『CAPA』本誌連動企画として毎月公開している、月例フォトコンテスト「学生の部」ピックアップ作品レビュー。今回は『CAPA』2024年5月号より、誌面に掲載された入賞作品に加え、全応募作品の中から審査員の鵜川真由子先生が目を留めた “気になる作品” をピックアップしてアドバイスします。さらなるレベルアップのためのヒントが満載です!
自分だけの大切なものをコツコツと積み上げよう
今回は卒業という節目を迎える人も多く、思い出を振り返って大切なものを見つめるといった作品がいくつか見受けられました。自分の経験やそこで感じたことに向き合うのは、作品制作においてとても重要な作業ですので、ぜひ今後の活動にも生かしてほしいと思います。その中で1席を獲得された川﨑廉斗さんの作品は、等身大の自分を表現していたことが評価につながりました。
そしてとうとう動物の作品が上位を獲得することとなりました。鈴木杏奈さんの「眠る動物たち」シリーズのように自分が面白いと思うものにこだわることで、一般的な価値観やほかの人とは違った、自分だけの世界が見えてくるのでしょう。実は大切なことは目の前にある。それに気づけた時にステップアップするのがわかると思います。それまではぜひ、コツコツと積み上げていってくださいね。
〈講評〉鵜川真由子
1席「日々」(4枚組)
川﨑廉斗 (和歌山県田辺市 / 18歳 / 和歌山県立神島高校 / 写真部)
日々の出来事を淡々と、しかし確信犯的な視点で切り取っています。劇的なことがあるわけではないけれど、そこには大切な「何か」が存在しているのですね。すべての写真の中にもう一つフレームがあることが心の窓のようにも感じられ、まるで作者の心情を表しているかのようです。
2席「雨の中の体育祭」(3枚組)
城間洸汰 (沖縄県沖縄市 / 17歳 / 沖縄県立美来工科高等学校)
いわゆる「体育祭らしい」写真ではなく、細部を捉えた視点が面白く、詩的かつ力強い作品になりました。滴る雨の雫や泥んこの靴から、その背景にあるドラマが想像できます。普遍的なテーマは見る人の思い出と結びつきやすいですね。
3席「ひととき」(3枚組)
鈴木杏奈 (愛知県豊川市 / 豊川高等学校 / 写真部)
なんとも優しい気持ちになる作品です。どんな猛獣も寝ている時は無防備で可愛らしいですね。作品づくりにおいて「こだわり」はとても大切な要素ですが、今回は動物の寝顔にこだわったことでこのシリーズが生まれました。さらに掘り下げてほしいと思います。
入選「いつもと同じ」(4枚組)
森田彩乃 (愛知県豊川市 / 豊川高等学校 / 写真部)
白と黒のメリハリのある画面構成が目を引く作品です。iPhoneでの撮影とは驚きました。カメラを構えるよりもより身近に気軽に写真を撮れるため、気負うことなく自由に撮っているところが良かったのではないでしょうか。
入選「In the mirror」
山本知佳 (福井県越前町 / 18歳 / 福井県立丹生高等学校 / 写真部)
空間の使い方、構図のバランスが良いですね。そして一枚の写真の中に2つの世界が同時に存在している、不思議な作品です。果たして今、自分はどちらにいるのか。いろいろな想像ができるため、人によって見え方の変わるのが面白いと思います。
入選「開放感」
片平舜也 (宮城県多賀城市 / 16歳 / 仙台市立仙台工業高等学校 / 写真部)
シャボン玉で遊んでいる様子がとてもインパクトがあり、目を引く作品です。コメントの中にあった「テンションの上がった友人が突然脱ぎ出した」というところが面白く、それによって作り物ではない、生の感情が写真の中に現れていたところが良かったです。
入選「河童と目が合う」
大里未礼 (東京都文京区 / 17歳 / 東京都立小石川中等教育学校)
自然体でとてもいいポートレートですね。真夏なのに涼しげに見えるのが不思議です。素朴な日本の原風景がまだ残っているのだと温かい気持ちになりました。ただし、河童を強調するならもう少し人物に寄ったほうが伝わりやすかったです。
入選「一歩前へ」(4枚組)
下浦茉侑 (和歌山県田辺市 / 18歳 / 和歌山県立神島高校 / 写真部)
イメージづくり、セレクト、構成、どれをとっても「うまい!」です。抽象的な表現で人物を匿名化したことで、多くの人に当てはまるメッセージになりました。ただそのぶん作者の存在が薄く、やや表面的な表現になってしまったのが惜しいところです。
入選「青春占い」
中山あいり (新潟県長岡市 / 17歳 / 中越高等学校)
教室で、学校生活の中の身近にある物を使って特別なシチュエーションを作り上げていることにユーモアを感じました。それでいて背景の煙や水晶の玉などに細かく気を配って画面を作っているためクオリティーの高い一枚となりました。
入選「夕暮れに黄昏れる」
榎橘志歩 (千葉市美浜区 / 16歳 / 千葉県立幕張総合高等学校 / 写真部)
空のグラデーションが美しいですね。構図のバランスがとても良く、シルエットでの表現として成功でしょう。一枚の写真の中でストーリーができ上がっていて躍動感が感じられます。偶然を捉える瞬発力が素晴らしいです。
ここからは、惜しくも選外となった作品の中から、鵜川真由子先生が気になった作品をピックアップしてアドバイスします。
ピックアップ「木々」(4枚組)
萩原 律 (和歌山県田辺市 / 17歳 / 和歌山県立神島高校 / 写真部)
光と影を捉えた重厚な作品で、神秘的でもあると思いました。そのためか石の仏像の写真が出てくるのですが、そこに違和感を感じました。作品を見る側は作者の意図を読み取ろうとするので「何となくいいかな」と思って組み込むと、テーマとは違う方向に誘導されてしまいます。木々の作品だけで十分に神秘性を表現できますから、意味を持たせるために違う写真を入れるのではなく、テーマそのものに磨きをかけてほしいと思います。
ピックアップ「大掃除」(3枚組)
稲石七彩 (愛知県豊川市 / 豊川高等学校 / 写真部)
大掃除の様子を手元のアップで表現するという、斬新な作品です。1枚目、2枚目、とインパクトのある写真が続きかなり引きつけられましたが、3枚目で種明かしがあり、現実に引き戻されてしまったところが惜しいポイントでした。ここは手元のアップで統一した方が作品としての訴求力があったでしょう。組写真はセレクト次第で見え方が大きく変わりますので、あれもこれも入れるのではなく「こだわり」を大切にしましょう。
ピックアップ「彩光地点。」
福田帆乃花 (横浜市泉区 / 15歳 / 神奈川県立横浜瀬谷高等学校 / 写真部)
タイトルにセンスの良さを感じました。赤い光に包まれた少女の瞳が美しいですね。絞りの効果を使った「ボカし」の技術もうまく使い、とても魅力的な写真に仕上がったと思います。ただ小さい画面ではよくわからないのですが、大きなプリントで見るとピント位置が曖昧だと感じました。「ボカし」を使う時はピントの正確さで印象が変わりますので、撮る時によく見るようにしてください。