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CAPA月例フォトコン学生の部 ピックアップ作品レビュー【2023年1月号】

CAPA』本誌連動企画として毎月公開している、月例フォトコンテスト「学生の部」ピックアップ作品レビュー。今回は『CAPA』2023年1月号より、誌面に掲載された入賞作品に加え、全応募作品の中から審査員の公文健太郎先生が目を留めた“気になる作品”をピックアップしてアドバイスします。さらなるレベルアップのためのヒントが満載です!

〈講評〉公文健太郎

1席「Fade-Out」

遠山珠優 (横浜市瀬谷区 / 17歳 / 神奈川県立瀬谷高等学校 / 写真部)

1席「Fade-Out」
ニコン Z fc 16-50mm f/3.5-6.3 絞りF8 1/125 秒 ISO320 WB : オート (撮影地 : 神奈川県横浜市)

顔を覆った前ボケが、表情を消しながらも強くこの写真を印象付けています。顔を横線で消す=否定するともとれる表現が、被写体の手の仕草と相まって、被写体と撮影者の関係まで想像させます。前ボケをぼかし過ぎてしまいがちですが、適切な絞りで、この横線を強調できている。隣に並んだ椅子、大きめのシャツなど、写真全体で表現した素晴らしい作品です。

2席「夏の一日」(3枚組)

酒井彩葉 (愛知県岡崎市 / 15歳 / 光ヶ丘女子高等学校 / 写真部)

2席「夏の一日」(3枚組)
キヤノン EOS Kiss X10 EF50mm F1.8 STM 絞り優先オート F5.6 −0.3補正 ISO1600 WB : オート

3点の簡潔な組写真から、夏をめいっぱい楽しむ少年たちの響き渡る声が聞こえてきます。特に2枚目の写真の少年たちの姿勢が岩にも負けない力強さを持ち、カッコ良い。コントラスト高めのプリントによって組写真が説明的なものから、水飛沫や、少年の筋肉の動きを強調した表現に高められています。

3席「乖離」

近藤由唯 (横浜市瀬谷区 / 18歳 / 神奈川県立瀬谷高等学校 / 写真部)

3席「乖離」
リコー WG-70 絞りF4.2 1/800秒

自分の脚、影で描かれた脚、プール底のT字、水のゆらめき、それらが絶妙に相互し合い、浮遊感が見事に表現されています。これは実際に撮影者本人が浮遊しながらゆっくりと平衡感覚を失い、この不思議な感覚を感じたからこそ写ったものだと思います。ただカメラを構えるのではなく、表現したいことを自分自身が体で感じられているかどうかがとても大切ですね。

入選「秘密の放課後」

玉村心優 (福井県越前町 / 17歳 / 福井県立丹生高等学校 / 写真部)

入選「秘密の放課後」
ニコン D5100 18-55mm 絞りF16 1/250 秒 ISO400

狐のお面はよく登場しますが、どうしてもお面に頼って表現しがちです。この写真はしっかりとお面の主張を抑制して距離を取り、風になびくカーテンの質感や不揃いの机、西日の使い方など、周りの状況がしっかりと一つになった世界観を作ることができています。

入選「干し柿どろぼう」

伊藤芽生 (愛知県犬山市 / 17歳 / 愛知県立小牧南高等学校)

入選「干し柿どろぼう」
ソニー α6000 E PZ 16-50mm F3.5-5.6 OSS 絞りF4.5 1/80秒 −0.7補正 ISO125 WB : オート

思わず笑ってしまいました。良いタイトルですね。例えばこれがきれいな風船だったり、かわいい花だったりすると面白くなかった。シルエットになったシワシワの干し柿をこのやんちゃな目で、こっそり (?)取ってしまうというのがいいですね。干し柿が真っ黒にシルエットになっていることで、この状況の面白さが強調されました。

入選「秋晴の藁合戦」

上島和輝 (大阪府松原市 / 15歳 / 大阪府立生野高等学校 / 写真部)

入選「秋晴の藁合戦」
キヤノン EOS 7D Mark II EF-S18-200mm F3.5-5.6 IS 絞りF4 1/2000秒 +0.7補正 ISO250 WB : オート

縦位置写真は横位置写真に比べると情報を絞って見せる効果があります。切り取ることが難しい半面、うまく切り取れば伝えたいことが強く伝わります。飛散する藁の大きな動きと、お母さんの最高の表情、あどけない子どもの仕草、はさ掛けされた稲穂。実りの秋の幸せが凝縮されています。

入選「もう一度」

佐藤美空 (香川県坂出市 / 16歳 / 香川県立坂出商業高等学校 / 写真部)

入選「もう一度」
キヤノン EOS Kiss X10 EF-S55-250mm F4-5.6 IS 絞りF5.6 1/1000 秒 ISO200 WB : オート (撮影地 : 香川県坂出市)

運動会のひとコマ。こういう写真は構図の良し悪しなど技術的なことはどこかに置いておくのが良いです。転んでも立ち上がろうとする様を真っ直ぐに捉ているからこそ伝わってきます。つい撮影技術や表現を考えがちですが、私たちの周りには真っ直ぐに伝えるべき劇的なドラマがたくさん転がっています。いい写真です。

