『CAPA』本誌連動企画として毎月公開している、月例フォトコンテスト「学生の部」ピックアップ作品レビュー。今回は『CAPA』2024年1月号より、誌面に掲載された入賞作品に加え、全応募作品の中から審査員の鵜川真由子先生が目を留めた “気になる作品” をピックアップしてアドバイスします。さらなるレベルアップのためのヒントが満載です!
自分の素直な感情に向き合ってみてください
今回1席を獲得された宇井絢音さんの作品は非常に目を引きました。組写真としての構成がとても「うまい」のですが、技術的にというより本能でシャッターを押している印象を受けました。正しく上手に撮ることだけにとらわれず、自由な表現をしていたことが受賞の要因ではないでしょうか。
また今回初めて審査を担当して気になったのが、学校ごとに同じ被写体を撮った作品が多いことでした。どんなにいい作品でも、被写体や作風が同じ中からは一人しか選ばれません。写真に「課題」として取り組むよりも、撮ることを楽しみ、さまざまな工夫を仕掛けている、そんなことが伝わる作品が選ばれています。
テーマ選びは重要です。といっても難しく考えず、大切に思うことや興味のあることなど、ほかの誰でもない、自分の素直な感情に今一度向き合ってほしいと思います。
〈講評〉鵜川真由子
1席「募る」(5枚組)
宇井絢音 (和歌山県田辺市 / 18歳 / 和歌山県立神島高等学校 / 写真部)
大切な家族の写真。被写体の顔を見せないことで想像力をかきたてるなどよく考えられている一方で、ピントの曖昧さや構図の取り方に独特の “揺れ” があることが、かえって引っ掛かりとなり見る人を引き込みます。一枚一枚の写真が持つ力、組写真としての構成力、どちらも飛び抜けていました。
2席「伊達な水浴び」
竹内愛心花 (福井県越前町 / 15歳 / 福井県立丹生高等学校 / 写真部)
タイトルがとても秀逸です。モデルとなった先輩の表情がとてもいいですね。彼の顔に付いた水滴と宙を舞う雨粒が層となり、奥行きが感じられます。彩度を下げたカラー写真の質感を生かし、しっとりと幻想的な作品になりました。
3席「手筒奉納」(4枚組)
赤沼奏空 (愛知県豊川市 / 豊川高等学校 / 写真部)
五感を刺激する力強い作品です。どこか別の惑星にいるようなドラマチックな瞬間を表現しているなか、一枚目の写真だけが説明的になってしまったのがもったいなかったです。セレクトの際に「引き算」を心掛けてみてください。
入選「男だけの会話」
田中優那 (鳥取県鳥取市 / 12歳 / 鳥取県立鳥取聾学校 / 写真部)
同じシチュエーションでの作品がいくつかある中で選ばれた一枚です。構図の面白さが際立っていました。広角レンズを使って遠近感を出すことで迫力のある作品になっています。一体どんな会話が交わされているのか、とても気になりました。
入選「who?」
阿部七菜子 (川崎市宮前区 / 17歳 / 神奈川県立川崎北高等学校 / 写真部)
被写体となった少女の感情や、撮影者との関係性がミステリアスで気になります。汚れたガラスの向こう側に佇むことが、彼女の複雑な心理を描写しているようにも感じられました。モノクロにしたことで格子の作り出す模様が生きています。
入選「おじゃま虫」
吉原あぐり (愛知県小牧市 / 17歳 / 愛知県立小牧南高等学校 / 写真部)
友人のじゃまをする様子が個性的で、思わずクスッと笑ってしまいました。二人の関係性がユーモアたっぷりに描写されていて、学校生活を描いた作品が多い中で際立っていました。シリーズで見てみたい作品です。
入選「花婿を待つ」
野上健太 (川崎市高津区 / 15歳 / 神奈川県立川崎北高等学校 / 写真部)
花嫁の訴えかけるような眼差しが印象的な作品です。やや露出不足なので、光を効果的に使うことを意識すると良いでしょう。光は影が、影は光があってこそ生きてきます。目指すイメージに近づくよう、より磨きをかけてください。
入選「感染」(5枚組)
下浦茉侑 (和歌山県田辺市 / 17歳 / 和歌山県立神島高等学校 / 写真部)
自分の世界が出来上がっていますね。タイトルや作品の意図を尋ねてみたい作品です。アイデアを形にする技術は十分備わっているので、テーマ次第で作品としての質がぐんと上がるでしょう。さまざまな文化に触れ、引き出しを増やしてほしいです。
入選「陶酔」
鈴木杏奈 (愛知県豊川市 / 豊川高等学校 / 写真部)
スローシャッターという技術的な工夫をしたことで、自分の予想を超えた面白い表現になったと思います。まずは「やってみよう!」という姿勢が素晴らしいですね。写真を撮ることを楽しんでいるのが伝わってきて、とても好感が持てました。
入選「特別な日」(4枚組)
山岡瑚子 (島根県出雲市 / 17歳 / 出雲北陵高等学校 / 写真部)
お祭りを楽しむ人々の自然な表情をよく捉えていますね。街に溶け込み、心が動いた瞬間にシャッターを切っている様子が伝わってきました。引きで撮っている写真が多いので、一歩踏み込むことに挑戦してほしいと思います。
ここからは、惜しくも選外となった作品の中から、鵜川真由子先生が気になった作品をピックアップしてアドバイスします。
ピックアップ「自分の手で」(3枚組)
今泉日和 (愛知県豊川市 / 豊川高等学校 / 写真部)
粒子の粗いモノクロ作品の中でも、とてもインパクトがあって目を引きました。ただテーマと作品との間に隔たりがあるように思いました。キャプションやタイトルも表現の一部です。この場合は作品に合わせて硬派なフィクションにした方が良かったと思います。作品を客観的に見る作業は、その良さに気づくための大切な過程です。
ピックアップ「メランコリー」
飯塚真子 (島根県出雲市 / 17歳 / 出雲北陵高等学校 / 写真部)
作品に明確な意図がある場合は、表現の手段として技術を効果的に使う必要があります。モデルのメランコリックな表情が魅力的なこの作品は、逆光を上手に利用することでより印象的なポートレートに仕上げることができます。人物の露出が足りていないので、結果的にアンダーにする場合でも撮影の際には露出補正をしましょう。
ピックアップ「あの日あの時」(5枚組)
川﨑廉斗 (和歌山県田辺市 / 17歳 / 和歌山県立神島高校 / 写真部)
とても好きな作品です。被写体の見つけ方や距離の取り方が上手だと思いました。すごく面白いのですが、変顔のインパクトが強すぎて他の写真が弱く感じてしまったのが残念です。少年たちのキャラに委ねず、誰を撮っても面白い場面を捉えることができたら、それは撮影者のオリジナリティ−なので強力な武器となるでしょう。