『CAPA』本誌連動企画として毎月公開している、月例フォトコンテスト「学生の部」ピックアップ作品レビュー。今回は『CAPA』2021年10月号より、誌面に掲載された入賞作品に加え、全応募作品の中から審査員の鶴巻育子先生が目を留めた“気になる作品”をピックアップしてアドバイスします。さらなるレベルアップのためのヒントが満載です!
〈講評〉鶴巻育子
1席「空しくなる」(3枚組)
谷口 凜 (福井県越前町 / 17歳 / 福井県立丹生高等学校 / 写真部)
物語を設定しそれに沿って撮影する手法は、最近の学生たちの写真の傾向。ほとんどは、見る側が想像し楽しむ余地のない窮屈な作品ですが、この作品は、まずビジュアルの美しさに惹かれますし、その後の展開が気になり想像する余白を残してくれる広がりのある作品です。
2席「メダカ」
中山和奏 (愛知県岡崎市 / 16歳 / 光ヶ丘女子高等学校)
しっとりとした世界観と、美しい色彩感覚が目を引きます。縦位置の構図で現実的な空気を消し、緊張感を与えています。光沢紙のプリントとの相性も良く、きれいに額装するとさらに引き立つ作品になると思います。自宅の庭とのこと。四季を通して写してみては?
3席「女の争い」
伊藤優太 (埼玉県北本市 / 17歳 / 埼玉栄高等学校 / 写真部)
自信に満ちた笑顔でカメラに目線を送るポスターの中の女性と、それを横目で見る不安げな表情で涙を流すTシャツの中の女性との対比が強烈。さらに、強い印象のタイトルが加わり、女性としては複雑な気持ちにもなる面白いスナップショットです。
入選「仲間」
長尾裕奈 (香川県坂出市 / 香川県立坂出商業高等学校3年 / 写真部)
遠浅の海辺で思い思いに夕暮れの時間を楽しんでいる人々。それだけなら美しい風景なのに、それをじゃまをするようにカメラの前を横切る大きな足。遠近感を利用した構図が面白いです。
入選「これで2位」
本間智大 (東京都東村山市 / 15歳 / 東亜学園高等学校)
顔はピタッと止まり表情が見えて、足のブレで動きを感じさせ、背景もカラフルで全体のバランスが素晴らしいです。実は2位だったとオチがありますが、この写真だけ見ると完全に優勝の雰囲気です。
入選「まだ見ていたい」
辻野加菜 (大阪府松原市 / 16歳 / 大阪府立生野高等学校 / 写真部)
手の存在によって、動物写真ではなくスナップ写真として楽しめる一枚になっています。タイトルからも読み取れるように、手にも表情があり、感情が表れるのが興味深いと思いました。
入選「On the スベリダイ。」
福家みなみ (香川県坂出市 / 香川県立坂出商業高等学校1年 / 写真部)
くっきりと濃度の濃い色味が目を引きます。下からのアングルでシンプルな構図となり、二人の素の表情が引き立ちました。絞りを絞ったことでセンサーの汚れが目立つのが残念でした。
入選「V20 〜Waになって〜」
四谷 心 (愛知県名古屋市 / 15歳 / 愛知工業大学名電高等学校)
彼らは真剣にストレッチをしていますが、集団で同じ動作をしている場面は側から見るとユニークな風景に見えることがありますね。俯瞰で捉えているので、なおさらフォルムが際立ち面白いです。モノクロ化してもいい写真でしょう。
入選「影富士」
山田聖瑛 (愛知県名古屋市 / 17歳 / 愛知工業大学名電高等学校)
いわゆる影富士ですが、淡いピンクとブルーのグラデーションが美しい。きれいなシンメトリーによってより神秘的な印象を与えています。大きくプリントするほうが映える作品ですので、ぜひ大きくプリントしてみましょう。
『CAPA』10月号月例フォトコンテスト「学生の部」において、入選作品「ままに内緒で」は二重応募に該当するため取り消しといたしました。
ここからは、惜しくも選外となった作品の中から、鶴巻育子先生が気になった作品をピックアップしてアドバイスします。
散りゆくもの
久保田 樹 (香川県坂出市 / 香川県立坂出商業高等学校2年 / 写真部)
お母さんに抱っこされて安心した表情の小さな子ども。お母さんも素敵な笑顔を見せています。
タイトルも意味深ですが、コメントにも「サクラが散っていくのを子どもが見つめ、親はその子どもを見つめている。春の終わりと夏の訪れを感じさせる写真です」と記載されていました。ただの記念写真ではなく、視線や時間の流れに着目していたとは。言葉が加わることで、写真の見え方が変わります。
プリントの色があまり良くないですね。せっかく良い写真を撮影しているのですから、美しいプリントを心がけましょう。きれいにプリントすると、びっくりするほど良い写真になります。
モウイヤダ
春木快斗 (福井県越前町 / 福井県立丹生高等学校3年 / 写真部)
うまい具合にバランスよく用紙が教室中を舞っています。机、窓、壁、黒板、そして舞い散っている用紙と、角ばったものばかりが教室内にあることがモノクロ表現だからこそ気づきました。窓からのサイド光で陰影がつき、不気味な印象に仕上がっています。
タイトルも含めてみると、学校生活か勉強かに不満が爆発した気持ちを表現しているのだと想像できました。コメントには「一年のときに先輩に協力していただいて、校内で撮影しました」と。撮影状況は、写真を見ればわかりますので、なぜ、このような写真表現をしたのかを書くと、一層この作品への思いが他者に伝わるでしょう。
「いってらっしゃい。」
渋谷優来 (島根県大田市 / 16歳 / 島根県立大田高等学校 / 写真部)
夜が明けて漁に出る父親を見送る娘さんでしょうか。控えめに手を振る仕草に日常感が出ていて、かえってドラマチックに感じました。空の表情のディテール、地面や堤防などの暗い部分も潰れずに出ていて、マット紙できれいにプリントされています。
マット紙を選んだのに理由があるかわかりませんが、ストレートな写真ですので、状況がより鮮明に見えるように光沢か半光沢紙でプリントするほうが、より伝わる写真になると思います。