『CAPA』本誌連動企画として毎月公開している、月例フォトコンテスト「学生の部」ピックアップ作品レビュー。今回は『CAPA』2024年2月号より、誌面に掲載された入賞作品に加え、全応募作品の中から審査員の鵜川真由子先生が目を留めた “気になる作品” をピックアップしてアドバイスします。さらなるレベルアップのためのヒントが満載です!
表現したいことの言語化も重要です
今回は1席と3席にポートレートが選ばれる結果となりました。カメラやスマートフォンの発達により多様な表現ができる時代ですが、やはり真正面から向き合ったオーソドックスなポートレートは強く、人の心を引きつけます。そのほかの作品でも、被写体と積極的にコミュニケーションを取っている姿勢はやはり評価したいと思います。
また今回は単写真の中にドラマが写し込まれた作品が多く、楽しく拝見しました。作り込んだもの、自然な写真のどちらにも、画面全体で表現するスケールの大きさを感じます。
応募作品全体に言えるのですが、タイトルや文章もすべて含めて一つの作品です。自分が表現したいことを言語化することは、それを見た人が作品を理解するためだけではなく、自分自身が作品と向き合うためにも大切な過程です。よく考えて丁寧に書くことをお勧めします。
〈講評〉鵜川真由子
1席「独」
安藤野々花 (愛知県豊川市 / 豊川高等学校 / 写真部)
少女の眼差しに強い意志を感じる、とても印象的なポートレートです。重厚なモノクロでの表現が美しく、強く引きつけられました。タイトルはこの見た目の印象によるものでしょうか。この場合は少女の実際のパーソナリティーを表現する言葉を見つけたほうが、本質に迫った作品となって、さらに良くなったのではないでしょうか。
2席「ふるさと」(4枚組)
田組夏凪 (和歌山県田辺市 / 16歳 / 和歌山県立神島高等学校 / 写真部)
テーマに頼ることなく独自の視点で世界を捉えていることが興味深く、つかみどころのない不思議な魅力のある作品です。被写体との距離感が絶妙で心地良さを感じます。ただし真ん中に配置する構図が多いように思うので、意識して変化をつけることで表現の幅が広がります。
3席「新入生」
青木美心 (三重県伊勢市 / 18歳 / 皇學館高等学校 / 写真部)
何でもない日の教室のひとコマなのですが、とても目を引きました。凛とした真っ直ぐなポートレートはとても潔く、新入生の初々しさがまぶしく感じられます。彼女の成長を一緒に見守っていきたくなるような作品です。
入選「思いのままに」
田中美羽 (千葉県松戸市 / 16歳 / 千葉県立柏の葉高等学校 / 写真部)
けん玉で遊ぶ少年のシルエットが描く曲線が、青空に映えて美しいですね。ボールが大きく写っていることで遠近感が狂い、写真自体がとても異質なものに思えて不思議な感覚に陥りました。とても躍動感のある作品に仕上がっています。
入選「間隙」
相原葵乃 (川崎市高津区 / 17歳 / 神奈川県立川崎北高等学校 / 写真部)
意味深なタイトルです。キャプションもよく考えて書かれていて、写真の世界にすっと入り込めました。二人の表情もとても良いですね。一枚の写真の中に物語があり、いくつものレイヤーが存在していて、見れば見るほど深みが増す作品です。
入選「団らん」
片桐歩乃美 (愛知県豊川市 / 豊川高等学校 / 写真部)
同じ空間にいながら、登場人物がそれぞれ交わることなく違う方向を向いて好きなことをしているのが面白く、写真を見る顔が思わずほころびます。真ん中に座る赤ちゃんを起点に広がっていくような構図を、一瞬で選び取れる感覚の良さに感心しました。
入選「なんだかんだで仲の良い2人」
柳生陽音 (福井県越前町 / 18歳 / 福井県立丹生高等学校 / 写真部)
優しい視線で見つめる作者と、心を許してありのままの表情を見せてくれるご夫婦の関係性がほほ笑ましく、心温まる作品です。背景にお店の様子が写り込んでいることや構図の取り方、光のバランスなど画面構成が非常に優れていて、作品の意図がしっかり伝わりました。
入選「ゴール」
畠山紗椰 (徳島県阿南市 / 17歳 / 徳島県立阿南光高等学校 / 写真部)
アンカー二人の必死の形相が、真剣勝負の緊迫感を伝えています。ゴールの決定的瞬間を捉えたとても迫力のある一枚です。そして主役二人の左奥に写っている、転んでしまった選手。とても残念ではあるのですが、彼の存在があることで、この写真のドラマがさらに奥深いものになりました。
入選「待ち伏せ」
小野遙香 (千葉県四街道市 / 18歳 / 千葉県立四街道高等学校)
待っている少女の向こう側に別の人物が向かってくる……。これから何が起こるのか? と想像させるストーリー性のある作品です。オールドレンズを使ったモノクロ写真という点も面白いです。何点か応募されていた中で最も作者のオリジナリティーが感じられる作品でした。
入選「海の香り」(4枚組)
丸山世梨加 (和歌山県田辺市 / 17歳 / 和歌山県立神島高等学校 / 写真部)
漁師さんたちとの距離が近く、ドキュメンタリーとしてとても優れた作品です。表情の捉え方や構図などの技術が素晴らしいです。ただ作品としてはよく見る題材であるため、ここに独自の視点で撮られた写真が加わると、組写真としての質がぐんと上がると思います。
ここからは、惜しくも選外となった作品の中から、鵜川真由子先生が気になった作品をピックアップしてアドバイスします。
ピックアップ「まなざし」(4枚組)
長沢未来 (愛知県豊川市 / 豊川高等学校 / 写真部)
一枚一枚の写真のインパクトが強く、写真の中の造形美に目を奪われました。ただし写真が抽象的なので、今回はブルーインパルスの撮影というより作者の心象風景としてアウトプットした方が、作品としてはしっくりきます。もっといろんなスナップ写真を見てみたいと思いました。たくさん撮って、より磨きをかけてほしいです。
ピックアップ「Tokyo night view」(3枚組)
清水蒼生 (さいたま市西区 / 15歳 / 埼玉栄高等学校)
闇夜の東京に浮かび上がるネオンの、文字の一部が欠けていたり、半分だけ浮かび上がるミッキーマウスといった、ちょっとした違和感がこの作品の魅力だと思いました。となるとレインボーブリッジは単体では美しい写真なのですが、ほかの2点とは方向性が違うため、組写真としてまとまりがなくなってしまったのが惜しかった点です。
ピックアップ「ファンシー」(4枚組)
横尾 凜 (和歌山県田辺市 / 16歳 / 和歌山県立神島高校 / 写真部)
可愛いだけではなくちょっと毒々しくもあり、とても好きな作品です。最初と最後の写真が特に良いですね。惜しい点は、ランダムに色を塗って無秩序を演出をしているのに、構図は左右対称できちっとしていたりと、どっちつかずになっているところです。画面からはみ出すくらい自由な表現ができれば、さらにいい作品になるはずです。