『CAPA』本誌連動企画として毎月公開している、月例フォトコンテスト「学生の部」ピックアップ作品レビュー。今回は『CAPA』2023年5月号より、誌面に掲載された入賞作品に加え、全応募作品の中から審査員の公文健太郎先生が目を留めた “気になる作品” をピックアップしてアドバイスします。さらなるレベルアップのためのヒントが満載です!
〈講評〉公文健太郎
1席「静寂」
廣畠大侍 (和歌山県田辺市 / 17歳 / 和歌山県立神島高校 / 写真部)
写真表現にとって最も大切な光。被写体に当たる光、背景の光、カメラに向かってくる光。それらすべてが見事にこの状況を面白くしてくれています。アイデアだけではなく、観察し、試行錯誤し、しっかりと作り上げる力があると感じました。画質の悪さも、現実離れしたこの世界観にぴったり合っていました。
2席「おるすばん」(4枚組)
杉山湊音 (愛知県豊川市 / 豊川高等学校 / 写真部)
飼い猫と過ごしたある日の午後。光をうまく使い、4枚の写真それぞれにしっかりと変化が付けられています。「猫=かわいい」という写真が多い中で、作者が写したのは「猫との時間」でした。目に見えない「時」という被写体を写し撮った素晴らしい作品です。
3席「17歳の私」
竹本紘子 (三重県志摩市 / 18歳 / 皇學館高校 / 写真部)
大人とも子どもとも見える。自信があるようにも、ないようにも見える。私ってなんだ? そのことを問うためにセルフポートレートに挑んだのでしょう。整った絵にするために引くのではなく、画面いっぱいにしっかりと写った作者の姿勢がかっこいい。プリントがもう少し締まると、さらに良かったと思います。
入選「Like a bird」
玉村心優 (福井県越前町 / 18歳 / 福井県立丹生高等学校 / 写真部)
見れば見るほどツボにハマる。独特の感性が光っています。直感的に切り取るセンスがいつも素晴らしい。人が鳥を捕えることはありますが、鳥に人が捕らえられているという、シュールさがたまりません。
入選「美脚」
中野 龍 (愛知県豊川市 / 豊川高等学校 / 写真部)
ハイコントラストのモノクロで影の面白さを生かしました。脚の影の使い方はもちろんですが、縞模様のように見える階段、シダ植物、レンガ、金属の手すりとそれぞれの要素が違う陰影で描かれていて、一枚の中に濃密に質感が詰め込まれています。
入選「成人」
平瀬碧咲 (愛知県小牧市 / 16歳 / 愛知県立小牧高等学校 / 写真部)
すごくストレートで目を引きました。入賞作品の中には、テクニックやオリジナリティーを発揮し、完成度の高い作品が並びます。でもこの写真のように、普通の光で、普通の構図で撮るほうが伝わることがあります。写真のために演出されたものではないお姉さんの純粋な大人への一歩が、しっかりと写っています。
入選「お散歩」
吉田希帆 (徳島県阿南市 / 16歳 / 徳島県立阿南光高等学校 / 写真部)
ハクセキレイでしょうか? 錆びたトタンの上をちょんちょんと跳ねている様子が目に浮かびます。小さな足元から出る音まで聞こえてくるようです。青色の錆びたトタンを美しい! と思ったことがこの写真につながりました。
入選「虚空」(4枚組)
植野さくら (和歌山県田辺市 / 18歳 / 和歌山県立神島高校 / 写真部)
組写真を組み上げるとき「想像を飛ばす」のがコツのひとつです。見る人が一枚の写真を見て、次にこういう写真が来るかな、と読めてしまっては面白くありません。足元、猫の目、雨粒、古い写真と一見関係がないものが並んでいるようで、外で遊べなくなった雨の日のつまらない時間を想像してしまいました。
入選「河岸にて」(4枚組)
庄子佑希乃 (仙台市泉区 / 16歳 / 宮城県泉高等学校 / 写真部)
金属とコンクリートでできた橋。その下に転がる自然の石。橋桁に描かれた落書きの線。どれも質感がとてもよく表現されています。ざらっとしているけれどそれぞれ違う。特に落書きの線には、描かずにはいられなかった若者の心の内が見えるようです。
入選「私の美脚」
梅村美空 (愛知県豊田市 / 16歳 / 愛知県立猿投農林高等学校 / 写真部)
二股に分かれた大根を大胆に切り取りました。体に見立てたとのことでしたが、可愛らしく撮るのではなく、生々しく撮り、プリントしましたね。あえて外したフォーカスと肌の白さがある種の怖さを演出しています。
ここからは、惜しくも選外となった作品の中から、公文健太郎先生が気になった作品をピックアップしてアドバイスします。
笑ってください
山本知佳 (福井県越前町 / 17歳 / 福井県立丹生高等学校 / 写真部)
勇気を持って話しかけて撮影させてもらったとのことですが、ここで大切なのは女性の笑顔は自然体のものではなく、撮影者との距離を感じる笑顔が写っているということ。ちょっとどう微笑んで良いのか、そんな不安も感じさせるからこそ、可愛らしく、愛おしく感じます。決して最高の笑顔が引き出せなくても、このあなたとの距離というのが大切です。これからもどんどん声をかけて撮ってみましょう。
僕の夏の思い出 (3枚組)
矢澤悠汰 (新潟県長岡市 / 16歳 / 中越高等学校)
夏休み。クワガタと仲良くなったの? と感じさせてくれるくれるところが面白いです。クワガタとの共作とでもいうのでしょうか。今回2席に選ばれた杉山湊音さんや、入選に選ばれた植野さくらさんの組写真を参考にしてみてください。組写真のストーリーの中に主人公がいるとしたら、主人公だけを写すのではなく、主人公の感情や、主人公が感じているその場の匂いや音が伝わる写真を入れてみましょう。
目 (2枚組)
谷渕瑛介 (愛媛県伊予市 / 17歳 / 愛媛県立伊予農業高等学校)
目の構造は鏡で見るととても不思議ですよね。明るさに応じて瞳孔が開いたり閉じたり、一言で白目といってもたくさんの血管が走っていたり。この目の不思議を、手の中に握られた何かのチューブに擬えたのでしょう。複雑な手のしわや形は白目や黒目と同じように不思議な質感を持っています。でも、肝心の目の中心は、置き換えるとするとチューブで良かったのでしょうか? 対比する場合、ただ見た目が似ているだけではなく、機能面まで掘り下げて考えてみると、より面白くなると思います。