の落ち葉に気づき、それらを画面内から外す構図を作るとより美しい作品に仕上がったと思います。
夏のイメージ (4枚組)
渡辺真由 (岐阜県御嵩町 / 18歳 / 岐阜県立東濃実業高等学校 / 写真部)
ポカリスエットに学生と来れば、奥山由之さんが撮影したポカリスエットの広告を思い出さずにはいられませんね。意識したかはわかりませんが、それよりも静かな夏が写っています。顔の見えない女子高生の姿と蝉の抜け殻が、何を伝えたいか見る側が想像する楽しみがあります。
全体が被写体に寄った写真が多い中で、2枚目の女性が走っている写真が入ることで変化が生じ良いアクセントにはなってはいますが、これだけ私服なのが違和感に。制服を着ていたほうが統一感が出たと思います。