『CAPA』本誌連動企画として毎月公開している、月例フォトコンテスト「学生の部」ピックアップ作品レビュー。今回は『CAPA』2023年2月号より、誌面に掲載された入賞作品に加え、全応募作品の中から審査員の公文健太郎先生が目を留めた “気になる作品” をピックアップしてアドバイスします。さらなるレベルアップのためのヒントが満載です!
〈講評〉公文健太郎
1席「記憶の忘れ物」(4枚組)
森本莉乃 (愛知県豊川市 / 豊川高等学校 / 写真部)
コメント欄が白紙でしたので作者の真意はわかりませんが、妹が生まれたばかりの幼いお姉ちゃんの話のように読めました。こんなのいらないといって踏みつけられたぬいぐるみ、自分ではないものに向けられた母の笑顔、紙の人形を触る指、心にグサッと刺さりました。ストーリーを想像させる切り取り方、ぼかし方、光の使い方、素晴らしいです。
2席「せ~の!」
川﨑廉斗 (和歌山県田辺市 / 16歳 / 和歌山県立神島高等学校 / 写真部)
綱引きの最後尾。勝負が決した瞬間。目の前の仲間の足が地面から引きはがされ、綱の緊張が一気に解放される。綱から手が離れ、撮影者もともに尻餅をついてしまったような臨場感。撮影者が記録係ではなく、綱引きの一員になれたことで写真に強さが生まれました。
3席「夏のはじまり」
平松龍乃輔 (愛知県春日井市 / 16歳 / 愛知県立小牧南高等学校)
蛇口から滴る水の形、手の入り方。決定的瞬間とは程遠いタイミングでのシャッターも、手元が見えない構図も、完璧ではありません。でもこの写真には意味や感情を排除した世界が写っています。劇的ではない、渇いた表現もまた写真の面白さだと感じさせてくれます。
入選「足跡」(3枚組)
野々川琥碧 (大阪府吹田市 / 12歳 / 吹田市立古江台小学校)
お父さんと二人で散歩。お父さんといると怖いものはない。影と同じように気持ちも伸び上がる。雑踏の不安感が写った2枚目、それでも歩くという決意は点灯した青信号に込めたのでしょうか。ただ「歩く」といっても気持ちによっていろいろな姿がある。それを写真で示してくれました。
入選「相棒」
今泉日和 (愛知県豊川市 / 豊川高等学校 / 写真部)
バイクのタイヤが大胆に写され、黒がしっかりと締まり、かっこいい仕上がりです。これがスマートフォンでの撮影だというのが驚きでした。バイクに乗った男性の顔や金属の車体を見せず、乗り手の脚とタイヤだけを写したことで「走ること」にテーマを絞った視点が強く伝わってきます。
入選「過酷な参拝」
鰐渕真央 (新潟県長岡市 / 16歳 / 中越高等学校)
映画のワンシーンのような美しい光景です。赤い傘を差した人物が階段を上がって鳥居をくぐり、だいぶ上まで登ったタイミングでのシャッター。それでもしっかりと冷静に手前の山道や足跡を入れ、この人が歩いた時間をしっかりと表現することができています。
入選「初デート前」
山本多笑 (愛知県大口町 / 16歳 / 愛知県立小牧南高等学校)
窓辺に差す美しい光のもと、仲良し3人組の楽しそうな声が聞こえてくるようです。仲間を撮った応募作品の中には、どうしても演技に頼った写真が多く見られます。そんな中で自然なやりとりを捉えたこの写真のみずみずしさにとても引かれました。
入選「みがく」(3枚組)
森本羽音 (和歌山県田辺市 / 17歳 / 和歌山県立神島高等学校 / 写真部)
動きの速さをカバーするために感度を上げて撮ったことで出た粒状感、高コントラストな仕上がりが良いですね。人は皆、歯が生えてから毎日歯を磨きます。歯磨きが、人にとって欠かすことのできない「食べる」「寝る」に等しい行為であることを見事に表現しました。
入選「開花」
安藤咲奈 (愛知県豊川市 / 豊川高等学校 / 写真部)
曇り空にそびえ立つ造花のシルエット。この組み合わせもさることながら、左右対称に配置されたカーテンと窓枠がシルエットを閉じ込め、横に走るサッシが花の茎を分断しています。閉塞感や残酷さを持った世界に、渇いた花が伸びようとする力強さを感じました。
入選「反射の世界」
山本紘実 (神奈川県川崎市 / 16歳 / 神奈川県立川崎北高等学校 / 写真部)
橋の鉄骨に写った水の綾。ゆらゆらと揺れる動きの美しさが、静止画の中にしっかりと表現されています。硬い鉄骨の底面と側面、ボルトやつなぎ目といった構造物の変化が、綾が描く線の柔らかさを強調しています。プリントも美しかったです。