『CAPA』本誌連動企画として毎月公開している、月例フォトコンテスト「学生の部」ピックアップ作品レビュー。今回は『CAPA』2023年9月号より、誌面に掲載された入賞作品に加え、全応募作品の中から審査員の公文健太郎先生が目を留めた “気になる作品” をピックアップしてアドバイスします。さらなるレベルアップのためのヒントが満載です!
〈講評〉公文健太郎
1席「マネージャー」
中村光里 (三重県伊勢市 / 18歳 / 皇學館高等学校 / 写真部)
野球部の女子マネージャーをモノクロフィルムで撮影したポートレートです。一見ありのままを撮ったようにも見えますが、美しい光が差し込む撮影場所、机の質感、道具の配置、ポージングと計算され、作り込まれています。一枚のポートレートから物語が浮かび上がってきます。マネージャーという縁の下の力持ちを舞台に上げ、スポットライトを当てた素晴らしい作品でした。
2席「attract」
酒向紗己 (愛知県小牧市 / 17歳 / 愛知県立小牧南高等学校)
1席に選ばれた作品とはまた違った雰囲気を持つポートレート作品。背景やモノで語るのではなく、振り向きざまの少女の表情だけで勝負しています。モデルとなった女子生徒も素敵ですが、この独特の雰囲気をすくい撮った作者の表現力に脱帽です。
3席「スローシャッター」(4枚組)
廣畠大侍 (和歌山県田辺市 / 17歳 / 和歌山県立神島高校 / 写真部)
さりげないショットの組み合わせですが、時間の経過を違った視点で描いている点が良かったです。特に4枚目の写真です。砂に埋もれた木端と人の足跡が、何層にも重なる時間の経過を表現しているようです。そして、その重なりは見惚れるほど美しいです。
入選「それぞれの思い出」
伊藤理音 (島根県出雲市 / 17歳 / 島根県立平田高等学校 / 写真部)
修学旅行でしょうか? 白い砂浜に学生服が映えます。作者が着目したのはグループごとに仕草が違うこと。面白いです。中央の少女は、どのグループに向かっていくのか、それとも一人なのか。出会った人といかに関係を作って生きていくか、そんな問いも感じさせてくれる作品でした。
入選「先へ」
木枝愛梨 (宮城県利府町 / 16歳 / 宮城県利府高等学校)
何げない作品のようですが、「人がいない」「誰もいない」という表現は実はとても難しいものです。奥に少しだけ見える木、手前の手すり、黒い階段。それらをあえて不安を感じるバランスで切り取ったことで、蝉の鳴き声だけが聞こえる、誰もいない夏が印象深く表現されています。
入選「滑走」
田原夢咲 (大阪府松原市 / 16歳 / 大阪府立生野高等学校)
すべり台を滑る少女。スピード感あふれる画面構成と、巧みなブレ感も素晴らしいですが、それ以上に少女の表情が良いですね。楽しさと、恐怖が一体になっています。右手が後ろに残されているのもこわごわ、という感じがして良いと思います。
入選「幸せの紡ぎ方」(4枚組)
今泉日和 (愛知県豊川市 / 豊川高等学校 / 写真部)
抜けるような青空の下、気持ちの良い風が吹き抜ける草原で楽しそうに遊ぶ子どもたち。ダイナミックな構図でありながら、シロツメクサがそれぞれの写真のポイントになっていてリズム良く写真が目に飛び込んできます。粗い質感は良いですが、もう少しきれいなプリントに仕上げると良かったです。
入選「春が来た」
福岡颯真 (愛知県豊田市 / 17歳 / 愛知県立猿投農林高等学校)
桜と仏像の顔。硬さや色といった質感がまったく異なる二つの要素が一体になって、不思議な世界を作っています。大胆に二つのモチーフを切り取り、観光名所の新たな表情を発見しています。日差しはあるようですが、モノクロームの柔らかな階調が生きています。
入選「絆」
松室茜里 (千葉県鎌ケ谷市 / 16歳 / 千葉県立柏の葉高等学校 / 写真部)
手と手を握るというと、握手が一番に頭に浮かびます。けれどもこれは合気道の試合中の一瞬を切り取ったものです。相手を倒すために握られた手に、どこか愛情のようなものを感じるのは、相手をリスペクトする合気道の精神の表れなのかもしれません。
入選「Thread of life」(3枚組)
山本知佳 (福井県越前町 / 18歳 / 福井県立丹生高等学校 / 写真部)
一見、気味が悪い、朽ちた世界を切り取っているようで、よく見ると生命の強さと、神秘が写っています。硬い金属の格子の隙間から懸命に伸びる植物。キノコの胞子。小さい命を捕まえた蜘蛛の巣は怖いほどに美しい。写真は一瞬を切り取るものですが、とても深い生命のストーリーが見えてきます。
ここからは、惜しくも選外となった作品の中から、公文健太郎先生が気になった作品をピックアップしてアドバイスします。
最高の仲間
鈴木杏奈 (愛知県豊川市 / 豊川高等学校 / 写真部)
祭りに集まる仲間がテーマとのこと。撮影された本人もこのチームの一因なのでしょうか? 友情の表現としてももちろんですが、時代が写っているなと感じられるところも良いです。ただ、テーマが仲間だとすると、やはりここに映る全員を等価に扱って写してほしかったです。手前に来ている男性だけではなく、後ろのメンバーにまでしっかりとピントが来ていればさらに面白い作品になったと思います。
パラソムニア (4枚組)
萩原 律 (和歌山県田辺市 / 17歳 / 和歌山県立神島高校 / 写真部)
夕暮れの散歩。傾く夕日に照らし出された風景はどこか現実離れしているようで魅了されました。日が傾くことで、色も、物の大きさもデフォルメされて写っていて、不思議と見入ってしまいます。特に2枚目の教会は、人の気配がなく、箱のような建物がぽっかりと浮き上がるように佇んでいて素敵でした。最後の少年も効いているのですが、表情に撮られていることが見て取れてしまい、それが残念でした。人の表情にはよくよく注意を払ってください。
爽涼
船戸こころ (岐阜県関市 / 17歳 / 関市立関商工高等学校 / 写真部)
少女がまるで水の中に泳ぐ魚のように見えてきます。シャボン玉はよく登場しますが、ここまでやり切ると既視感を裏切ってくれます。残念なのは、仕上げです。彩度が高すぎるせいか顔が赤く転んで、透明感ある少女の自然な表情の魅力が半減してしまいました。カメラの設定なのか、仕上げでのことなのか、彩度の調整はついやりすぎてしまい、麻痺してしまいます。少し上げるだけで十分だったと思います。