『CAPA』本誌連動企画として毎月公開している、月例フォトコンテスト「学生の部」ピックアップ作品レビュー。今回は『CAPA』2022年6月号より、誌面に掲載された入賞作品に加え、全応募作品の中から審査員の鶴巻育子先生が目を留めた“気になる作品”をピックアップしてアドバイスします。さらなるレベルアップのためのヒントが満載です!
〈講評〉鶴巻育子
1席「17時になる前に」(5枚組)
道畑あおい (和歌山県田辺市 / 18歳 / 和歌山県立神島高等学校 / 写真部)
瞬間の切り取り、光の読み、構図感覚と写真1枚1枚の完成度の高さも当然評価しますが、何より感激したのは、ゆっくり流れる子どもの時間が写っていることです。「子どものころを思い出す」というと月並みな表現ですが、当時の時間の感覚がリアルに蘇ってきました。
2席「掃除をしていて見つけたもの」(6枚組)
中山和奏 (愛知県岡崎市 / 17歳 / 光ヶ丘女子高等学校 / 写真部)
学生たちがカオス状態の空間に密集しています。黙々と部室の片付けをしていますが、制服とマスク姿が組織的なイメージを生み、儀式を行なっているようで異様な光景に見えました。断片的に記録する写真だからこそ、不思議な空気感が現れたと思います。
3席「不機嫌」
朝日慎也 (愛知県愛西市 / 17歳 / 愛知県立佐屋高等学校 / 写真部)
まぶしいくらいに鮮やかなトサカの赤が目に留まります。被写体自体の強さもありますが、衝動的に切り取られた大胆な構図から、作者のワクワク感が伝わってきます。視覚的迫力で勝負する1枚。写真の面白さって、こういうところだなと実感させられる作品です。
入選「鷹、襲来」
佐々木京香 (島根県大田市 / 16歳 / 島根県立大田高等学校 / 写真部)
よく見れば鷹匠のショーだとわかりますが、怯えていたり必死で地面に伏せていたりと物騒な場面に見えます。切り取り方によって事実と違った事柄が写ってしまう。面白くもあり恐いところでもありますね。
入選「満開」
内藤玲奈 (愛知県岡崎市 / 16歳 / 光ヶ丘女子高等学校 / 写真部)
桜が人々を支配しているようです。満開の桜を目にすると、居ても立っても居られない人間の心理が写っています。モノクロの選択が成功し、桜の迫力と美しさを見事に表現している秀作です。
入選「Splash!」
齊藤七実 (横浜市旭区 / 17歳 / 神奈川県立瀬谷高等学校 / 写真部)
生き物のような水とおかしなポーズの人物が一体化した奇妙な作品です。一見意味がないと感じられる行動は、なぜか人を引き付けます。指先が切れた未完成な画面構成に臨場感を感じました。
入選「空の街」
岡田莉花 (岐阜県関市 / 16歳 / 関市立関商工高等学校 / 写真部)
透明感と繊細さ、非現実的な雰囲気が漂うことから、新海誠監督の作品を思い出しました。自分たちが暮らしている街がリアルな世界なのか? 錯覚や疑問が浮かぶ不思議な作品です。
入選「厳冬を行く」
柳生陽音 (福井県越前町 / 16歳 / 福井県立丹生高等学校 / 写真部)
どこまでも真っ白な景色が続く奥行きのある風景。電柱を頼りに慎重に道を歩く姿に雪国の過酷さを感じたところで、作者自身が写る演出写真だと気が付きました。ドキュメンタリー的で面白いです。
入選「2つの世界」
永島凜音 (愛知県小牧市 / 17歳 / 愛知県立小牧高等学校 / 写真部)
住宅街のシルエットの中で、赤と青の2色が浮かび上がる美しい風景。他人とは交わらず、花火を楽しむ親子の様子はほほ笑ましくもありますが、寂しげにも見えます。コロナ禍らしい光景に見えてしまうのが不思議です。
入選「笑みがあふれる」
満間唯華 (岐阜県御嵩町 / 18歳 / 岐阜県立東濃実業高等学校)
切り抜きされた女性の画像、継ぎはぎされたお花の写真。適当な作りの仮囲いに注目してしまいました。コラージュと言い換えればアートになるかも? 皮肉な見方をせず、純粋に笑う2人が愛らしく感じました。
ここからは、惜しくも選外となった作品の中から、鶴巻育子先生が気になった作品をピックアップしてアドバイスします。
安全に産まれてきてね
池内菜摘 (香川県坂出市 / 16歳 / 香川県立坂出商業高等学校 / 写真部)
偶然出会った妊婦さんを撮影する行為が素晴らしいです。「もうすぐ産まれてくる赤ちゃんと散歩をしている若い女性を撮影しました」と、まだお腹の中にいる赤ちゃんの存在感を出したコメントも素敵です。お腹に触れた手元にお母さんの優しさを感じ、口元で切った構図はさまざまな想像が膨らみました。
光も良く、白い服も奇麗に写した露出もバッチリですが、背景をもう少し整理できていたら更にいい写真になったと思います。
暑い夏 (3枚組)
松本芽和 (愛知県愛西市 / 16歳 / 愛知県立佐屋高等学校 / 写真部)
1枚目は迫力ある雲が印象的。2枚目は大きく傾いた構図にクラクラします。3枚目はグラスの透明感が爽やかです。大胆で力強さを感じる組写真で、どの写真からも夏の暑さ、この季節の部活動の過酷さが伝わってきます。
夏らしい光を強調するためだったのでしょうか。強いシャープネスのプリントが気になりました。画面上では見映えするかもしれませんが、プリントの応募作品で見るときつく感じた美しさに欠ける部分もありました。不自然に見えないプリントを目指しましょう。
秋の実り (4枚組)
髙島孝仁 (福井県越前町 / 17歳 / 福井県立丹生高等学校 / 写真部)
落ちた植物を主役、樹木を背景にとユニークな撮影方法で春夏秋冬を表しています。鏡を用いたことで不思議な距離感が面白く作用しています。それぞれの色合いも工夫されており、鑑賞するのが楽しくなる作品です。
配置の仕方をより工夫し、背景のボケ具合や明るさを統一するなど、細かな調整をすると完成度が上がるでしょう。今後もこのシリーズを続けてほしいです。