『CAPA』本誌連動企画として毎月公開している、月例フォトコンテスト「学生の部」ピックアップ作品レビュー。今回は『CAPA』2024年3月号より、誌面に掲載された入賞作品に加え、全応募作品の中から審査員の鵜川真由子先生が目を留めた “気になる作品” をピックアップしてアドバイスします。さらなるレベルアップのためのヒントが満載です!
完成した組写真は客観的に見直してみよう
今回の入賞はすべて人物を描写した作品という興味深い結果となりました。上位に入る作品には、作者の意図が伝わりやすいという共通点があります。画面の作り方やテーマ自体はシンプルなのですが、その中によく考えられた意味が込められているのです。
また多くの組写真に、一枚だけ異質な写真が混じっていたり、テーマと写真の内容が合っていないなどの特徴が見られました。とても惜しい! と何度も思ったのですが、それらは、ほんの少し要素やセレクトを変えるだけで、より良い作品になる可能性があります。完成した組作品をもう一度客観的に見直すこと、そしてそれがどう伝わるのかをよく考えるという習慣をつけてください。同じ写真でも、テーマやキャプションで伝わり方は変わってきます。作品を一番いい形で伝えることを意識してほしいと思います。
〈講評〉鵜川真由子
1席「カール」
佐野 碧 (千葉県流山市 / 17歳 / 千葉県立柏の葉高等学校 / 写真部)
なぜ糸をたくさん巻いているのか、こんなにも笑っているのか、理由はまったくわかりませんが、なぜか無性に引かれる強烈な作品です。タンスやコンセントから漂う生活感が日常のひとこまであることを物語っています。見ているこちらが笑顔になるほどのパワーを放つ、等身大の彼女の表情がとても素敵です。
2席「反対」
宇井絢音 (和歌山県田辺市 / 18歳 / 和歌山県立神島高等学校 / 写真部)
誰の記憶にもある、普遍的なものを写真に落とし込む力を感じました。多くを語るタイトルではありませんが、人の心に染み入る的確な言葉を選んでいるため、見る人が作者の核となる部分に届きやすい。そのためスッと作品の世界に入っていけるのでしょう。
3席「決意」
木村春奈 (福井県越前町 / 18歳 / 福井県立丹生高等学校 / 写真部)
静かな中に強さを感じる作品です。髪を結う仕草は気持ちを引き締める意味もありますよね。指先から緊張感が伝わってくるようです。非常によく考えられた構図で、一枚の写真にしっかりと物語が詰まっています。露出やピントの甘さが少し惜しいポイントでした。
入選「あなたのことが…」
山本知佳 (福井県越前町 / 18歳 / 福井県立丹生高等学校 / 写真部)
これは演出なのか事実なのか、どちらだろう? わからなくなるほど、彼をうっとりと見つめる彼女の表情が多くを語っています。フレームいっぱいに、ストレートに撮っているのがいいですね。彼の顔が見えないことで、想像力をかき立てられます。
入選「青春」
谷口悠真 (鳥取県倉吉市 / 13歳 / 鳥取県立鳥取聾学校)
少し憂いのある表情が印象的な少年のポートレート。光を上手に捉えていて、いい角度で人物の表情を浮き上がらせていますね。白い菊の花言葉は「誠実な心」などと言われていますが、モデルとなった彼の人柄を表しているのでしょうか。
入選「まなざし」
田中美羽 (千葉県松戸市 / 16歳 / 千葉県立柏の葉高等学校 / 写真部)
被写体となった彼の鬼気迫る表情に圧倒されてしまいそうな、とても強い作品です。ぐっと心が引きつけられました。ほかの田中さんの応募作にも独自の表現がありました。自分らしい感性を磨き続けてほしいと思います。
入選「さとがえり」(4枚組)
横尾 凜 (和歌山県田辺市 / 16歳 / 和歌山県立神島高等学校 / 写真部)
まるで家族かのような距離感まで入り込んでいるのですが、撮られている人がカメラを意識することなく自然体で写っています。関係の築き方が上手なのでしょう。作者の優しい視線を感じました。組写真としてのバランスもとてもいいですね。
入選「熱視線」
浦野愛理 (愛知県豊川市 / 豊川高等学校 / 写真部)
絵に描いたような見事なシチュエーションですね! たくさん並んだ女子たちの表情、シャッターを切るタイミング、構図や脚のブレ具合から光の向きまで完璧な一枚だと思います。走者のハヤト君はきっと素敵な人なんだな……と想像がふくらみます。
入選「夢を見ている」
中山あいり (新潟県長岡市 / 16歳 / 中越高等学校)
曇天の隙間から差し込む強い光がアクセントとなっていますね。一見、桜の下ではしゃぐ女子高生の爽やかな写真なのですが、特徴的なライティングによって、夢の世界のような不思議な空間に仕上がっているのが面白いです。
入選「もういーかい?」(4枚組)
高浜 蓮 (愛知県豊川市 / 豊川高等学校 / 写真部)
複数あった応募作品はどれも一貫して独自の表現方法があり、とても目を引きました。この作品は白と黒を効果的に使って画面を構成しています。一人の少年と向き合ったポートレートとも言えるでしょう。ご自身の作風を大切にしてほしいと思います。