『CAPA』本誌連動企画として毎月公開している、月例フォトコンテスト「学生の部」ピックアップ作品レビュー。今回は『CAPA』2023年12月号より、誌面に掲載された入賞作品に加え、全応募作品の中から審査員の公文健太郎先生が目を留めた “気になる作品” をピックアップしてアドバイスします。さらなるレベルアップのためのヒントが満載です!
〈講評〉公文健太郎
1席「5月」(4枚組)
鈴木月渚 (和歌山県田辺市 / 和歌山県立神島高校 / 写真部)
漁港を撮った作品は毎月たくさん応募がありますが、この作品の良さは撮影者がまったく見えない点です。感動も、共感も、批判もない、ただそこにあるものを写真にしている感じが絶妙です。だからこそ、午前中の活気ある港にはない、ただそこにある、港の静かな時間を感じさせてくれます。自分を消すのがとてもうまいです。
2席「夕暮れの私」
福田浬央 (三重県伊勢市 / 18歳 / 皇學館高等学校 / 写真部)
皇學館高校の皆さんは毎月手焼きのプリントでの応募を続けてくれました。決してデジタルが劣っているわけではありませんが、やはり思いがこもった独特の存在感があります。この作品は光の演出もあり、大きなクマのぬいぐるみがまるで自分の限られた理解者であることを表現しているようです。
3席「エール」
熊坂瑞希 (愛知県豊川市 / 豊川高等学校 / 写真部)
応援席での一コマ。青い空にチアリーダーの真っ赤な衣装が揺れ、少女のとびきりの笑顔がはじけています。エネルギッシュで、ストレートな一瞬ですが、なによりその後ろの男子生徒のちょっと間が抜けた写り込み方が良いです。気持ちよく笑える、そんな写真になりました。
入選「企業秘密」
庄子佑希乃 (仙台市泉区 / 16歳 / 宮城県泉高等学校 / 写真部)
窓の映り込みと、透過して見える内部の風景が重なり、現実と非現実、過去と未来を錯覚で見せる不思議な作品になっています。この粒状感のある表現もテーマと合ってはいるのですが、全体的にプリントの質が悪く、もったいないです。用紙やサイズを変え、少し余白を付けて見せたら、印象は大きく変わったのではないかと思います。
入選「キラキラ」
柳田明日香 (徳島県阿南市 / 16歳 / 徳島県立阿南光高等学校 / 写真部)
岸辺から撮る海とはまた違う目線がいいなと思いました。船室から見ていることでローアングルになり、窓の汚れで光が拡散しています。このにじみのせいか、ただ美しいのではなく、心のフィルターを通して見た旅情が表現されています。どんな旅なのか、見る人の想像を広げてくれます。
入選「雨乞」(4枚組)
齊藤安漣 (福井県越前町 / 17歳 / 福井県立丹生高等学校 / 写真部)
雨降る神社の荘厳な雰囲気を、重厚な色調と微かな光で捉え、見事に表現しました。一枚一枚の完成度が高く、素晴らしい一方で、神社を撮るならここ、というありきたりな切り取りにとらわれてしまっているのが少しもったいないです。2 枚目のような独自の視点でほかの写真もまとめられれば、さらに良くなると思います。
入選「プリ機にひれ伏す」
野口治子 (愛知県愛西市 / 16歳 / 愛知県立佐屋高等学校 / 写真部)
落としてしまったのは小銭なのか、出来上がったプリントなのか。一大事ですね。日常の中にあるこのようなハプニング。本当は一番独創的な写真になるのですが、実は応募が少ないです。スマートフォンのカメラではあるものの、この状況の面白さがしっかり押さえられています。ぜひ日常のスナップを続けてください。
入選「デッキに輝く光」
橋本想宙 (愛知県豊田市 / 14歳 / 豊田市猿投台中学校)
空港の施設内に差す光。特に何か特別なことが起こっているわけでも、主人公がいるわけでもありません。それでも、なんでもないのだけれど美しい。そしてその美しさを、浅めのフォーカスで柔らかく捉え、美しいプリントに仕上げたことが素晴らしいと思います。
入選「双子コーデ?」
橋本悠宙 (愛知県豊田市 / 12歳 / 豊田市猿投台中学校)
自分たちの影を撮った作品は目にすることが多いですが、影の形に意識を配った作品が目立ちます。この作品は影の形よりも背景を大切にしています。傷だらけのアスファルトに影が映っていることで、仲が良さそうな二人にもいろいろな感情があることを、えぐるように表現しています。
入選「かくれんぼ」(4枚組)
田組夏凪 (和歌山県田辺市 / 16歳 / 和歌山県立神島高校 / 写真部)
「かくれんぼ」というタイトルで、顔の見えない少女が登場しますが、隠れているというより、作者が、自身の顔を探しているようにも見えます。「私は誰でしょう」そんな問いが作品に込められているようです。遮蔽物として自然現象である風や水のゆらぎ、植物などが絡んでいることで、作り物ではない、有機的な心の内側を想像させます。