『CAPA』本誌連動企画として毎月公開している、月例フォトコンテスト「学生の部」ピックアップ作品レビュー。今回は『CAPA』2024年6月号より、誌面に掲載された入賞作品に加え、全応募作品の中から審査員の鵜川真由子先生が目を留めた “気になる作品” をピックアップしてアドバイスします。さらなるレベルアップのためのヒントが満載です!
自分の感情を作品化するために必要なこととは
応募作品の中で最も多いキーワードに「孤独」や「不安」というものがあります。心の葛藤という曖昧なものは本人の主観でしかないため、本来は見せようとしても見せることはできないものです。それよりもしっかりと自分に向き合い、なおかつそれを客観的に描写することで、人の心の機微というものは自然と伝わるものなのだと知ってほしいと思います。今回1席を獲得された山本さんの作品はそれがきちんとできていたため、自分の感情を作品として昇華させることができました。
それと、もう一つ気になること。それは友達と一緒に撮影をしている人はモチーフや作風まで似るということです。そもそも作品制作というのは孤独な作業です。自分にとっての写真とはどういうものなのか、友達と離れて一人で考える時間も時には必要なのではないでしょうか。
〈講評〉鵜川真由子
1席 のぞき「め」(2枚組)
山本知佳 (福井県越前町 / 18歳 / 福井県立丹生高等学校 / 写真部)
自分が感じたことを自分のやり方で表現しているため、ほかの誰とも違う視点の作品になっていてひときわ目を引きました。「芽」と「目」のビジュアルの対比も面白く、一つのテーマを多角的に楽しめる奥深さがあります。怖いと感じるものに写真を通じて向き合う姿勢が、すでに表現者としてのあり方そのものだと思います。
2席「ドライブ」(4枚組)
松尾勇輝 (愛知県豊川市 / 16歳 / 豊川高等学校 / 写真部)
切り取るモチーフが独特で、狙っているのか、偶然写ってしまったのかもつかめないところに不思議な魅力を感じ、妙に引き込まれてしまいました。手ブレなどの技術面で気を付けた方がいい部分はありますが、ポテンシャルを感じる作品です。
3席「少女の希望」
蔦原真奈 (和歌山県田辺市 / 18歳 / 和歌山県立神島高校 / 写真部)
光が印象的なポートレートです。空間の使い方が大胆で、ハッとさせられます。差し込む一本の光の筋を見て「希望」と表現していることで、前向きな気持ちになれるところがとてもいいですね。後ろに写る窓の存在がやや大きく感じられたのが惜しかったです。
入選「二極化」(4枚組)
廣畠大侍 (和歌山県田辺市 / 18歳 / 和歌山県立神島高校 / 写真部)
深掘りしたくなる、意味深なタイトルが付いた不思議な作品です。理屈ではなく感覚に訴えてくるため、ミステリアスで刺激的。一つだけ気になる点を挙げるとすれば、すべての被写体が中央にあることでしょうか。もっと自由でもいいと思います。
入選「勝利への執着」
奥田 凌 (香川県多度津町 / 15歳 / 香川県立多度津高等学校 / 写真部)
額に光る汗と二人の真剣な表情が、勝負の真剣さを伝えてくれていますね。構図のバランスが良く、迫力のある画面構成になっていることで、単なる運動会の写真ではなく熱い思いがぶつかり合う真に迫った作品になったのでしょう。
入選「70年目のプロポーズ」
髙野大和 (岐阜県関市 / 17歳 / 関市立関商工高等学校 / 写真部)
まず70年という月日が前提としてあることで、深みが生まれました。お二人の演技がとてもチャーミングで可愛い作品です。ストロボを使って人物をしっかり写しているのですが、逆光が強すぎるため、もう少し日が沈んでからの方がより美しい情景になったと思います。
入選「Who is there?」(3枚組)
柳生陽音 (福井県越前町 / 18歳 / 福井県立丹生高等学校 / 写真部)
足とスリッパだけしか写ってないのに、光と影をうまく使うだけでこんなにもワクワクする写真が撮れてしまうことが素晴らしいですね。まずビジュアルの表現としての面白さがあり、さらに見る人に疑問を投げかけているようにも感じました。
入選「一心」(4枚組)
高浜 蓮 (愛知県豊川市 / 16歳 / 豊川高等学校 / 写真部)
断片的な描写での見せ方が秀逸な作品です。白と黒で表現する世界は静かで強い印象を与えます。特に防具の写真は造形的な美しさだけではなく、剣道という競技の精神性を表現しているようにも思えました。
入選「思い出せない」
加藤麗奈 (沖縄県沖縄市 / 16歳 / 沖縄県立美来工科高等学校)
クリストファー・ドイルの映画を彷彿とさせる、とても艶っぽくて美しい作品です。テーマやコンセプトも大切ですが、この作品のように美しいものを美しく撮るという写真の基本的な衝動を楽しむことをいつまでも忘れないでほしいと思います。
入選「初泳ぎ」(4枚組)
川﨑廉斗 (和歌山県田辺市 / 18歳 / 和歌山県立神島高校 / 写真部)
真冬の撮影にも関わらず水着やふんどし姿でたたずむ人々からは不思議と寒さを感じませんでした。写真の色味なのか、人々から感じるパワーのせいなのか、なぜだか異国の海のように見えます。ブラジルやキューバなど、南米の国が似合いそうな作風です。