入選「水面下」

小池柊摩 (愛知県豊川市 / 愛知県立豊川高等学校 / 写真部)

入選「水面下」
Galaxy S22 Ultra 絞りF1.8 1/370秒 ISO12

夕日に照らされた廊下に現れた影。この写真の優れたところは間の取り方だと思います。幾何学的な形の影と廊下の反射に対して、壁のへりや天井の換気口、コンセントといった当たり前にあるものを切らずに入れたことで余韻が生まれています。

入選「貴方のとなりで」(3枚組)

小川結衣 (和歌山県田辺市 / 17歳 / 和歌山県立神島高等学校)

入選「貴方のとなりで」(3枚組)
キヤノン EOS Kiss X10 EF-S18-55mm F4-5.6 IS STM 絞りF8、F15、F8 1/60秒、1/800秒、1/1250秒 ISO400 WB : オート

プールで友人を撮影しながらも、写っているのはプールでも友人でもない。構造物と人として抑制を効かせて撮るチャレンジが良いと思いました。友人と撮影会をするのであれば、その場所で飽きるまで撮ってみる。そこから先に新しい表現が見えてきますね。

入選「オクラを生で食べさせにきたおばちゃん」(3枚組)

蔦原真奈 (和歌山県田辺市 / 16歳 / 和歌山県立神島高等学校)

入選「オクラを生で食べさせにきたおばちゃん」(3枚組)
キヤノン EOS Kiss X10 EF-S18-55mm F4-5.6 IS STM 絞りF5.6 1/1250秒、1/400秒、1/2000秒 +0.7補正 ISO200、ISO400

空にすっと伸びるオクラの立ち姿は不思議な存在感がありますよね。2枚目の写真はおばあちゃんとオクラに加え、その向こう側に置かれた軽トラックがハイライトのアクセントになっていたり、山の稜線が画面に動きを作っていたり、完璧な調和を感じます。仮にこの1枚を中心に考えるなら、1枚目、3枚目は必要だったでしょうか。

 

ここからは、惜しくも選外となった作品の中から、公文健太郎先生が気になった作品をピックアップしてアドバイスします。

職人

山岡 楓 (愛知県豊田市 / 15歳 / 愛知県立猿投農林高等学校 / 写真部)

職人
キヤノン EOS 8000D EF-S18-200mm F3.5-5.6 IS 絞りF4 1/80秒 ISO800

職人さんを撮ることに挑戦したとのこと。ナイスチャレンジです。一つコツがあるとすれば、まずは良い光を探しましょう。職人さんの作業を紹介するのではなく、年季の入った熟練の技が醸し出す雰囲気が伝わる写真が撮れる、かもしれません。横から見るのか、前から見るのか、よく探してみましょう。表情と手元がきっちりと見えることだけが良いとも限りません。チャレンジを続けてください。楽しみにしています。

祖母

竹本紘子 (三重県志摩市 / 17歳 / 皇學館高等学校 / 写真部)

祖母
ニコン F60 AF NIKKOR 35-80mm f/4-5.6 プログラムオート オリエンタル ニューシーガル400

モノクロフィルムでの撮影のようです。フィルム写真は独特雰囲気が出るだけではなく、デジタルカメラのようにパチパチと気軽に撮ることができません。だからこそ一枚を大切にできます。まっすぐな写真ですが、心がこもっているなと感じました。写真は目で見ているもの、心で感じていることをカメラの力を借りて写し取るものです。フイルムで撮ったり、マニュアルで撮ってみるというチャレンジは、一つの表現につながると思います。

野望 (3枚組)

稲田莉子 (和歌山県田辺市 / 16歳 / 和歌山県立神島高等学校 / 写真部)

野望 (3枚組)
キヤノン EOS Kiss X10 EF-S18-55mm F4-5.6 IS STM 絞りF10 1/800秒 +1.3補正 ISO400 WB : オート

妹さんをモデルにしての撮影。とても良い雰囲気をもってますが、すこし演じさせ過ぎてしまったように感じます。かっこいいのですが、もっと内面が映るといいなと思います。2枚目の写真では髪を大きく振っていますが、微かに見える表情がクールではなく固まって見えます。友人をモデルとする作品も多くありますが、演じるというのは写真を撮る以上に難しいものです。モデルさんの「らしさ」を引き出すために、一度、自分の中の「こう写したい」を捨ててみましょう。

またいつか (3枚組)

森本羽音 (和歌山県田辺市 / 17歳 / 和歌山県立神島高等学校 / 写真部)

またいつか (3枚組)
キヤノン EOS Kiss X10 EF-S18-55mm F4-5.6 IS STM 絞りF5.6 WB : オート

組写真は1枚1枚の出来栄えに加え、写真同士の相互作用を考えなければいけません。1枚目が2枚目につながっているだけではなく、その逆も成り立つことに加え、2枚同時、3枚同時に見てもそれぞれが必要な写真であるべきです。大切なことは「どの写真も欠かすことができないかどうか」考えることです。2枚目、3枚目の写真が単体としてはとても良かっただけに、組写真としては少し劣って見えました。