『CAPA』本誌連動企画として毎月公開している、月例フォトコンテスト「学生の部」ピックアップ作品レビュー。今回は『CAPA』2022年7月号より、誌面に掲載された入賞作品に加え、全応募作品の中から審査員の鶴巻育子先生が目を留めた“気になる作品”をピックアップしてアドバイスします。さらなるレベルアップのためのヒントが満載です!
〈講評〉鶴巻育子
1席「変わらぬお正月」
玉村心優 (福井県越前町 / 17歳 / 福井県立丹生高等学校 / 写真部)
ただビンゴをしている風景ですが、写っている人それぞれの違った表情と仕草、演出写真のような人物の配置が面白い。瞬間を写し止めることで、その場が不思議な空間に変化します。「変わらぬこの日常を幸せに感じたので撮影した」とコメントする作者の温かな視線も素敵です。
2席「ハプニング」
岡田莉花 (岐阜県関市 / 16歳 / 関市立関商工高等学校 / 写真部)
写真家は浮遊物につい反応してしまうものです。過去の名作にも頻繁に登場したり、演出にも取り入れられたりしています。一瞬を写し止めることができる写真の面白さの一つですね。青空に白い帽子、そして白い砂浜と灯台の見事なコンビネーションが絵になります。
3席「摩天楼」
森 渓太郎 (神奈川県川崎市中原区 / 17歳 / 立正大学付属立正高等学校 / 写真部)
ニューヨークの街角のようなクールな風景です。ぼんやりとドラマチックに浮かび上がる高層ビルと、ストロボ光でくっきりと写る現実味ある信号機や標識の対比が面白く作用しています。モノクロ写真ならではの迫力と魅力が詰まった秀作です。
入選「本の世界の住人」
森田夏未 (埼玉県さいたま市北区 / 17歳 / 埼玉栄高等学校 / 写真部)
ミニチュア人形で本の中の登場人物を表現したユニークな作品です。本の曲線を生かしたことで物語に抑揚が生まれました。被写界深度を深くして人物のディテールをはっきりさせると、より良いでしょう。
入選「秘密事」
岩成一樹 (島根県出雲市 / 16歳 / 島根県立平田高等学校 / 写真部)
電信柱を中心にした大胆な画面構成。後ろ向きの人物、不気味な空模様など不穏な空気が漂う光景です。切り取り方とタイトルによって、何でもない風景がドラマになってしまう写真の不思議を感じる作品です。
入選「誘惑」
柳生陽音 (福井県越前町 / 16歳 / 福井県立丹生高等学校 / 写真部)
「蜜を吸うのを虫にじゃまされた瞬間」を美意識を働かせて捉えています。トンネル効果で主役が引き立つ構図と、淡いピンクと空色のバランス良い色合いで日本画のような印象を受ける美しい作品です。
入選「梅が香」
傅法千夏 (宮城県塩竈市 / 17歳 / 宮城県塩釜高等学校 / 写真部)
ゴッホが描いた梅の木が思い浮かびました。画質とプリントの質は良いとは言えませんが、エッジを強調した描写や強烈な色合いがとても印象に残りました。
入選「灯」
今泉日和 (愛知県豊川市 / 豊川高等学校2年 / 写真部)
ホラー映画に出てきそうです。着物姿の女の子がうつむき、光る何かをぶら提げているだけですが、写っている状況がわからないと余計に印象に残ります。窮屈な画面構成もインパクト大でした。
入選「健やかなるときも、病めるときも、うまが会う二頭」
サンセムサップ アンポン (岡山県岡山市 / 18歳 / 朝日塾中等教育学校 / Asahijuku Camera Team)
向かい合った馬の配置や奥行きがなくペタッとした描写、わざとらしい桜の花、不気味な空の表情など、すべてが嘘のようで違和感を覚えます。妙なタイトルも相まって気になってしまう作品です。
入選「稲刈りの日」(4枚組)
渥美満優子 (愛知県豊川市 / 豊川高等学校3年 / 写真部)
家族総出で行なう稲刈りで、末っ子に焦点を当てた組写真。生命力がありそうなイキイキした妹さんの姿も魅力ですが、その場のポジティブな空気感が伝わり、見る側を元気に明るくさせる作品です。
ここからは、惜しくも選外となった作品の中から、鶴巻育子先生が気になった作品をピックアップしてアドバイスします。
おばあちゃんの畑
河合理沙 (愛知県田原市 / 16歳 / 愛知県立成章高等学校)
作者の大好きな玉ねぎをおばあちゃんが一生懸命に育ててくれているそうです。素敵なエピソードです。
長く続く玉ねぎの列からかなり広い畑だと気づきました。奥行きを感じる構図と主役の玉ねぎが際立つ低いアングル、よく観察し撮影に工夫が見られます。
玉ねぎをより目立つように撮影した写真も見てみたいと思いました。またこの畑をテーマにさまざまな視点から捉えて組写真として作品づくりをしてみるのはいかがでしょう。
一限前
松川悠悟 (徳島県阿南市 / 16歳 / 徳島県立阿南光高等学校 / 写真部)
雪の日の駐車場の風景を俯瞰で捉えたことで、轍や人の足跡の痕跡が目立ちます。また、画面ほとんどが日陰の中で一部だけ陽が当たり丁度そこにカラフルな車が駐車されている偶然性も面白い風景です。
写真的に魅力ある被写体や場面が数多くありどれも入れたくなる気持ちはわかりますが、画面が散漫になってしまいました。トリミングやアングルの微調整で画面内を整理するとよいでしょう。
春の一日 (5枚組)
河俣杏実 (愛知県岡崎市 / 17歳 / 光ヶ丘女子高等学校 / 写真部)
京都の桜が満開になった日に町の様子をガラス越しにスナップした組写真。ガラスを一枚挟むことで被写体との距離を感じ、これらの情景をそっと見つめている作者の眼差しを感じます。また映り込んだ外の風景が重なり非現実的な雰囲気が加わったのも魅力です。
桜が咲いている風景を入れることで季節感や状況はよくわかりますが、説明的になり過ぎてしまったようです。映り込みの写真のみで構成するほうが、世界観がまとまったと思います。思い切って写真を省く作業をしてみましょう。