『CAPA』本誌連動企画として毎月公開している、月例フォトコンテスト「学生の部」ピックアップ作品レビュー。今回は『CAPA』2021年4月号より、誌面に掲載された入賞作品に加え、全応募作品の中から審査員の鶴巻育子先生が目を留めた“気になる作品”をピックアップしてアドバイスします。さらなるレベルアップのためのヒントが満載です!
〈講評〉鶴巻育子
1席「静寂」
片桐一揮 (岐阜県御嵩町 / 18歳 / 岐阜県立東濃実業高等学校)
カーテンとボケた風景で2分割された大胆な構図が印象的です。横顔のシルエットは、よく見ると人間とは違う生き物のようで違和感を覚えます。クールな色彩も相まって、異世界に迷い込んだような印象を受ける独特な空気感を放つ作品です。
2席「あと少し」
加藤安良波 (愛知県豊田市 / 17歳 / 愛知県立猿投農林高等学校 / 写真部)
ヤギが餌を食べるかわいらしい場面ですが、造形的な美しさが目を引く作品です。背景の不思議な雲の模様が良いアクセントになっています。豊かな階調のプリントでさまざまな黒が味わえます。優しさと素朴さが感じられ、眺めていて飽きのこない写真です。
3席「下校」
村上竜基 (岐阜県関市 / 16歳 / 関市立関商工高等学校 / 写真部)
長く伸びた自転車の影がドラマチックに下校の時間を演出しています。バランス良く3人が配置された画面に車の一部が加わったことで、よりリズム感と物語性を感じさせる作品になりました。赤みの強い色味で非現実的なイメージが生まれたのも魅力です。
入選「うらがわ」
清水真利亜 (愛知県岡崎市 / 15歳 / 光ヶ丘女子高等学校)
フクロウが撮影のじゃまをしています。ボケていても愛嬌のある顔が憎めませんが、背後にある餌にギョッとしました。ホラー映画のようです。黒バックで白が際立つ配色も目を引きました。
入選「空」
榮林実乃里 (京都府亀岡市 / 7歳 / 亀岡市立大井小学校)
タイトルが「空」にも関わらず、電線や電柱がじゃまをして空がほとんど隠れてしまっています。しかし、片隅に存在感のある駐車場の「空」の文字が。シャレの効いた面白い作品です。
入選「怨憎会苦」
玉村心優 (福井県越前町 / 16歳 / 福井県立丹生高等学校 / 写真部)
2人の自分を表現したそうです。「怨憎会苦」に当てはまる人物は自分なのでしょうか。そう考えるととても奥が深いです。文字が仏教のイメージに繋がり、コンセプトにマッチしています。
入選「回想の夜」(3枚組)
今西海央里 (三重県松阪市 / 18歳 / 皇學館高等学校 / 写真部)
光の筋が生き物みたいで不気味です。そのせいかわかりませんが、どの写真からも何かの気配を感じます。作者はこれらの光景をフィルムに収めながら、過ぎた時間を重ねているのでしょうか。
入選「walker」
渡辺大翔 (大阪府松原市 / 16歳 / 大阪府立生野高等学校 / 写真部)
たくさんの提灯がぼんやりと写る光景が厳かな空気を醸し出しています。と思いきや、中央に小さな人物を見つけた瞬間にその雰囲気が崩されました。迫力とユーモアのある作品です。
入選「雨上がり」
村松尚都 (愛知県津島市 / 16歳 / 愛知県立津島東高等学校 / 写真部)
俯瞰で捉えたことで、放射状に広がる葉脈のラインと水滴のフォルムが際立ちました。カエルと小さな葉の塊が対角線上に配置されて整った素晴らしい画面構成となっています。
入選「放課後」(3枚組)
湯川紗愛 (和歌山県田辺市 / 18歳 / 和歌山県立神島高等学校 / 写真部)
テニス部の練習風景が、シルエットの表現で神秘的な行為に見えて不思議です。スローモーションの映像を眺めているような心地良さがあります。空間の取り方にもセンスを感じます。
ここからは、惜しくも選外となった作品の中から、鶴巻育子先生が気になった作品をピックアップしてアドバイスします。
時よ止まれ…
池内菜摘 (香川県坂出市 / 香川県坂出商業高等学校1年 / 写真部)
時計と少女というモチーフから、沢渡朔さんの作品を思い出しました。少女の魔法で時計を浮かべている不思議な写真です。
枯れ草やどんよりした空が広がるシチュエーションの選択が、作者が意図した「時間を止めたい女の子の寂しそうな姿」をより表現することができたと思います。
服装が現実的。衣装にも凝ってみるとさらに面白い作品になったでしょう。
いないないばあ (2枚組)
所澤ひじり (愛知県小牧市 / 16歳 / 愛知県立小牧高等学校 / 写真部)
右の写真は、熊の表情がユニークで曇って水滴がついたガラスのフィルターも面白く作用しています。左の写真は、山のように盛り上がった水面のフォルムと大量の泡の迫力が魅力です。
タイトルを読んでこの2枚の構成に納得いきました。
2枚の組写真は、説明的になりやすいので難しいですね。1枚つず見せると効果的なこともあります。特に左の写真は一見何が写っているかわからないのでとても惹きつけられました。
わたしのローファー (3枚組)
五十嵐千里 (宮城県仙台市 / 宮城県泉高等学校 / 写真部)
側溝やマンホールなど道で見つけたユニークな形を俯瞰で撮影したシリーズ。自分の足を入れることで、作者の存在と視線を感じられます。ローファーという学生ならではの靴選びで、作者の情報を匂わせる効果が出ていて、シリーズとしてのルールを決めたのがよかった点です。
写真によっては、靴がわかりづらかったり、手振れしているものがあったのがもったいないと思いました。また、このような写真は数が多いと面白さが増すので、ぜひ撮りためてみてほしいです。